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313話

「ベルナデット!」


 執拗に質問攻めする様子が先輩受付嬢の目に止まり、ベルナデットは叱られる。


「申し訳御座いません。私は受付嬢の“ミユウ”と申します。対応させていただいたベルナデットは、なにぶん新人なので勝手が分からず御迷惑をお掛けいたしました」


 先輩受付嬢のミユウとともにベルナデットは頭を下げて、リゼたちに謝罪をする。


「全然、大丈夫ですよ」


 やる気が空回りしているだけなので、自分たちのせいで委縮してしまうことを避けるために、問題がないことを伝える。

 ミユウを安心させようと、ベルナデットを庇う。

 リゼたちの心遣いが伝わり、ベルナデットをそれ以上問い詰めることは無かった。


「クエストの受注でしたでしょうか?」

「いいえ。宿などの紹介をしてもらうつもりでした。今はアルブレストで開催される闘技大会について聞いていたところです」


 リゼの言葉で、ベルナデットが暴走して冒険者の問い合わせに対応できていないことを知る。


「そうでしたか」


 リゼたちへの対応を確認するとベルナデットに、どこまで説明をしたかを聞く。


「大体はベルナデットからの説明通りになります。詳しくはあそこに貼ってありますので、後で見ていただければと思います」


 ミユウの指さす方を振り返ると、冒険者ギルド会館の出入り口の扉横に紙が貼ってある。

 クエスト用紙と同じくらいの大きさだったので、入って来た時に気付かなかった。


「ありがとうございます。帰りにでも見てみます。アバントからアルブレストまでどれくらいかかりますか?」


 リゼはミユウに礼を言い、アルブレストまでの道のりを尋ねる。


「そうですね。馬車であれば三日程度です。歩きですと早くて七日、天候次第では十日くらいと考えた方が良いかと思われます」

「そうですか。定期運航している馬車はありますか?」


 ミユウの回答にレティオールが詳細な説明を求めた。

 アバントまで歩いて来た反省を生かす。


「はい。毎日、午前と午後に定員十名ほどの馬車が、それぞれ一台ずつ御座います。場所は……ベルナデット、地図を出して」

「はい!」


 ミユウの指示で町の地図を急いで出すベルナデット。


「国の地図も御願いね」 


 町の地図しか出さないであろうと思ったミユウは、この後の説明で必要になる国の地図を指すように補足の指示をする。

 受付カウンターに並べられた二枚の地図は思っていたよりも小さかった。


「このアバントには宿屋は多く御座います。観光でなく冒険者様のよく宿泊されるのは、この辺りの宿屋です」


 ミユウは町の地図の上で指をさすと円を描き、宿屋の場所を示す。

 観光客と冒険者とで宿泊施設が異なり、区画で分けられているようだ。

 大きな差は無いが、料金や食事付きなどの条件も宿屋によって異なるため、いくつかの宿屋を巡る方が良いと教えてもらう。


ブック(魔法書)スクロール(魔法巻物)を扱っている道具屋も教えてもらえますか?」

「はい。いくつかありますが――」


 シャルルの問いにミユウは親切に教えてくれた。

 説明を聞きながら、シャルルの気に入った物が見つかればいいとリゼは思う。


「リゼとレティオールは、もう聞くことは無かった?」

「私は大丈夫」

「僕も」


 説明を聞き終えたシャルルは自分の聞きたいことが終えたので、二人に問い掛ける。

 二人の言葉に頷き、ミユウとベルナデットに礼を言う。

 リゼたちの会話の途中で、ミユウはベルナデットがメモした用紙に目をやる。


(バビロニアから来られてスタンピードに参加した冒険者……リゼって‼)


 ミユウがバビロニアでスタンピードで活躍した宵姫だと気付く。


「失礼ですが、もしかしてリゼ様の二つ名は宵姫ですか?」


 周囲に配慮して小声で話すミユウ。

 宵姫という名に「どうして知っているのか⁈」と驚くリゼ。

 しかし、それよりも早くベルナデットが声を上げる。


「リゼ様が、あの宵姫様なのですか‼」


 人が少ない冒険者ギルド会館にベルナデットの声が響く。


「ベルナデット‼」


 すぐにミユウから叱られるベルナデット。

 しかし、受付嬢や居合わせた冒険者たちはリゼを見ている。

 肯定も否定もしていない状況なのに……と感じながら、静かに「はい」と答えた。


「大きな声を出して申し訳御座いませんでした」


 ミユウが冒険者ギルドを代表して、リゼたちに謝罪をする。


「その……どうして私のことを知っているのですか?」

「はい。ラバンニアル共和国から来られた冒険者様たちが話をされています。特に宵姫様ことリゼ様の活躍は凄かったと」


 噂が一人歩きしていることに恥ずかしくなるリゼ。

 実際にあった宵姫が自分だと知ったら、落胆する冒険者も多いだろう。

 それよりも先程から受付嬢の二人が自分たちのことを「冒険者様」と言っていた。

 地域により、冒険者の呼び名が変わるのだろうか?

