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307話

「此処か……」


 洞窟の入り口を悲しそうな目で見つめる冒険者。

 彼の名はオルビス。

 エルガレム王国の王都エルドラードで最強と謳われるクラン天翔旅団のリーダーだ。

 冒険者ギルド職員とクランの仲間たちとエルドラードを出立した。

 目的は自身のランクSへの昇級試験だ。

 しかし、この場所は試験会場ではないし、試験内容に関係する場所でもない。

 ただ、友人たちが消息を絶った場所というだけだ。


「オルビスさん。中に入りますか?」


 同行していた仲間の一人がオルビスに話しかける。

 時折、洞窟内からの風が異臭をまとっていることもあり、確認をしたのだとオルビスは分かっていた。


「これは俺の勝手な寄り道だ。お前たちを突き合わせるつもりはない」

「またまた。オルビスさんが行くのなら、俺たちも行きますよ」

「そうですよ! そのために同行しているんだし、成長するためには格上の魔物とも戦わないといけないですしね」


 同行した仲間たちは、臆することなくオルビスと行動を共にする

 銀翼館で「洞窟に入るつもりはない」と言ったのは噓だった。

 危険があるかも知れないが、出来る限り現場の状況を確認することが、アルベルトの手紙に応えることだと感じていた。


「私たちも、洞窟の中を確認させていただきたいので、同行させていただいて宜しいでしょうか」

「危険だけど、いいのか?」

「はい。王都三大クランであった銀翼がクエストを失敗した。その理由が分からなければ、同じことが起きる可能性もあります。それは冒険者ギルドとして見過ごすことが出来ません」


 冒険者ギルドの職員たち三人の目は決意に満ちていた。

 指名クエストとはいえ、発注したことによる罪悪感……いいや、失敗する確率が低いクエストを失敗させてしまった発注側の責任を感じているのだと思い、職員たちの決意を受け入れる。

 見張りとして、数人を入り口に留まるように指示を出す。

 そして、洞窟に入って行く仲間に冒険者ギルド職員を守るように追加で指示をする。


「行くぞ!」


 オルビスの言葉で、洞窟に侵攻する。

 洞窟特有の湿気に鼻を突く腐敗臭を不快に感じながら進む。

 分かれ道も多くないため、迷うほどでもない。

 腐敗臭に引き付けられたのか、元々生息していたのか分からないが魔物と遭遇する確率も高く、何度も戦闘することになるが、たいした強さの魔物ではない。

 銀翼の実力であれば、簡単に討伐できる魔物たちばかりだ。


「……行き止まりか」


 明らかに崩落したと分かる岩。

 本来は道があり、この先にアルベルトたちがいるのだと確信する。


「岩を除けますか?」

「そうだな……慎重にな」

「はい」


 岩の撤去作業中に、崩落が起きる可能性もある。

 一つ一つを慎重に撤去していく。

 岩の隙間から鼻をつく異臭。

 洞窟に入って来た時とは比べ物にならない。


「危ない‼」


 硬い岩を砕いた瞬間に今までの苦労を笑うかのように、これ以上は進ませないかの意志があるかのように崩れる。


「悪かったな。これ以上は危険だ。引き返そう」


 自分の我儘で仲間を危険に晒すわけにはいかないオルビスは決断した。

 クランの仲間たちもオルビスの気持ちが分かっているだけに、指示に従う。


 洞窟を出ると再度、入口を振り返る。

 もし、アルベルトたちが死んでいたら、遺品を持ち帰ってやろうと考えていた。

 生死不明だと、心の整理が出来ないままになる。

 その辛さはオルビスは痛いほど知っていたからだ。

 クランは違えど、天翔旅団の冒険者たちもオルビスと同じ気持ちだった。


「ちょっといいか?」


 オルビスは同行していた治癒師と回復魔術師を呼ぶ。


「お前たちは、先程崩落した場所から、ここまで一人で戻ってこられるか?」


 突然の質問に呼ばれた治癒師と回復魔術師は戸惑う。


「一人では無理です」

「そうです。一匹なら何とかなるかも知れませんが、複数に囲まれたら……」


 揃って、オルビスの質問に「無理だ」と答える。

 行きに遭遇した魔物を討伐していたので、それなりに遭遇する確率は低い。

 仮に魔物対策を事前にしていたとしても、一人で戻る前に魔物の餌食になると意見だった。

 呼ばれた治癒師たちは、オルビスの質問の意図が分からなかったが、オルビスなりに考えがあってのことだと思い、それ以上な何も言わずにいた。


(やはり、そうだよな)


 仲間の意見で、自分のなかで疑問に感じていたことが確信に変わる。

 今回のクエストで唯一、生存したラスティア。

 彼女が一人で洞窟を脱出すること……生きて戻って来られるわけがない。

 だからといってラスティアが犯人だと考えるのは軽率だ。

 アルベルトたちを一人で葬り去ることは出来ないし、銀翼を無くすメリットが思い浮かばない。

 裏で糸を引いている者がいる……銀翼館でアンジュたちに言った言葉が現実になったと感じた瞬間でもあった。

 これ以上の詮索は難しい。

 ただ、今回の件で不穏な空気を感じている。

 いずれ、王都……エルガレム王国もしくは、他国を巻き込んだ事件まで発展する気がしていた。


(残念だが……)


 ここにいても新しい情報を得ることはない……つまり、これ以上は此処にいる意味がない。

 少しの間、目を瞑り小さく息を吐く。

 自分の昇級試験もあるため、気持ちを切り替えるための所作。


「寄り道させて悪かったな。さぁ、目的地に向かおうか」


 オルビスは仲間とともに、銀翼がクエスト失敗した洞窟から立ち去った――。

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