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314話

 レティオールからの思いがけない言葉。

 自分たちに遠慮して口に出さないだろうと思ったレティオールが、シャルルの言葉に合わせるようにリゼの背中を押す。

 そこまで鈍感ではないリゼは、レティオールの気遣いに感謝をする。


「ありがとう」

「ん、なにが?」


 惚けるレティオールを見て、微笑むシャルル。

 シャルルにもレティオールの意図は伝わっていたようだ。

 目の前には『皇都アルブレストで闘技大会での入賞。期限:十日』『報酬(力:三増加)』が映し出される。

 久しぶりに願ってもいないクエストに、リゼは心の中で喜ぶ。

 スタンピードでの活躍や、野盗や魔物の討伐、バーナム曲芸団で胸を借りた模擬戦。

 これら全ての経験が、リゼの自信となっていた。

 強くなっているという実感を得るには、良い機会だと闘技大会に挑むつもりだった。

 レティオールの言葉は嘘ではなかった。

 今の自分の実力を知るにはちょうど良い機会だと思ったからだ。

 闘技大会に参加することは、三人での決定事項となった。

 優先度の高い馬車の予約が出来る場所へと移動するため、冒険者ギルド会館を出る。

 大体の宿屋は空室があるというミユウの言葉を信じて、宿屋は後回しにした。


 馬車乗り場に到着すると多くの馬車が目に入る。

 半分以上が観光客が私的に所有する馬車なのは形状を見れば一目瞭然だった。


「あそこじゃない」


 受付という看板をシャルルが見つける。

 その前には既に二十人ほどの列が出来ていた。


「とりあえず、並ぼうか」

「そうだね」


 リゼたちは列の最後尾に並ぶ。

 屈強な男たちや、高価な法衣に身を包んだ冒険者たちは、見た目的に初心者パーティーのような三人を好奇の目で見ていた。


「お前たちは、どこまで行くんだ?」


 前に並んでいた男がレティオールに声を掛ける。


「アルブレストまでです」


 レティオールが答えると、男は仲間たちと目を合わせる。


「もしかして、闘技大会に参加するつもりか?」

「はい。三人とも参加するつもりです」


 男たちは大笑いを始める。


「止めとけ止めとけ。参加費の無駄だ」

「そうだとも。優勝するのは俺たちの誰かだからな」


 レティオールとシャルルが侮辱されたことに腹を立てるリゼだったが、気付かれないようにシャルルがリゼの腕を握る。

 それは「相手にしなくていい」とシャルルからの思いだった。

 シャルルの顔を見ると、いつもの笑顔を返してくれる。


(侮辱されたことより、私たちの安全を考えてくれたんだ)


 売り言葉に買い言葉……簡単に挑発に乗ってしまった自分の愚かさを後悔する。

 だが、この会話が発端となり事態が一変する。

 男が言い放った「優勝するのは俺たちの誰かだ」という言葉が周囲にいた血の気の多い男たちの琴線に触れた。


「お前たちこそ、止めておけ」

「そうだ。明らかに実力不足なのはお前たちも同じだろう」


 腕に覚えのある者たちだからこそ、自分たちこそ優勝するという自信があった故の行動だった。

 些細な争いが、すぐに殴り合いへと発展する。

 列の並びなど関係なく、向かってくる者は容赦なく暴力を振るう。

 リゼたちは巻き込まれないように、距離を取って様子を伺っていた。


「お前ら、何をやっている」


 他の観光客などにも迷惑が掛かっているため、誰かが通報したようだ。

 衛兵に拘束されて暴れていた者たちは連れて行かれる。

 すぐに何事も無かったかのように、誰もが会話などを始めるので、このようなことは日常的なのだろう。

 受付前にも列が出来ていたので、リゼたちも急いで列に並ぶと、一気に順番が早くなったことに気付く。


「なんか得したね」

「そうだね」


 リゼは二人が笑いながら会話をする姿を見て、自分がシャルルに止められず同じように喧嘩に参加していたら、この笑顔は見れなかった。

 自分のことであれば我慢は出来る……事実、今まで我慢をしてきた人生だった。

 仲間のことになると我を忘れてしまう。

 自分の嫌な面が露呈された気分だった。

 この先、自分の行動でレティオールやシャルルを危険に巻き込んでしまうかも知れない。

 リゼは不安な気持ちを抱えながら、二人の会話を聞いていた。

 

