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320話

「おら、おら、おら。もう少し楽しもうぜ、リゼ」


 リゼの名前を呼び、戦いを楽しむロッソリーニの猛攻に耐えきれず、徐々に押され始める。

 忍刀だけでは攻撃を防ぎきれず左手にクナイを持ち、両手で防御していた。

 一撃一撃が重い……腕力に体重の全てが乗るロッソリーニには敵わない。

 唯一、勝っていると思っていた敏捷性でも敵わない。


「ところでお前、有名な冒険者なのか?」


 戦闘中にも関わらず、呼吸を乱すことなくリゼとの会話を楽しむ余裕さえあるようだった。

 手加減しているとはいえ、久しぶりに自分の攻撃を耐える相手に出会った。

 他人にそれほど興味がないロッソリーニは、世間の情報に疎かった。

 質問されたリゼには会話をするような余裕がない。


「おいおい、無視はないだろう。なぁ、答えてくれよ」


 だが、リゼからの返事はない――いいや、出来ない。

 そんな時、観客の声がロッソリーニの耳に飛び込んでくる。


「宵姫! バビロニアをスタンピードから救った英雄だろう、頑張れ‼」


 リゼから視線を外して観客の方を見る。

 その一瞬、リゼは闘技場の中央へと移動しながら、別の場所で戦っている二人の戦況を確認したが、向こうも決着はついていない。


「宵姫? バビロニアをスタンピードから救った英雄?」


 ロッソリーニは剣を下ろして、観客の声援を聞いていた。

 観客も宵姫だと知ると、宵姫という声援が多く聞こえて来る。


「よく知らねぇが、やっぱり有名な冒険者じゃねぇか」

「有名かどうかは、私も分からないです」

「やっと答えてくれたか、じゃぁ、続きをしようか」


 剣を振ると、刃についていたリゼの血が宙を舞い床に飛び散る。

 ロッソリーニから目を離さないようにしていたが、一気に距離を縮めてきた。

 攻撃を再開したロッソリーニは、一段と早くなっていた。

 それでもリゼは必死で防ぐ。

 このままでは倒れるのも時間の問題だと思っていると、ロッソリーニ越しにもう一組の戦いに決着がついたことを知る。

 リゼは卑怯だと思いながらも、疲労困憊の勝者を倒そうという考えが頭を過ぎる。

 その視線に気付いたロッソリーニは、リゼは自分の獲物だと言わんばかりに立ちはだかる。


「それはないだろう」


 リゼの考えを読んでいたかのように蔑んだ目で見る。


「そろそろ飽きてきたな……じゃあ、もっと強くなって出直してきな」


 下からの斬り付けを後ろに下がって回避すると、ロッソリーニは間髪入れずリゼの腹に蹴りを入れる。


(しまった‼)


 激痛とともに宙に舞い、死に体となったリゼは闘技場の外まで飛ばされる。


(このままだと失格になる……)


 リゼは左手に持っていたクナイを闘技場に向かって投げる。

 床にクナイが刺さることを確認すると、何かを手繰り寄せる動作をする。

 もしかしたら、戦闘中に使用出来るとアラクネの糸を結んでいたクナイだったことが幸いした。


(間に合って!)


 体が地面につかなければ失格にはならない。

 明らかに間に合わないことは分かっていたが、リゼは一縷の望みに掛けて必死で糸を手繰る。

 そんなリゼの動作を見逃すロッソリーニではない。


(見えない糸? この武器と言い……忍か! ってことは、アラクネの糸だな)


 ロッソリーニは床に刺さったクナイを蹴り飛ばす。


「残念だったな」


 笑顔のロッソリーニが瞳に映り、アラクネの糸から張力が無くなった。

 そして、リゼは自分の敗北を感じたまま、地面に叩きつけられる。


「うっ‼」


 痛みと同時に叫ぶ。

 そして、追い打ちをかけるように目の前に『メインクエスト未達成』『罰則:いままで受けた罰則で一番望んでいない罰則』が表示される。


(一番望んでいない罰則‼)


