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308話

 リリア聖国にある薄暗い部屋で、不機嫌な表情を浮かべて座た老人が座っていた。

 彼の名はブライト。

 虹蛇第一色“傲慢”の座に就く者。

 その前で怯えるように膝まづく者たち。


「それで、どうだった?」

「はい」


 鋭い眼光でに睨まれた部下たちは委縮して言葉を詰まらせる。


「どうだったんだ‼」


 報告をしない部下を恫喝するブライト。


「も、申し訳御座いません」


 部下が早口で謝罪をして、調査報告を始めた。

 調査の内容は、銀翼メンバーの生存についてだった。

 教皇の前では一旦は納得して引いた素振りを見せたブライトだったが、オプティミスの言葉に不信感を抱いていた。

 というよりも、同じ虹蛇のオプティミスを信用していない。

 つまり、オプティミスの報告を信用に値しないと判断したブライトは自信の配下を使い、独自で調査をする。

 現地に到着した部下たちは、エルガレム王国の冒険者たちも洞窟の調査をしていた。

 そのなかに天翔旅団のリーダーであるオルビスがいたため、到着後すぐに調査を始められなかったと話す。


「エルガレム王国でも、最強の冒険者と名高いオルビスが?」

「はい」

「目的は、銀翼メンバーの救出か?」

「そこまでは分かりませんが、洞窟を探索していただけのようにも思えます」


 オルビスと同行していた冒険者たちは長時間滞在せずに洞窟を去ったので、調査を終えたと思っていた。


「その中にアルベルトたち銀翼の奴等はいたか?」

「遠くから確認しましたが、それらしい人物が洞窟から出てきた気配はなかったです」

「……続けろ」

「は、はい」


 洞窟内は魔物の数はオルビスたちが討伐した影響もあり少なかった。

 ただ、奥に進むにつれて異臭が強くなることから、何かしらの死体があることは明確だ。

 迷うことなく奥まで進むと岩に突き当たる。

 空気が埃っぽいことから、土煙の影響なのだと思い周囲を見渡す。

 事前に聞いていた情報から、この先が目的地だと分かっていたが岩を破壊して進むしか方法は無いように思えた。

 岩を破壊せず、別の道が無いかと洞窟の中や、洞窟に入る別の入り口などを探したが見当たらなかった。


「そんなことはどうでもよい。簡潔に報告しろ」

「申し訳御座いません」


 一向に話が進まない報告に苛立つブライト。

 怯えながら謝罪をする部下は、洞窟崩壊の危険性をあったが、塞いでいた岩を破壊して人が通れるほどの穴を空けて侵入したことを早口で報告する。

 そこには多くの骨に腐敗した死体が床一面に広がり、奥に大きな魔物の死体が二体横たわっていた。

 腐敗しているとはいえ、その形からもコカトリスだと離れていても一目で判断できた。

 この中で生存者がいるとは考え辛いと思いながら、脱出できる箇所がないかを探す……が、人が抜け出せるような穴は見つからなかった。

 銀翼のメンバーたちの容姿や武具なども事前調査済なので、それを目印に腐敗している死体を判別していく。

 いたる場所にポーションかマジックポーションの空瓶が転がっていることや、削られた地形などから戦闘の激しさを感じていた。

 間近で嗅ぐ異臭に、辛うじて人だと分かる骸を退けながらの探索は長く続かない。

 集中力も低下していく――。


「あった!」


 仲間の一人が大声を上げる。

 資料に会った帽子とマント……魔術師のササジールの遺品だと確信する。

 その辺りを重点的に調べると、他の場所よりも多くの空瓶が見つかった。

 そして、ローガンやミランの破損した武器も発見された。

 だが肝心のアルベルトの武具などが見つかっていない。

 腐敗臭が酷いコカトリスの周囲は意図的に避けていたが、意を決して飛び込んでいくと、コカトリスの足元に銀翼の印が刺繍されているマントの切れ端を発見する。

 アルベルトの物で間違いない。

 これで異臭漂う洞窟から出られると喜ぶ者をいたが、これだけでブライトが納得するとは思っていない。

 仲間に探索を続けるよう説得する。

 ブライトの性格や恐ろしさを知っているため、その言葉に納得して探索を再開した。


「な、なんだ!」


 突如、地面が揺れた。

 同時に上から岩が振って来る。

 この場所を捜索の際、強引に岩を移動させたことが原因だと考えることなく、崩壊を危惧した部下たちは、この場からの脱出を図ろうと入ってきた場所を見る。

 狭い出入口のため、一気に脱出は出来なかったが幸運にも全員が脱出をすることが出来た……が、異臭が漂っていた場所には多くの岩が降り注ぎ、下敷きとなった死体は激しく飛び散り空気の流れを作り出すと耐え切れなくなり、その場から一目散に逃走した。

 出口までの道のりも崩壊が続く脱出――。


 激しい息切れを死ながら、仲間を確認する。

 運よく誰一人欠けることがなかった。


「これ以上は無理だな」


 遠くから洞窟を見ると入り口も岩で塞がれる。

 地震などでなく、洞窟内だけの崩壊のようだった。


「以上が報告になります」


 説明を終えた部下は探索で手に入れた物をブライトに渡す。

 渋い表情のブライトは、受け取った品々がアルベルトたち銀翼が死んだという証拠にはならない! と結論付けていた。

 だが、逃げ出す場所はなかったという部下の証言を疑ってはいない。

 それにオプティミスの報告では、転移魔法のスクロール(魔法巻物)を使用した形跡はなく、予想される転移先に一定期間の監視をつけて確認したことも疑う余地はなった。

 部下たちから銀翼の遺品を受け取ると、銀翼の印が刺繍されているアルベルトのマントを凝視する。


「間違いない……か」


 不満そうに呟き、近くにあった箱に受け取った遺品全てを仕舞う。


「御苦労だった。もう行ってよい」


 部下たちに言葉を掛けて、部屋から追い出す。

 一人になると顎髭を触りながら、遺品を仕舞った箱を見る。

 オプティミスの言動を思い返しながら、もう一度不審な点が無かったかを考える。

 そして、ジャンロードの生意気な態度、反抗的なエンヴィーに、命令の意図を理解しないで勝手に暴れるロッソリーニとアランチュート。

 目の前にいない他の虹蛇メンバーの幻影を目の前に出現させる。


「いつの世も若造が私を出し抜こうと考えるのは、無謀というものだな」


  懐かしそうに顎髭を触り語る。


「本当に信用出来るのは、今も昔もお前だけのようだな」


 虹蛇最後のメンバーであるプルゥラの幻影に語り掛けた。

 そして続けて、気だるそうにプルゥラ以外の虹蛇に視線を向けて宣戦布告をする。


「いずれ、思い知らせてやる。虹蛇創始者であり、最古のメンバーであるこの私の手でな」


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