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319話

 最後に前衛職の予選会が始まった。

 リゼは最終グループで、レティオールは二つ目のグループで予選会に参加する。

 各グループに分かれて控室が用意されており、他のグループの様子などを観戦することも禁じられていた。

 これは後のグループの方が作戦を立てたりして有利になるため、公平性を保つための措置になる。

 控室まで聞こえてくる歓声と拍手で、各グループの予選会の様子が分かっていた。

 前衛職の予選会が始まって、二回目の大きな歓声と拍手が聞こえると、自然と控室では軽く体を動かす参加者たち。

 リゼも邪魔にならないように体を動かす。

 次の歓声と拍手が聞こえたら、すぐに自分たちの番だと分かっていたからだ。

 そして、その時は来る。


「前衛職第四グループの皆様、大変お待たせいたしました。会場まで御案内いたします。番号を呼ばれた方は控室を出て、闘技場に向かってください。くれぐれも前の参加者を抜かさないようお願いいたします」


 運営関係者の指示に従い、自分の番号を呼ばれるのを待つ。

 リゼは番号が呼ばれると、前の参加者の後を歩いていく。

すると、前方に大きな光が差しているのが見えた。

 あそこをくぐれば闘技場が……戦いが始まるのだと思うとリゼは緊張しているかのように生唾を飲み込んだ。

 予選会が始まるまでに暴力沙汰を起こせば“即失格”だったため、参加者たちは自分の中で暴れたい衝動を抑えていた。

 闘技場は自分の身長よりも高い位置にあり、階段を上ると円状の床が広がっていた。

 控室にいた人数全員が戦うには小さい気がしていた……床には多くの血痕や、乾ききっていない血が残っている。


「止まらないで進んでください」


 何度も同じ言葉で注意喚起している。

 それだけ、同じように足を止める者が多いのだろう。

 参加者たちは、自然と中央に集まっていく。

 闘技場から落ちれば失格となるからこそ、危険のある外周回りに立つ愚か者はいないが、リゼは中央よりも少し外周よりに陣取る。

 全員が上がると暫く時間があり、各自自分の立ち位置を確認の猶予があった。

 そして合図とともに、前衛職最後の予選会が開始された。

 誰振り構わずに近くにいる者を倒していく。

 相手がタンクだと分かると、もっと効率の良い相手に対象を変更する。

 最後に立っている二人であれば良いので、無理に体力を使う必要はない。

 弱ったところを他の参加者から攻撃をされる可能性があるからだ……が、手を抜いて戦っても倒されてしまう。

 リゼは持ち前の俊敏さで、攻撃を上手く避けながら戦う。

 本戦も頭に入れて、出来るだけ体力を消耗しない戦いを実践する。

 闘技場の中心から自分よりも大きな参加者が宙を舞い、闘技場の外まで飛ばされている光景が目に入る。

 かなりの強者がいるのだと思いながら、リゼは攻撃を回避しながらも倒せる相手は倒していくが、致命傷を与えることは出来ずにいたが、戦ってみてから初めて分かったことがある。

 名前こそ闘技大会だが、使う武器は普段使用している殺傷能力が高い武器だ。

 そう、つまりは殺し合いなのだ……すべては自己責任と参加受付の際に受けた説明を思い出す。

 怖気づいたのであれば、自ら闘技場の外に出て失格になれば良いだけの話だ。

 野盗とは違うため、リゼの剣が鈍る。

 悲鳴とともに、多くの血が飛び散り床模様の一部となる。

 倒れている者の命を奪うかのように武器を突き刺す。

 異様なのは観客も同じだ。

 殺戮を煽るように大声で叫んでいる。

 満席だった観客席に空席が目立つ。

 この現状をまともに観戦できなかった正常な神経の人たちが、胃からの逆流に席を立っていたからだ。

 戦いながらリゼはレティオールは大丈夫だったのかと心配になる。

 だがすぐに「今、考えても仕方ない」と目の前の戦いに集中する。

 数分後にはリゼも含めて立っているのは十人程度となる。

 常に周囲を気にしながら戦う必要があったが、一人だけ異様な強さの大男から他の参加者は距離を取りながら戦っていた。

 すると口裏も合わせていないのに、その大男を五人で攻撃をする。

 厄介な奴を先に潰しておきたいという思惑が一致したようだ。

 だが、囲まれた大男は気にすることなく、五人を迎え撃つ。

 一人、また一人と呆気なく倒れていく。

 五人倒れると、両手に一人ずつ掴んで戦っている参加者に投げつける。

 不意を突かれた者は倒れて、大男の餌食となった。


「弱っちいのが残っているな」


 逃げ回るリゼが標的にされる。

 倒れている者を掴んでリゼに投げつけるが、簡単に避けて反撃を開始する。


「早いだけじゃ俺に勝てないぜ」


 握っていた忍刀で切りかかった瞬間、リゼは上空へと飛ばされた。


(えっ!)