 言葉の意味を理解すると、自然と『身体的成長速度停止』が頭に浮かんで来た。

 それに反応するかのように罰則の表示が変わる。

 頭に浮かんだ『身体的成長速度停止』に……。

 しかも、期間が表示されない。

 それは、つまり永久的に罰則が続く事を意味する。

 先程のロッソリーニのような力が欲しい――そして、この軽く非力な体に絶望していた。

 自分の強さを過信していた。

 簡単に本戦に出場できると思っていた。

 いいや、目標は入賞だった……それなのに入賞どころか、本戦にさえ出場することが叶わなかった。

 周囲から宵姫だと煽てられて、いい気になっていた報いだ。

 なによりもロッソリーニから逃げて、別の相手を倒そうと考えたことを恥じる。

 あの自分を軽蔑したロッソリーニの目が脳裏に焼き付いていた。

 もし本戦に進んでも、胸を張ってレティオールやシャルルに報告が出来ただろうか。

 敗因は自分の愚かさだ。

 見上げる闘技場がとても、とても高く感じる。

 もう、あそこで戦うことはない。

 リゼは悔しさと、自分の愚かさから涙を浮かべる……観客たちに見られないように腕で顔を隠す。


「大丈夫ですか?」


 時間にして一分程だろう、大会関係者が倒れたまま起き上がってこないリゼの状況を確認するため、声をかける。


「……はい、大丈夫です」


 腕で涙を拭い、気丈に振る舞い答える。


「出口はあちらになります」


 淡々と事務的に退場を促す。

 闘技場の上では、意識がなく倒れたままになっている参加者を闘技場から下ろす作業に取り掛かっていた。

 入場してきた場所に何人かが立っている。

 彼らが予選会を勝ち抜いて、本戦出場を決めた人たちなのだと分かったが、直視することは出来なかった。

 歩く度に体のあちこちに痛みが走る。

 控室に戻ろうとしていたリゼだったが、そのまま出口に行くよう促された。

 出口では何人かが集まって、仲間内で予選会の報告などをしていた。

 リゼもレティオールとシャルルを探す。

 少し離れた噴水付近で二人を発見する。

 出口近くは混雑しているので、比較的人が少ない場所で待っていたのだろうと、二人の所まで移動する。

 リゼの姿を見つけた二人が驚き、リゼに駆け寄る。


「リゼ。負けたの‼」


 レティオールの発言で、自分は本戦に行くから出てこないだろうと、思っていたのだと感づく。


「ゴメン。負けちゃった」

「別に謝ることじゃないよ。僕たちだって……ね」


 レティオールとシャルルは気まずそうに笑う。


「世界は広いってことよ。もっと、強くなればいいんだから。そうでしょ、レティオール」

「うん、そうだね。僕なんて開始早々に何も出来ずに闘技場から落とされちゃったんだから」


 落ち込んでいるリゼを元気づけようとするシャルルとレティオール。

 自分たちも悔しいに違いないのに、気を使ってくれていることに気付いたリゼは出来るだけ普通を装う。

 だが、そのぎこちない表情が余計に不安にさせていた。


「前衛職の本戦出場者のようだね」


 闘技場内から本戦出場者の名前を呼んでいた。

 当たり前だが、自分の名前を呼ばれることは無い。

 悔しい気持ちで、その声は耳に入ってこなかった――。 



――――――――――――――――――――


■リゼの能力値

 『体力:四十六』

 『魔力:三十三』

 『力:三十一』

 『防御:二十』

 『魔法力:二十六』

 『魔力耐性:十三』

 『敏捷:百三十五』

 『回避:五十六』

 『魅力:三十』

 『運:五十八』

 『万能能力値:零』

 

■メインクエスト




■サブクエスト

 ・ミコトの捜索。期限:一年

 ・報酬:慧眼(けいがん)の強化


■シークレットクエスト

 ・ヴェルべ村で村民誰かの願いを一つ叶える。期限:五年

 ・報酬:万能能力値(五増加) 

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― 新着の感想 ―
クエストのスキル厳し過ぎ つか不老になっちゃったのかよ
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