302話
国主と謁見するため、騎士団のマトラたちと同じ部屋で待機していた。
マトラたちと同じ空間にいるが、他の騎士たちもいるため、大きな声で話し辛い状況だ。
思っていた以上長い時間、この部屋にいるため、話好きのシャルルは無言に耐えられないようだった。
レティオールも雰囲気にのまれているのか、会話をする勇気がなかった。
マトラたちが会話をしていれば、それなりに楽しい部屋だったかも知れないと、野営の夜のことを思い出すリゼ。
だが、国主との謁見は騎士団に所属しているマトラたちからすれば、粗相一つで身の振り方が変わってしまうような相手なので、それなりに気持ちの整理をしていたことをリゼたちは知らない。
「お待たせしました」
扉が開き、騎士の案内で国主がいる部屋へと移動する。
リゼたちはマトラたちの後をついていく。
ふと、外を見ると陽がかなり傾いていることに気付く。
昼過ぎに来た騎士に連れられて、この部屋を出るまで自分が思っていたよりも長い時間だったようだ。
レティオールとシャルルは緊張しているのか、動きが硬い。
リゼは国主とはバビロニアで一度謁見しているからか、思ったほど緊張していなかった。
レティオールとシャルルの二人や、他の騎士たちからは全く動じない姿に映る。
何度か廊下を曲がり、大きな装飾品の扉にたどり着くと、扉を護衛していた騎士が大声を上げて、リゼたちが到着したことを部屋の中へと伝える。
すると、室内から扉が開けられて、豪華な室内が目に飛び込んできた。
綺麗な絨毯を、このまま進んでも良いのかとレティオールはリゼに小声で聞くが、マトラたちと同じようにしていれば問題ないだろうという答え方しかできなかった。
室内から案内の騎士も変わり、リゼたちの入室とともに部屋の扉が閉められる。
ゆっくりと前を歩くマトラたちに遅れないようにと、リゼたちは見様見真似で歩いた。
国主は見上げる位置で堂々と座っている。
その横で申し訳なさそうに座るララァ。
「この度、王女の行動で迷惑を掛けた。並びに賊から救ってくれたことを王そして、娘を持つ父親として感謝する」
最初に発したのは身勝手な行動をしたララァの謝罪と感謝の言葉だった。
マトラたちの名が一人ずつ呼ばれると立ち上がり、国主の方を視線を揺らすことなく見つめた。
今まで以上の騎士としての地位が褒美として与えられる。
これは行方不明の原因究明する極秘調査の功績も評価されていた。
そして、騎士団内でリーダーをマトラとした独自の部隊をサイミョウとアヤシャとともに編成する権利を得る。
騎士団長から、今後も国内の不可解な事件を担当することを提案されたことに起因していた。
騎士にとっては名誉なことに違いない。
表情は見えないが嬉しいに違いないと、マトラたちのことを自分のことのように、リゼは嬉しく思えた。
部隊の支度金と、今回の報酬として別途金貨等が与えられて、マトラたちの話が終わる。
リゼたちに話が移ると、同じように一人ずつ名前を呼ばれる。
レティオールとシャルルは緊張しながら、返事をして立ち上がる。
「三名の冒険者よ。此度の件、重ね重ね礼を申す。特にリゼ。其方にはバビロニアのスタンピードのことと言い、我が国を二度も救ってもらったこと感謝する。このことはエルガレム王国国王と会った際には必ず伝えさせていただく。宵姫リゼと、その仲間たちには我が国は敬意を表す」
リゼにはバビロニアでのスタンピードの件も含めて、改めて感謝の言葉を掛けられる。
そのことで、リゼがバビロニアを救った英雄“宵姫”だと同席している者や、騎士たちに知れ渡る。
「あんな小さい女性が、バビロニアを救った救世主!」
「あれが、宵姫だと‼」
ざわめき立つなか、リゼに視線が集まる。
床を見たまま、視線を感じながらも耐えるリゼ。
話し声が大きくなる前に、国主の意向を感じ取った大臣らしき人物が手を二回叩き、私語を慎むように告げると、一気に静寂な空間に変貌する。
王女を守ったということもあり、ラバンニアル共和国で冒険者として活動をしないかと、改めて打診を受ける。
言葉を選びながら、身に余る提案だが明日にはラバンを出立することを、国主に伝えると、 国主もリゼの回答が分かっていたのか、残念そうな表情をするわけでもなく、むしろ答えが変わっていないことが嬉しいかの表情を浮かべていた。
「今回の報酬だが――」
国主の言葉に近くの大臣が引き継ぐように話を繋げる。
目で合図を送っていたので、リゼたちの報酬については国主でなく大臣の口から告げることは決まっていたようだ。
ララァの命の価値ではないと前置きをしたうえで、それぞれに白金貨五枚が報酬として提示される。
レティオールとシャルルは驚いたのか、小さく声をあげていた。
購入していないアイテムバッグが手に入れられると思うレティオール。
ブック購入の予算が増えたことに喜ぶシャルル。
そんなことを考えている二人の顔がリゼには浮かんでいた。
「では、夕食も兼ねて移動しましょう」
大臣の一言で、この部屋での行事は終えたようだ。
まさか夕食も一緒にすると思っていなかったリゼたちは戸惑うが、当然断る選択肢など無い。
マトラたちは事前に知っていたのか、普段から変わらないのか不明だが、落ち着いたままだった。
一度、先程の部屋に戻り国主たちの用意が終わるまで待機する。
マトラたちは、部屋の入ると抑えていた喜びの感情を爆発させていた。
同じように、レティオールとシャルルも白金貨五枚という大金で、なにが買えるかを話していた。
きちんと対価を貰う……冒険者としては当たり前のことだが、改めて実感する。
暫くして、国主たちの用意が出来たため、使いの騎士に呼ばれた。
国主とその夫人たちの大人数の後をリゼたちもついて行く。
もちろん、護衛の騎士たちが多く周囲にいる。
進みながら、リゼは昨夜の言葉を思い出す。
そう、夕食先はバーナム曲芸団だった。
食事をしながら楽しむ趣向らしい。
もっとも、レティオールとシャルルは緊張で喉が通らないかも知れないが、楽しみにしていたバーナム曲芸団の芸が見られるので楽しむことは出来るだろうと、リゼは予想する。
そして、予想通りレティオールとシャルルは緊張しながらも、夕食と芸を楽しんでいた。
団員たちもリゼに気付くと、目で合図をしてくれる。
その反面、ララァは終始浮かない表情をしていた。
――――――――――――――――――――
■リゼの能力値
『体力:四十六』
『魔力:三十三』
『力:三十一』
『防御:二十』
『魔法力:二十六』
『魔力耐性:十三』
『敏捷:百三十五』
『回避:五十六』
『魅力:二十七』
『運:五十八』
『万能能力値:零』
■メインクエスト
■サブクエスト
・ミコトの捜索。期限:一年
・報酬:慧眼の強化
■シークレットクエスト
・ヴェルべ村で村民誰かの願いを一つ叶える。期限:五年
・報酬:万能能力値(五増加)