「はい、次の人」


 リゼたちの順番がくる。


「アルブレストまで三人御願いします」

「アルブレストね。明日の午後なら乗れるけど、どうする?」

「闘技大会の受付には間に合いますかね?」

「まぁ、ギリギリだろうね」


 闘技大会の受付は二日前までだと、冒険者ギルド会館に貼られていた紙に記載されていた。

 その後、大会の運営が開催準備をするからだろう。

 三人は顔を見合わせるが、答えは決まっていた。


「明日の午後でお願いします」

「はいよ。そこのお嬢ちゃんは故郷を見られるから、帰りにでも寄り道したらいい」


 お嬢ちゃんとはリゼのことだった。

 容姿からパマフロスト出身だと思われたことは間違いない。

 パセキ村に戻るつもりはない。

 それに同胞と呼ばれる人たちを探すつもりもない。

 多分、同胞というのなら、既に一番会うべき人には会った。

 その思いがリゼにはあったからだ。


「ありがとうございます。でも、私はパセキ村の出身じゃないんです」

「あっ、そうなのかい。これは失礼したね」


 受付の男は驚きながらも、リゼの言葉を信用していないように思えた。


「じゃぁ、明日の午後便で三人ね」


 受付の男はリゼたちに乗車予約の紙を手渡す。


「はい、次の人」


 自分たちが呼ばれた時と同じ言葉で、後ろに並んでいた人を呼ぶ。

 この言葉でリゼたちは邪魔にならないように、受付窓口から足早に立ち去る。


「次は宿屋だね」


 観光気分なのか、シャルルは上機嫌だった。

 宿が決まれば、以前から購入を考えている支援系魔法のブック(魔法書)を道具店を見て回りたいと考えていた。

 闘技大会への出場もあり、はやる気持ちを押さえられないでいたのだ。


 冒険者ギルドで聞いたミユウの助言通りに幾つかの宿を回る。

 一泊の宿が確保出来れば良い。

 今日中に町を見て回り、目ぼしい商品が無いかを確認して明日の午後にはアバントを出立する。

 宿泊費は大差ないので、三軒ほど回った先の宿で、リゼとシャルルの二人部屋と、レティオールの一人部屋を確保して町へと繰り出す。

 宿屋の店主は「最近、治安が悪くなっているので気を付けて」と忠告を受ける。

 ついさっき、馬車乗り場で乱闘騒ぎがあったこともあり、店主の言葉には信憑性がある。

 観光客の護衛は報酬がいいとも付け加えるように教えてくれた。

 冒険者ギルドで護衛のクエストが多かった理由が分かり納得する。


「お客さんは、パマフロスト出身かい?」

「いいえ、エルガレム王国出身です」

「そうなのかい。その容姿だと、パセキ村のことを知っている人なら勘違いするね」


 店主の言葉通り、ここアバントだけでも同じことを言われている。

 アルドゥルフロスト連邦に滞在する限り、何度も同じことを聞かれるのだと、リゼは覚悟する。



――――――――――――――――――――


■リゼの能力値

 『体力:四十六』

 『魔力:三十三』

 『力:三十一』

 『防御:二十』

 『魔法力:二十六』

 『魔力耐性:十三』

 『敏捷:百三十五』

 『回避:五十六』

 『魅力:三十』

 『運:五十八』

 『万能能力値:零』

 

■メインクエスト

 ・皇都アルブレストで闘技大会での入賞。期限:十日

 ・報酬:力(三増加)


■サブクエスト

 ・ミコトの捜索。期限:一年

 ・報酬:慧眼(けいがん)の強化


■シークレットクエスト

 ・ヴェルべ村で村民誰かの願いを一つ叶える。期限:五年

 ・報酬:万能能力値(五増加)

 

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