 痛みより先に驚きの感情が襲ってきた。

 何をされたのか分からず空中にいた……。


(このままじゃ倒される)


 リゼは強引に体の向きを変えて追撃してくる大男の攻撃をかわそうとする。

 だが空中のリゼに向かって、大男は落ちている武器を投げつけてきた。

 全てを回避することは出来ず、リゼは血を流しながら床に激突する。

 闘技場には自分を含めて四人しか立っていない。


(二人倒せば本戦出場……)


 簡単に人殺しが出来るだろう三人とリゼ。

 その差は埋めようがなかった。


「俺も武器を使うか」


 大男は腰に下げていた剣を握ると、切先をリゼに向ける。


「簡単に死ぬなよ」


 笑いながらリゼに切りかかる大男。

 他の二人は一対一で戦っている。

 つまり、この戦いの勝者が本戦出場できることを確信しながら戦う。

それは観客も同じだった。

 思っていた通り前衛職の戦いは血沸き踊る。

 しかも、今まで以上に残忍な戦いに観客は酔いしれていた。


「おいおい、逃げてばっかりじゃ本戦に残れないぞ」


 まるで遊びながら獲物を追い詰めるかのようだった。


(しかし、俺の攻撃がここまで当たらないとはな……そこそこ、面白そうな奴もいるってことか)


 大男は攻撃の手を休めることなくリゼに攻撃を繰り返す。

 端まで追い詰められて退路がなくなったリゼ。

 逃げるには左右に回り込むしかない。


「これで終わりだ」


 大男の剣を紙一重で避けると、リゼの頬から勢いよく血飛沫が舞う。

 それに気づかないかのように、リゼは大男の股に滑り込むと小柄な体格を生かして、そのまま大男の背後に回る。

 千載一遇のチャンスだと、大男の背中に蹴りを入れて場外へ押し出そうとした。


「痛くも痒くもないぞ」


 何事も無かったかのように振り返る。

 どうすれば勝てるかと考えていると、一瞬だけ大男から気が逸れる。

 それを見逃す大男ではなく逆袈裟切りで右脇腹をえぐるかのように切り上げるが、リゼが忍刀で咄嗟に防ぐ……が、力で抑えきれるわけもなく、そのまま飛ばされた。

 片膝をつき、立ち上がろうとすると真横から首を狩ろうと剣が飛んでくる。


「くっ!」


 忍刀を立てて首を守ると、先程と同じように飛ばされた。


「ほぉ~、俺の剣筋を二度も見切るとはね」


 不敵に笑う大男は剣を構えたまま、リゼへの追撃を止める。


「お前の名前は?」

「リゼです。それより、人に名前を聞く前に名乗るのが礼儀だと思いますけど」


 リゼなりに挑発をしてみる。


「面白れぇ、面白れぇよ。俺の名はロッソリーニだ。宜しくな、リゼ」


 大男の正体はリリア聖国が誇る虹蛇の一人、第七色“憤怒”のロッソリーニだった。



――――――――――――――――――――


■リゼの能力値

 『体力:四十六』

 『魔力:三十三』

 『力:三十一』

 『防御:二十』

 『魔法力:二十六』

 『魔力耐性:十三』

 『敏捷:百三十五』

 『回避:五十六』

 『魅力:三十』

 『運:五十八』

 『万能能力値:零』

 

■メインクエスト

 ・皇都アルブレストで闘技大会での入賞。期限:十日

 ・報酬:力(三増加)


■サブクエスト

 ・ミコトの捜索。期限:一年

 ・報酬:慧眼(けいがん)の強化


■シークレットクエスト

 ・ヴェルべ村で村民誰かの願いを一つ叶える。期限:五年

 ・報酬:万能能力値(五増加)

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