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303話

 ラバンを出立する朝が来た。

 一階に下りると、ヴィッカーズとロゼッタがリゼたちを待っていたかのように立っていた。


「いろいろとお世話になりました」


 リゼは二人に頭を下げて感謝を伝える。

 顔を上げると、ロゼッタが目に涙を浮かべていることに気付く。


「これからも大変だと思うけど……辛くなったら会いに来てね」

「はい、有難う御座います」


 最後に話をしたかったが、アサーダと待ち合わせの時間に遅れるかも知れないので、あまり長話も出来ない。

 後ろ髪を引かれる思いで再度、礼と別れの言葉を伝えた。


「血は繋がっていないけど、私はリゼとは家族だと思っている」


 悲しそうな表情で話すロゼッタの言葉が胸に突き刺さる。

 実の父親よりも、会って数日しか経っていないロゼッタの方が、信じられるにんげんだと心が認めている。


「これは俺たちからの選別だ」


 昨日支払った一泊分の宿代三人分と九枚の干肉を受け取る。

 レティオールとシャルルと顔を見合わせるが、ヴィッカーズとロゼッタの好意だと有難く受け取り、最後にもう一度、礼を言いヴィッカーズの酒場を去る。


 アサーダとの待ち合わせ場所まで町を歩く。

 ラバンの街並みを目に焼き付けていた。

 今朝も耳に飛び込んでくるのは、黒い少女の話題ばかりだった。

 昨日の朝と違い、黒い少女が何人にも分裂したや、空を自由に飛びまわっていたなどと、噂に尾ひれがついていた。

 リゼも、すでに自分とは関係にない話に発展しているのだと、他人ごとのように感じていた。

 なによりもレティオールとシャルルに、噂の黒い少女の正体は自分だと話しているので問題無い。

 もし他の冒険者などから追及されたりしたら、正体を明かす覚悟が少しは持っていたが、自分とかけ離れた噂のため、正体を晒す必要がなくなったと考えていた。

 これからもラバンの人たちの間では、黒い少女の幽霊話は語り継がれていくのだろう。


 リゼにとって心残りと言えば、もう一つ……国主の娘ララァのことだ。

 昨晩、ララァは浮かない表情で、バーナム曲芸団の演目も楽しんでいるようには見えなかった。

 やはり、婚約の話や勝手にバビロニアから逃げてきたことで周囲の目を気にしているのかも知れない。

 感情的な行動だからこそ、後々の後悔が大きいのかも知れないが、全て自己責任だ。

 それが分からない様では、子供だ、我儘娘だと言われても仕方がない。

 しかし、自分の立場だったらと考えるとララァの逃げ出したい気持ちは分からないわけでもない。

 自分も何度、父親たちから逃げ出したいと思ったことか……。

 立場が違うので、形式的な別れの挨拶だけだった。

 冒険譚を嬉しそうに聞くララァの表情が脳裏に焼き付いていたからこそ、挨拶の時の表情が一層悲しそうに見えたのだ。


「いずれ、どこかでお会いする機会があれば嬉しいです」


 国主に向けて言った言葉だが、リゼにとってはララァにも向けた言葉だった。

 嬉しそうな国主とは対照的に、軽く頭を下げるララァ。

 近くにいた大臣などが目を光らせているので、軽率な言動は出来ないのだろう。

 それぞれが悩みを抱えながら生きていくことは、当たり前のことだ。

 悩みや問題から逃げるのは簡単だし、それが悪いことでもない。

 それが出来ないララァの立場を考えると、窮屈な生活なのかも知れないと感じていた。


「では、行きますね」


 アサーダの声で荷馬車を走らせる。

 隣にはレティオールが座り、母親のサーヤヨはリゼとシャルルと荷台に乗っていた。


「お嬢さんは、パセキ村出身なのかい?」


 サーヤヨがリゼに尋ねる。


「いいえ、違います。母親がパセキ村出身だったかも知れませんが、今は亡くなっているので確かめることさえ出来ません」

「そう……それは申し訳ないことを聞いてしまったね」


 母親の死ということに、子供を持つ母親として申し訳ないと謝罪をする。


「大丈夫です。気にしないで下さい」


 かえって気を使わせてしまったとリゼは、すぐに言葉を返す。

 

「私にも昔は娘がいてね。小さい頃に魔物に殺されての……だからこそ、亡くなった遺族の気持ちが分かるんですよ。生きていれば丁度、二人くらいですかね」

「では、旅の間は私たちを娘だと思ってください」


 シャルルが明るくサーヤヨに話す。


「ありがとうね」


 嬉しそうな表情でサーヤヨは返す。

 それから、シャルルはサーヤヨと話を続ける。

 二人とも会話が途切れることがないので、リゼは終始聞いているだけだった。

 それでも幸せな空間を共有している自覚があったので、見守るように会話を聞き続けていた。

 先程のサーヤヨとの会話からも、この容姿とパセキ村という言葉は切っても切れない関係だ。

 ロゼッタの助言通り、トラブルに巻き込まれる可能性も常に考えなくてはいけない。

 パセキ村に近ければ近いほど、その可能性が高くなるだろう。


「アバントって、湖の町ですよね」

「えぇ、そうよ。内陸部だけど魚が食べられるのは、アバント湖のおかげだね」

「行ったことはありませが、賑わっている町なんですか?」

「そうだね。ラバンやバビロニアに比べてはいけないが、それなりに賑やかで楽しい町だと思うよ。商人たちも頻繁に出入りしているので、珍しい商品などもあるかも知れないね」


 シャルルはアバントという町について、サーヤヨに聞いていた。

 ルラール村はアバントよりも、かなり手前の村になる。

 そこから馬車での移動は難しいため、歩きでの移動になる。

 仮にアバントに到着しても、そこからヴェルべ村に行く馬車があるとは限らない。

 険しい道も考えられるので、出来る限りの情報を入手するのに越したことは無い。



 アサーダとレティオールも男同士ということで、話が弾んでいた。

 妹が死に、母一人子一人での生活を聞いて、アルカントラ法国にいる両親のことを思い出していた。

 今まであまり考えたことが無い”親孝行”という言葉が胸に突き刺さる。

 親がいつまでもいるとは限らないこと……冒険者をしていれば、親の死に目に会えないことは覚悟していた。

 それは冒険者でなく、アルカントラ法国を出た時からだ。

 快く送り出してくれた両親の顔を思い出しながら名を売れば、遠く離れていても自分のことを知らせることが出来る。

 そして、アルカントラ法国に仕える兄と、家族に反発して家を出た姉。

 家族と仲違いしてしまった姉が言った「この国と世界は狂っている」という最後の言葉が脳裏に浮かんだ。

 どうして姉は、あんなことを言ったのか……改めて姉の言葉を考えるが、すぐに答えは出ない。

 旅をしながら、いろいろな経験をすれば、いずれ言葉の意味が分かるかも知れないと考えながら、アサーダとの会話を続けた。



――――――――――――――――――――


■リゼの能力値

 『体力:四十六』

 『魔力:三十三』

 『力:三十一』

 『防御:二十』

 『魔法力:二十六』

 『魔力耐性:十三』

 『敏捷:百三十五』

 『回避:五十六』

 『魅力:二十七』

 『運:五十八』

 『万能能力値:零』

 

■メインクエスト



■サブクエスト

 ・ミコトの捜索。期限:一年

 ・報酬:慧眼(けいがん)の強化


■シークレットクエスト

 ・ヴェルべ村で村民誰かの願いを一つ叶える。期限:五年

 ・報酬:万能能力値(五増加)


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