306話
水浴びをしながらレティオールは考えていた。
タンクとしての役割を……。
魔物の注意を自分に向けることで、仲間を守ったり攻撃を有利に導くことがタンクの役目だ。
いままではリゼが一人で魔物を倒すこともあり、シャルルを守ることが多かった。
守護戦士に転職してたことで、ジョブスキルであるプロヴォウクを取得した。
だが、これを使用することは今まで一度もなかった。
もしプロヴォウクを発動させれば、近くにいるシャルルにも危険が迫る。
シャルルを守るため近くにいるのに、これでは本末転倒になってしまう。
いままで剣士でありながら、魔物の注意を自分に向けることを強いられていた。
仲間を守るというよりも囮としての役割だった。
自分に魔物を引き付けておけば、他の冒険者が魔物を倒してくれる。
まがりなりにも、パーティーで唯一の回復職だったシャルルは重要な存在だから、簡単に殺させないように最低限に守っていた。
ただ、その時と今とでは状況が違う。
守護戦士として仲間を守ることこそ使命だと考えているが、一人で魔物と戦っているリゼを見続けるのは歯痒かった。
自分が思い描いているタンク……守護戦士とはかけ離れていっているような気がしていた。
このままでは駄目だと分かっているが、状況を打破出来る方策が思いつかない。
もしかしたら、自分がシャルルを過小評価しているのかも知れない、あと一人いれば……と考えることが多くなっていた。
ジョブ《職業》スキルも使用すれば熟練度が上がるため、スキル効果に影響すると言われている。
ジョブスキルを習得しても使わなければ意味がない……結局は転職前の剣士と同じだ。
頭を冷やそうと頭を水に沈める。
「はぁぁーーーー」
数秒後に勢いよく水面から頭を上げると、一気に空気を肺へと供給するように息を吸い込んだ。
一瞬でもシャルルを疎ましく思ったこと……仲間いや、冒険者以前に人として恥じる考えだと頭を冷やして反省していた。
自分が悩んでいるように、シャルルも悩んでいることは知っている。
人のせいにするのではなく、今の状況で自分が出来ることをするべきだとレティオールは考えを改める。
現状を知る……心の端に引っ掛かっていたことがある。
それを知らなければいけない!
湖から出ると固い表情で服を着る。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「リゼにお願いがあるんだけど」
焚火を囲いながら雑談をしていると、レティオールが改まって話をする。
「私に出来ること?」
「うん。と言うか、リゼにしかできないことかな」
「なに?」
真剣な表情のレティオールに応えなければと、リゼも真剣に話を聞くため、体をレティオールに向ける。
「最初に会った時、リゼは僕たちのレベルを聞かなかったよね」
「うん。レベルが強さの全てだと思っていないから」
「その……答えるのが嫌なら答えなくてもいいんだけど……リゼのレベルって、いくつなのかな?」
「私のレベル?」
転職前でレベル四十に届いていなかった記憶はある。
同時に昔アリスから聞いた「ランクBの平均能力値で三十くらいで、ランクAだと平均で七十」と言う言葉を思い出す。
言い方が違うだけで、平均値とレベルは同じだ。
レベルの概念を教えてくれたフルオロの「知り合いのランクA冒険者でも五十以上」だったと言ったことを考えると、平均値でなくレベルという概念は分かりやすい強さの指標になっている。
「もちろん、僕のレベルも言うよ」
「それなら、私も」
レティオールの話にシャルルも乗っかるが、リゼと自分のレベル差に落胆することもあるため、かなり緊張した面持ちだった。
「言いたくなかったら、無理して言わなくてもいいよ。二人とも信用しているから……ちょっと待ってて」
ステータスを開いてレベルを確認する。
「レベル四十四かな」
「……」
「……」
レティオールとシャルルの動きが止まる。
それは予想よりもリゼのレベルが高かったため、自分たちの弱さを痛感することになる。
レティオールがレベル三十一で、シャルルはレベル二十九だった。
高く見積もっても、せいぜいリゼのレベルは三十代後半だと思っていた。
自分たちとは次元が違う……自分たちの甘い考えに頭を叩かれる。
だが、銀翼に入るということは、それ相応の強さが求められている。
言葉を失っている二人が正気を取り戻すまで、リゼは待つことにした。
「あっ、ありがとう……やっぱり、リゼは凄いね」
「うん、そうだね」
二人の表情から、明らかに動揺しているのが分かった。
自分が二人に対して、正直にレベルを言ったことが悪かったのか……と考えるが、嘘を言う方が二人に対して失礼だと感じていた。
レティオールとシャルルは、自分のレベルも申告するがリゼの表情は全く変わらなかった。
その様子からもリゼの言葉に嘘は無かったのだと、二人はリゼの懐の大きさを実感する。
「もし、不満があるなら言ってね。小さいことでも溜まり続けると取り返しのつかないことになるかも知れないから」
リゼの申し出にレティオールとシャルルは顔を見合わせる。
視線での会話は「不満はあるのか? あれば、どちらから話し始めるか」だった。
「不満じゃないんだけど、いいかな」
「うん。気になっていることがあれば、言ってくれた方が私も楽かな」
レティオールが話し始める。
リゼやシャルルに不満があるわけではなく、守護戦士としての戦い方に疑問を持っていることを正直に話す。
もちろん、シャルルを守ることは最優先だが、自分自身も積極的に戦いへ参加してなかったことを反省しながら、シャルルが傷つかないように配慮していた。
シャルルもレティオールの気持ちを知らなかったと言えば嘘になる。
どうしようもないことだと、自分に言い聞かせてレティオールに甘えていた。
レティオールの表情や話しぶりからも、かなり悩んでいたのだとシャルルは知る。
そして、レティオールの優しさも……。
「気が付かなくってゴメンね」
リゼも目の前の魔物を倒すことに専念していたので、レティオールの気持ちに気付かなかった。
「さっきも言ったけど、文句とかじゃないから誤解しないでね」
自分の発言で場の空気を悪くしてしまったと感じたようだった。
リゼはレティオールの悩みを解決する方法は、すぐに見つけられないとしたうえで、自分が影分身でシャルルを守り、一定時間だけ攻撃をする方法にしてみたらと提案する。
実際に有効的な方法なのかは、分からないが試す価値はある。
リゼの提案にレティオールとシャルルも同意してくれた。
シャルルも悩みではないが、水浴びの時にリゼに話したように、自分でもどうして良いのか分からないと打ち明ける。
レティオールは優しく「焦らずに頑張ろう」と一言だけ伝えた。
「こういう話し合いもいいね」
「そうね。リゼのいう通り、きちんと話をしないとね。だから多くの冒険者たちは戦闘後に話し合いをしたりしているんだね」
リゼたちも戦闘後に反省会のようなことはしていたが、今のような発言はなかった。
どちらかといえば魔物の分析などに時間を割くことが多かったからだ。
有意義な時間だったと感じながら、見張りの順番を決めて明日に備えた。
――――――――――――――――――――
■リゼの能力値
『体力:四十六』
『魔力:三十三』
『力:三十一』
『防御:二十』
『魔法力:二十六』
『魔力耐性:十三』
『敏捷:百三十五』
『回避:五十六』
『魅力:三十』
『運:五十八』
『万能能力値:零』
■メインクエスト
■サブクエスト
・ミコトの捜索。期限:一年
・報酬:慧眼の強化
■シークレットクエスト
・ヴェルべ村で村民誰かの願いを一つ叶える。期限:五年
・報酬:万能能力値(五増加)