 なにかむず痒いような感じで違和感があった。


「噂ではエルガレム王国に戻られると?」

「はい。その帰り道です」


 どこまで自分の情報が出回っているのかと、リゼは少しだけ怖くなる。


「エルガレム王国やラバンニアル共和国同様に、我が国アルドゥルフロスト連邦も御贔屓にお願いいたします」

「は、はい」


 有望株な冒険者とは、出来るだけ縁をつくっておきたい各国の冒険者ギルドの挨拶なのだろうと思いながら、リゼは返事をする。

 特にアルドゥルフロスト連邦は他国に比べて弱小国になる。

 ただでさえ、三国内でも争いが耐えないはか、他国との間で何かの火種で戦争になれば、あっという間に負けてしまう。


(……もしかして)


 リゼは何かに気付く。


「アルドゥルフロスト連邦には、傭兵という文化があるのですか?」


 傭兵のことをよく知らないリゼはミユウに説明を求める。


「そうですね。正確には此処アバントを領地に持つアルブレスト皇国のみでした。エドゥルプレスト国は連邦となってからは制度を取り入れたようです。パマフロスト公国に関しては存在しません」


 三国で一番大きく観光に力を入れているアルブレスト皇国。

 ここアバントと皇都アルブレストの名産であるエールが国の主な収入源になる。

 冒険者ギルドに登録したうえで傭兵という集団に席を置く者も多い。

 クランが名前を傭兵という集団に変えているだけだとミユウは教えてくれる。

 傭兵の集団もクラン同様に幾つか存在している。

 一番古い傭兵集団”ドラゴニウム”は、人員も四十人前後と一番大きい。

 名前の由来はドラゴンの内臓から極稀に生成される石”ドラゴニウム”に由来する。

 それに次ぐのが”ロッテン・エンジェル(腐った天使)”で人員は三十人弱になる。

 元は女神ユキノを信仰していたが、あまりにも理不尽な世界に嫌気が差して、無宗教のならず者が集まっているため、暴力的な集団なので、むやみやたら近寄らないほうが良いそうだ。

 他にもあるが、小さい傭兵団はドラゴニウムから仕事を請け負ったりしている関係が多い。

 地域により”竜”や”ドラゴン”と同じ魔物でも呼び名が異なる。

 クラン名などには古代から使用される文字が由来としている”竜”や”龍”などを使う。

 これはクラン名を登録する際に文字制限があるためだ。

 長い名称だと冒険者ギルドに却下される。

 ミユウから、いろいろとアルドゥルフロスト連邦についての説明を受けたことは、これからの旅に役立つを思い感謝をする。


「いろいろと有難う御座いました」


 対応してくれたミユウとベルナデットに礼を言うと、二人は頭を下げて応えた。

 帰り際に闘技大会の髪を確認する。

 大きく三部門に分かれており”前衛職”、”後衛職(魔法職)”、”後衛職(回復系)”となっていた。


「シャルルも出場できるね」

「う、うん」


 完全に自分には関係のないことだと思っていたシャルルは、まさかの出場に戸惑っていた。


「まぁ、参加するかも決めていないしね……まぁ、ゆっくり考えてみてもいいと思うよ」


 参加する事さえ決まっていないが、レティオールがシャルルの心情に感づいたのか、無理に参加する必要がないことを遠回しに言って安心させる。


「そうだね」


 まだ自分に自信のないシャルルが、どんな決断をしようともリゼやレティオールは受け入れてくれる。

 そんな甘い気持ちに気付いたシャルルは意を決して「出場する!」と決意を口にした。

 それを聞いたレティオールはリゼの顔を見る。


「闘技大会に出たいんでしょ。僕も出たいんだよね」


 と、表情を変えることなく話しかけた。



――――――――――――――――――――


■リゼの能力値

 『体力:四十六』

 『魔力:三十三』

 『力:三十一』

 『防御:二十』

 『魔法力:二十六』

 『魔力耐性:十三』

 『敏捷:百三十五』

 『回避:五十六』

 『魅力:三十』

 『運:五十八』

 『万能能力値:零』

 

■メインクエスト



■サブクエスト

 ・ミコトの捜索。期限:一年

 ・報酬:慧眼(けいがん)の強化


■シークレットクエスト

 ・ヴェルべ村で村民誰かの願いを一つ叶える。期限:五年

 ・報酬:万能能力値(五増加)


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― 新着の感想 ―
仲良くしてくれてた人たちになんの感傷もなく王都行き決めるくらいなのにクエスト後出しの闘技大会に寄り道ってキャラクターぶれすぎてないです?力を試して見たかったってあなた人のこと殺せないって少し前まで悩ん…
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