312話
ルラール村から五日、ラバンを出て八日目にして、アバントに到着する。
「案外、遠かったね」
「シャルルの我儘に付き合ったからだよ」
「レティオールだって納得したじゃない!」
やはり歩きでの丘超えはキツく、リゼたちが想像していたよりも時間がかかっていた。
ラバンで教えてもらった「アバントまで順調にいって五日前後」という言葉を甘く考えていたことに加えて、分かってはいたが馬車の快適さに速度は、歩きと比べるまでも無かった。
出来るだけ早めの休憩や、野営の最適な場所を見つけたら、無理せずに早めに移動を止めたことも影響している。
アバントまでの道中を歩いて移動することになったのは道中で、リゼとレティオールに比べて体力の無さが露呈したシャルルが「アバントまで歩いて行きたい」と申し出た。
リゼとレティオールは、はっきりと話すシャルルの提案を受け入れる。
強くなろうとするシャルルの意思を尊重した。
一つ目の丘を越えるとラバンニアル共和国とアルドゥルフロスト連邦の国境に差し掛かる。
特に何かあるわけではないが、国境を示す石碑があり、その横に木材で出来た案内板が立っていた。
進行先にアルドゥルフロスト連邦の名があり、引き返す方向にラバンニアル共和国の名。
なにも風景は変わらないが、母親の生まれた国だと思うと自然とリゼは心の中で呟く。
(お母さんの生まれた国とは少し違うけど……)
パマフロスト……正確にはパセキ村のあるパマフロスト公国のことだ。
これからも、自らの意思で訪れるつもりはない。
そういう意味では、アルドゥルフロスト連邦も含めて母親の国に来たと解釈した。
シャルルが意味もなく、両手を広げて体を回転させてはしゃぐ。
「アルドゥルフロスト連邦に入国!」
「まだ先は長いんだから」
シャルルは飛び跳ねてアルドゥルフロスト連邦に入国する。
レティオールの忠告が耳に入らないシャルルは、はしゃぎすぎてすぐに歩けなくなったことがあったのも、アバントに到着した今となっては良い思い出だ。
アバントの街はバビロニアとは違う賑わいを見せていた。
基本的に冒険者が多いバビロニアと違い、富裕層といわれる貴族たちが、アバント湖でも休暇を楽しんでいる。
観光客は多くの使用人を連ねて優雅なひと時を楽しんでいた。
富裕層相手に商売をする商人たちは言葉巧みに、貴族たちの足を止めようと話術を駆使していた。
店の奥では買い付けにきた商人と値段交渉をしている。
そして、明らかに場違いな冒険者のような集団が目に付く。
冒険者のようなと表現したのは、姿格好は冒険者っぽいのだが、雰囲気が冒険者のそれではない。
彼らが“傭兵”だと知ったのは、町の人たちの話が耳に入ったからだ。
アルドゥルフロスト連邦は三国が争った末に出来た国となる。
そのため、傭兵という文化が根付いている。
今でも一部の地域で些細な争いが起きることもあるため、アルブレスト皇国は傭兵を所持している。
騎士団のようなこともしているので、雇用しているのと同じだが、リゼにとって聞きなれない”傭兵”という言葉。
職業の一つだと思い、さほど気に留めることなく歩き続けた。
ただ、今回は少しだけ事情が違っていたことをリゼは知らなかった。
フォークオリア法国で内乱が起きるため、人を集めているのだと噂していたからだ。
その影響もあり、物価が高騰しているのだと商人たちは嘆く。
買い物をする傭兵たちは、体格な立派な冒険者を勧誘している。
クエストよりも楽して大金を稼げると、甘い言葉を囁いていた。
近くを通った時に聞こえた会話だけだったが、リゼは「そんなに都合の良い話など無い」と感じていたが、その誘い文句に興味を示す冒険者が一定数いることも事実だ。
見た目で戦力外と思われているのか、誰もリゼたちには声を掛けて来ない。
武具店や魔法を扱う道具屋も横目で見ながら、今夜の宿を探すことにする。
まずは冒険者ギルド会館に行き、情報を入手することにした。
冒険者ギルド会館に到着する。
中に入ると、クエストボードに多くのクエストが貼り出されていた。
