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305話

 完全に陽も落ちて、辺りが静かになる。

 野営の準備も終えて三人で夕食を食べる。


「シャルル」

「なに?」

「水浴びするなら、一緒にしない?」


 リゼに水浴びを誘われたシャルルは思いがけない申し出に驚く。

 一緒に水浴びという言葉に動揺したレティオールは顔を赤く火照らせて、必死で隠そうとしていた。


「はい、いいですよ」


 一緒に水浴びできることを嬉しそうに同意する。

 だが、すぐにシャルルの視線はレティオールに向けられる。


「その間、僕が周囲を見張っているから大丈夫だよ」

「覗かない……よね」

「覗かないよ!」

「……本当に?」

「本当だよ」


 鼓動が早くなることを自覚しているレティオールは、なぜか狼狽えるように答える。

 その受け答えがシャルルに疑惑をより一層強く感じさせる要因ともなる。


「私たちの後に、レティオールも水浴びをしたらいいよ」

「ぼ、僕は大丈夫だから」


 リゼの言葉に動揺して答えるレティオールの姿を見たシャルルは、少しだけ軽蔑した眼差しを向けていた。


「本当に大丈夫だって」


 シャルルの視線に気付いたレティオールが必死で弁解をする。

 だが、シャルルの表情が変わることは無かった。


 夕食を食べ終えるとシャルルが、レティオールを一瞬見てからリゼに声をかける。

 

「じゃあ、そろそろ水浴びをしようか」

「うん」


 水浴びという言葉にレティオールは目を伏せる。

 シャルルはレティオールを警戒しながら、リゼと水浴びの準備を始めた。


「僕は、こっちを見ているから」


 レティオールは周囲を警戒するようにリゼたちに背を向ける。

 覗かれないように木々で囲われた場所で着替えながら、シャルルは見張りをしているレティオールに忠告する。


「絶対に覗かないでね!」

「だから、覗かないって言っているだろう」


 シャルルの執拗な言葉にレティオールは同じ言葉で返す。


「本当に覗かないでよね」


 シャルルが覗かれないようにと、強めの言葉でレティオールに釘をさす。

 もちろん、レティオールの性格は知っているので、そのような行為をするとは思っていない。

 一緒にアルカントラ法国から出て来た時、同じようなことが幾度とあったが、覗きなど無かったと信じている。

 それは覗く対象が自分だっただけで、他の女性だったとしたら……最悪、自分は見られても良いが、リゼの裸をレティオールが見られることだけは阻止しなければという謎の使命感がシャルルに芽生えていた。


 月が湖面に映り幻想的な風景を、心地よい風が肌に触れると、非日常的な世界へと連れ去られそうになる。

 足を水につけると、思っていたよりも冷く現実世界へと一気に引き戻された。

 シャルルの方を見ると、シャルルも同じだったのか「冷たいね」と笑っていた。

 癖なのか見られたくないのか、カースドアイテムの腕輪があった場所を無意識に隠していた。

 痣などの傷は残っていないと思いながら、リゼは見なかったふりをする。

 それよりも気になったのは、シャルルの曲線美だ。

 いつも体形を覆うような服装だったので、あまり気付かなかったが綺麗な体をしているのだと感心する。

 アリスやラスティアには負けるが、成長段階だと考えれば十分すぎる。

 豊満な胸は戦闘の邪魔になると思いながら、自分の胸と見比べる。


「なに……そんなに見られると恥ずかしいよ」

「あっ、ゴメン。綺麗だなと思って、つい見とれちゃって」

「綺麗だなんて……」


 リゼの言葉にシャルルは照れていた。

 一応、周囲に警戒しながら、汗を水で流しながら会話をする。


「リゼは、どんな冒険者になりたいの?」

「どんな?」

「私は一緒に戦ったサイミョウさんのようになりたいな。戦況を見極めながら戦う姿は、私の理想に近かったから、目の前で見られたことは貴重な経験だったと思うの」


 シャルルがサイミョウの名前を挙げたのは意外だった。

 最近だったから印象に残っているのだろう。


「私って回復職だから戦闘に参加出来ないじゃない。リゼやレティオールが傷付かないと出番がないのが、正直耐えられないというか、足手まといになっている気がして……」

「そんなことないよ。シャルルがいるから、私は安心して戦えているんだから。それに能力強化(バフ)系のブック(魔法書)を購入しようと考えてくれていることは分かっているから」

