304話
「有難う御座いました。」
「こちらこそ。何もなく村まで戻って来れて、本当に良かったです。この道を道なりに進んで、小さな丘を二つ越えると大きな湖が見えると思います。それがアバント湖で、その畔にあるのが湖の町アバントです」
ルラール村に無事到着すると、アサーダがアバントまでの道を教えてくれた。
旅の途中で話を聞いたが、たまにアバントまで買い出しを行くそうだ。
ラバンよりも遠いことや、品揃えはラバンの方が良い物もあるので、状況に応じて変更していた。
アバントまでは、それなりに通行量も多いため、運が良ければ途中で商人の荷馬車に乗せてもらえるそうだ。
魔物との遭遇率も低いが、なだらかな道が続くため、馬を休ませる商人も多いらしい。
サーヤヨからは「外の人間が村に来ることは、あまりない」と聞いていた。
一応、リゼたちはルラール村でアバント行きの商人がいないかをアサーダにも確認する。
「多分、いないでしょうね。うちの村で待つよりも歩いて進んだほうが、商人たちと出会う可能性が高いですよ」
自傷気味にアサーダが答える。
ルラール村に立ち寄っても得る物がないし、たいして儲けにならない村で時間を費やすくらいなら、アバントへ少しでも早く到着する方が得だと考えているからだ。
アサーダの言葉を信じてルラール村には寄らず、そのままアバントまでの道を歩くことにした。
何年もかけて踏み固められ自然に出来た道を歩く。
時々吹く風が心地好いと感じながら会話をしながら進む。
「レティオールは、アイテムバッグを買うの?」
「うん。いつまでもシャルルのアイテムバッグに入れるわけにはいかないからね。そういうシャルルは ブックを買うんだろ?」
「そうだけど……比較的安価で手に入りやすい防御や魔力耐性系の能力強化は購入するつもりよ。他にも欲しいんだけど」
言葉に詰まるシャルル。
能力強化系のブックでも種類は幾つもある。
町で気に入ったのがあれば購入するつもりだったが、何が良いのか分からないため悩んでいたようだ。
今はリゼと同じ銀翼に入りたい……それこそが、今の最優先事項になる。
魔術師のリーダーと拳闘士のサブリーダーの二人が、リゼを含めた銀翼のメンバーになる。
仲間に対して有効的な能力強化を模索していた。
「悩んでいるんだったら、店で詳しい説明を聞けば良いんじゃないの?」
シャルルの気持ちを少しでも和らげようとしたレティオールだったが、シャルルは簡単に考えられていると受け取る。
念願のアイテムバッグが購入できると浮かれているレティオールに、少しだけ腹を立てていた。
少しだけ険悪な雰囲気で歩き続けるので、自然と会話が無くなる。
仲直りさせたいリゼだったが、上手い言葉が見つからず無言の時間は続いた。
「少し休憩しようか」
リゼの提案にレティオールとシャルルも頷く……が、目を合わせようとしない。
レティオールはシャルルを不機嫌にさせた理由を考えていたようだが、思い当たる節が無いので理不尽に不機嫌な行動を取るシャルルに怒りを感じるようになっていた。
休憩中も視線を交わらせることなく、シャルルがリゼと話をしている時はレティオールは黙り、反対にレティオールが話し始めるとシャルルが黙り込み、会話に入って来ることなかった。
(どうしたらいんだろう……)
リゼは片方に肩入れしないように気を付ける。
喧嘩らしい喧嘩を今までしたことがない。
母親と二人で暮らしていた時は、子供の頃は一人で遊んでいたし、父親に引き取られた後は反抗することなく耐えていた。
長く一緒にいた使用人のフィーネとも喧嘩をした記憶はない。
いままでとは異なる悩みに頭を抱える。
「二人は、なにが原因で喧嘩をしているの?」
悩んだ挙句、直接確認するしかないと答えを出す。
不満があるなら、言った方が良いと思ったからだ。
リゼの言葉に面食らうレティオールとシャルルは、思わず顔を見合わせる。
視線が交わると自然と笑いが込み上げてきた。
二人は今まで何度も同じように些細なことで喧嘩をして来た。
それは二人だったことからで、今はリゼがいる。
昔のバビロニアに行く前のことを思い出す。
その時も、同じように喧嘩の原因も分からずお互い不機嫌になっていた。
冒険者……いいや、人間として成長していないことに気付かされた。
なによりも、今は二人ではない。
リゼという仲間であり、尊敬出来る冒険者がいる。
自分たちのこともそうだが、パーティーとしてのことを考えなくてはいけない。
魔物に襲われて連携に支障が出てはいけない。
二人はリゼに謝罪をすると続けて、お互いの目を見てきちんと頭を下げた。
リゼ自身、良く分からないが解決したのであれば良かったと思いながら、レティオールとシャルルを見る。
喧嘩をするほど仲が良いと、誰かが言っていたことを思いだす。
レティオールとシャルルは、それほど仲が良いのだろう。
それに比べて、喧嘩をした事がない自分は仲が良いと呼べる人はいない……のだと思う。
アンジュとジェイドは仲間だし、喧嘩をするようなことは無いと思う。
それは目の前のレティオールとシャルルにも同じことが言える。
いつか自分も喧嘩をすることになるのかと考えながら、仲直りして穏やかな顔になった二人を見ていた。
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歩き続けて、陽も落ち始めて辺りが暗くなる。
何台か馬車が通り過ぎて行ったが、乗せてもらうことは叶わなかった。
乗車代が高かったり、荷台が一杯だったりと条件が合わなかった。
見た目から警戒されることはないが、逆に舐められて高めの乗車代を吹っ掛けられたと感じていた。
無理して乗せることもないため、道中での乗車はこういうことなのだとレティオールとシャルルは経験から教えてくれる。
三人でも歩くのも悪くはないので、無理せずに進もうと話すシャルル。
その意見にレティオールも同意する。
歩きながら野営出来る場所を探していると、目印のように大きな樹の下に幾つかの野営した後を発見する。
近くに小さな湖もあり、調べてみると魔物の気配はない。
時折、動物たちが水を飲みに来ているのを対岸から見ていた。
水際でくつろぐ姿や、湖面が大きく揺れないことなどから、浅瀬には魔物がいないのだと推測する。
水浴びで汗を流すことも出来る。
それが、この場所を選んだ要因として大きいのだろう。
「やった! 水浴びも出来る」
シャルルの喜ぶ声に反応するかのようにメインクエストが発生した。
メインクエスト『同姓と一緒に水浴び十分。期限:一時間』『報酬(魅力:三増加)』。
思わずシャルルの顔を見る。
見られたシャルルは不思議そうな顔で、リゼを見返す。
「とりあえず、今晩はここで野営にしようか」
「そうだね」
レティオールの意見にシャルルも同意する。
当然、リゼも頷く。
討伐とは違い、難易度の高いクエストにリゼは恥ずかしくなりながらも、シャルルを水浴びに誘うことを決意する。
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■リゼの能力値
『体力:四十六』
『魔力:三十三』
『力:三十一』
『防御:二十』
『魔法力:二十六』
『魔力耐性:十三』
『敏捷:百三十五』
『回避:五十六』
『魅力:二十七』
『運:五十八』
『万能能力値:零』
■メインクエスト
・同姓と一緒に水浴び十分。期限:一時間
・報酬:魅力(三増加)
■サブクエスト
・ミコトの捜索。期限:一年
・報酬:慧眼の強化
■シークレットクエスト
・ヴェルべ村で村民誰かの願いを一つ叶える。期限:五年
・報酬:万能能力値(五増加)