何気なく見てみたクエストボードだったが、クエストの内容を見て驚く。
討伐系のクエストがほとんどないのだ。
採取系のクエストが一番多い。
聞いたことのないような物ばかりで、土地勘のないリゼにとっては入手場所まで、かなり遠いのかさえも分からないが、クエスト期間が長いようにも思えた。
何に使われているのか分からないが、需要があるからこそ、これだけのクエスト数なのだと考える。
そして、最近のクエストなのか新しい用紙で貼られた護衛クエストが同じくらいあった。
クエスト内容を確認すると、アバントに滞在している貴族などの護衛だった。
普通であれば、移動する時も護衛をつけているのに、わざわざ観光先で護衛を募集する意味がリゼには分からなかった。
「初めての冒険者様ですよね? 」
「はい」
受付嬢が声を掛けてきた。
午前中だったが、午後からの新規クエストの事務処理が終わって、手が空いたのだろうと思いながら、リゼは返事をした。
「お目当てのクエストはありますか?」
「いいえ。まだアバントに来たばかりなので、町を散策しようと思っています。おすすめの宿を教えていただけますか?」
「はい、大丈夫ですよ。あちらのカウンターで対応させていただきます」
受付嬢の胸には“ベルナデット”という名札と横に、もう一つ“見習い中”の札が付けられていた。
リゼたちはカウンターに移動すると、身分確認も兼ねて冒険者の証であるプレートを首から外して、ベルナデットに見せる。
ベルナデットは三人の冒険者ランクと名前を確認してメモを取る。
「皆さんは、どちらから来られたのですか?」
「ラバンニアル共和国です。バビロニアからラバンを経由してです」
「そうですか! バビロニアのスタンピードに参加されたのですか?」
「はい」
思ったよりも多い質問攻めを不審に思ったが、場所が違えばこういう冒険者ギルドもあるのだろうと質問に答え続ける。
「滞在する期間は長いのですか?」
「そんなに長くは滞在するつもりはありません」
「そうですか。十日後にアルブレスト皇国で闘技大会がありますが、もしかして闘技大会に参加するため立ち寄られたのですか?」
闘技大会という言葉に反応するリゼ。
その反応に気付いたベルナデットは闘技大会の話を続けた。
「賞品も出ますので、参加者は続々と増えているそうですよ。ここアバントでも、その話題で持ちきりです」
ベルナデットが嘘を言っているとは思っていないが、冒険者ギルド会館に来るまでの間に、そんな話は耳に入ってこなかった。
国を盛り上げるために、少し大げさに言っているのかも知れない。
「主催は領主様ですか?」
「違いますが、少しは正解です」
「少し?」
「はい。主催者は領主様でなく皇太子様になります。ですが、企画発案と賞品を用意したのは、別の方と聞いていますね」
「別の方?」
「私たちのような冒険者ギルド職員には、これ以上は分かりかねます。詳しくはアルブレストに行かれれば分かるかと思います」
下っ端の冒険者ギルド職員だから、これ以上聞いても知らないということを伝えていた。
「賞品ってなんですか?」
シャルルが食い気味に話に割り込んでくる。
「入賞者? 三位までは豪華な賞品はあるらしいですよ」
ベルナデットは、賞品が何かを知っていて教えないのか笑顔で応える。
リゼは闘技大会に興味を示すが、自分の思いで二人を連れまわすのは……と考えていた。
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■リゼの能力値
『体力:四十六』
『魔力:三十三』
『力:三十一』
『防御:二十』
『魔法力:二十六』
『魔力耐性:十三』
『敏捷:百三十五』
『回避:五十六』
『魅力:三十』
『運:五十八』
『万能能力値:零』
■メインクエスト
■サブクエスト
・ミコトの捜索。期限:一年
・報酬:慧眼の強化
■シークレットクエスト
・ヴェルべ村で村民誰かの願いを一つ叶える。期限:五年
・報酬:万能能力値(五増加)