「ありがとう」


 リゼの優しさが嬉しかったシャルルだが、その優しさに甘えていては成長できない。

 いままでの自分とは違う……変わらなければという思いがより一層強くなる。

 それからもシャルルは、自分が思い描く冒険者像をリゼに語り続けた。

 話を聞きながらリゼは職業から考えれば、忍頭のハンゾウを目標にするのだろうと思いながらも、理想の冒険者という言葉でクウガの名と顔が頭の浮かんだ。。

 職業は違えど、思い描く理想の冒険者はクウガなのだと……分かっていたことだが、シャルルの質問に即答できなかったことを後悔する。


「シャルル。さっきの質問の答えだけど」

「理想の冒険者の話?」

「うん。銀翼のクウガさんが、私の理想とする冒険者かな」

「そうですか」


 消息不明の銀翼メンバーの名前をリゼが口にしたことで、シャルルは気の利いた言葉がでなかった。

 亡くなっていることが分かれば、それなりの言葉で反応しただろうし、その逆も然りだ。

 期待を持たすような言葉はリゼを傷つけてしまうとかも知れないと考えていた。

 ただ、クウガの名前を出したリゼの顔は、どことなく嬉しそうに見えた。

 それだけ大切な人なのだろうとシャルルは感じながら、リゼに気付かれないように話を続ける。


「前にバビロニアの武具屋で杖の購入も悩んでいたけど、杖はいいの?」


 リゼの質問の意図はブック(魔法書)と違い、杖でも能力を上げることは出来る。

 思いつめるあまり、選択肢が狭まっていないかを心配していた。


「サイミョウさんの持っていた杖って、多分“聖杖(せいじょう)”だと思うの。確かに、あの杖を見たら余計に欲しいなと思っちゃったかな」


 聖杖とは、治癒系魔術師や光属性の魔術師が所持すると、普通の杖よりも能力を上げられる杖の名称だ。

 特に有名な治癒系魔術師であれば、絶対に所持している。

 リゼは知らなかったが、銀翼だったラスティアの杖も聖杖だ。

 シャルルも治癒能力を高めた方が良いのか、能力強化(バフ)系にするのかを悩んでいるのだと表情から読み取る。

 答えは自分の中にしかないことを知っているリゼは、シャルルに余計なことは言わずに見守ることにする。


「よく考えて、悩めばいいよ」


 リゼの言葉にシャルルは静かに頷いた。

 その姿を見ていると、メインクエスト達成が表示される。

 正直、「もう十五分経った」という感じだった。

 それから少しだけ話をして、水浴びを終える。


 短い水浴びだったが、心も体を軽くなったシャルルは見張りをしているレティオールの交代を告げる。


「僕は大丈夫だから」

「せっかくなんだから、汗流してきたほうがいいよ」

「でも、面倒くさいし……」


 初対面こそ、おっとりしている印象だったシャルルだったが、ここ最近は活発になってきている。

 魔力が戻り、自分に自信を持ち始めたのが起因しているかも知れない。


「分かったよ。少しだけ入ってくるよ……シャルル、覗かないでくれよ」

「な、なにを言っているの! 覗くわけないでしょ」


 先程の仕返しなのか、レティオールがシャルルを揶揄う。


「本当に仲がいいね」


 二人のやりとりを見てリゼが呟く。


「まぁ、幼馴染ですから」

「そうそう……腐れ縁ってやつかな」


 シャルルとレティオールがはにかむような顔で答えた。

 信頼関係が構築されている二人を少し羨ましいと思えた。



――――――――――――――――――――


■リゼの能力値

 『体力:四十六』

 『魔力:三十三』

 『力:三十一』

 『防御:二十』

 『魔法力:二十六』

 『魔力耐性:十三』

 『敏捷:百三十五』

 『回避:五十六』

 『魅力:三十』(三増加)

 『運:五十八』

 『万能能力値:零』

 

■メインクエスト



■サブクエスト

 ・ミコトの捜索。期限:一年

 ・報酬:慧眼(けいがん)の強化


■シークレットクエスト

 ・ヴェルべ村で村民誰かの願いを一つ叶える。期限:五年

 ・報酬:万能能力値(五増加)



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