301話
翌朝、部屋を片付け終えると、部屋の扉を叩く音とシャルルの「起きている?」という声が扉越しに聞こえた。
申し合わせたわけでは無いが、シャルルを呼びに行こうとしていたので、何故か嬉しい気持ちになるリゼは「起きているよ」と言葉を返すと、そのまま「どうぞ」と部屋に招き入れる。
扉を開けたシャルルの後ろにレティオールもいた。
二人とも出発の用意が出来ていた。
三人揃っているならと、酒場の方に移動して食事をしながら話をすることにした。
一階まで下りると、酒臭い臭いが残っている……と言うよりも、夜が明けても飲んでいるようだ。
昼夜という概念がないのかは分からないが、楽しそうに騒いでいる。
カウンターにヴィッカーズの姿が見えない。
代わりにヴィッカーズよりも少し若い男女が、客たちの対応をしていた。
とりあえず、朝食を食べようと注文をすると女性のほうが応対してくれた。
「三階に宿泊している冒険者の三人ね。ヴィッカーズさんから聞いているわ。私は”パティーナ”で、あいつは”ペッツ”。ここの従業員で元冒険者よ」
親指で差す先には、カウンターで作業をするベッツがいた。
注文を聞き終えたパティーナは、すぐに大声でベッツに伝える。
「とりあえず、三人の宿のことは食事を終えた後に聞くわ」
リゼたちのことはヴィッカーズから酒場を去る時に延泊するのかを、三人に確認するよう言われていた。
他の客から声を掛けられたので、パティーナはリゼたちのテーブルを離れる。
「それで、どうする?」
レティオールがリゼに質問をする。
レティオールとシャルルの意見はまとまっていると伝えたうえで話を続ける。
「主体性がないと思われるかも知れないけど、僕とシャルルはリゼに従うと決めている。もし、自分たちの意見があれば、当然リゼに言うするつもりだけど、最終的にエルガレム王国……王都エルドラードに戻るリゼと一緒に行動することが大前提だと思っている。だからこそ、リゼの旅路の邪魔をするつもりはないんだ」
シャルルもレティオールの言葉に頷く。
リゼも二人の気持ちを汲み取り、有難いと感じていた。
「今日の国主様との謁見が終わったら、ここに一泊してから朝一で、ラバンを出立して、ヴェルべ村経由でエルドラードに戻ろうと思っている。後で商人たちの馬車護衛が無いかを聞いてみよと思うけど……」
行き先はシークレットクエストのヴェルべ村。
ただ、商人の往来が少ないと聞いていたため、都合よく商人が見つかるとは限らない。
もし見つかったとしても護衛が出来るとは限らない。
「はい、お待たせ」
話の途中で、パティーナが注文した食事を持って来た。
食事をテーブルに置くと、すぐに去って行く。
リゼたちの会話を邪魔しないように、さりげない振る舞いだった。
パティーナが去ったことで、会話を再開する。
朝食後に宿を一泊だけ延長して、商人たちへの聞き込みをすることにすることにした。
「本当だって‼」
酔っ払っている客の声が飛び込んでくる。
「本当に昨日の夜、見たんだって!」
「どうぜ酔っ払っていたんだろう?」
「そん時は、まだ呑んでいなかったんだって‼」
「俺も、見たぞ」
「俺は他の奴からも、同じような話を聞いたぞ」
声に反応した他の客も会話に加わる。
客たちの話では、今朝から街中で話題になっているそうだ。
昨夜に町で幽霊が出たという話で持ちきりだった。
突然の突風に、黒い少女の姿をした幽霊が町で目撃されていた。
何をする訳でなく、現れては消え、出現する時には必ず突風が吹き、月夜に照らされた姿も目撃されている。
「絶対に酷い殺され方をされた少女の霊だって!」
「殺した奴を夜な夜な探しているそうだぜ」
「しかし、なんで突然現れたんだ?」
「さぁな。でも、異常なことが起きるのは、いつも突然だろう」
話を聞いていたシャルルは、こういった話が苦手なのか怯えていた。
「大丈夫だよ。ただの噂だから」
怯えるシャルルをレティオールが慰める。
その姿を見ながら、リゼはその黒い少女に心当たりがあった。
多分、昨夜に瞬脚の練習をしていた自分だろうと……。
申し訳なさそうな表情を浮かべながらも、言い出すタイミングがなかった。
シャルルには後で伝えることにして、朝食を口にする。
朝食を食べ終えると、今晩だけ延泊することを伝える。
最後にヴィッカーズとロゼッタに挨拶をしたいので、明日はいるかを確認すると、二人とも奥の自宅にいるので、呼べば姿を見せてくれるとパティーナが教えてくれた。
ヴィッカーズの酒場を出ると、リゼはレティオールとシャルルに小声で、先程の話に出てきた少女の正体は自分だと打ち明ける。
「そうなんだ‼」
リゼだと分かった二人の……特にシャルルの表情は明るかった。
黒い少女の正体がリゼだと聞いて、納得する自分がいたため疑うこともなかった。
とりあえず、冒険者ギルドに顔を出して、護衛の依頼が無いかを確認するが、そのような依頼はなかった。
その足で商業ギルドに向かい、ヴェルべ村に向かう商人がいないかを尋ねる。
「生憎と、その方面に向かう商人はいないわね。最近、雪崩などもあったので違うルートにしている人たちが多いです」
雪崩とはパセキ村でのことだとリゼは知っていたので、他の質問をする。
「ヴェルべ村近くまで行ける方法はありますか?」
「そうですね……」
商業ギルドの職員は地図を取り出して、リゼたちに見せる。
「ここが現在地で、こちらがヴェルべ村です。多くの商人は、こちらのアバントという町までなら、それなりの通行する商人もいますね。ルラール村の商人が買い出しにくることもあります」
「普通に行くのと比べて、どれくらい多くかかりますか?」
「そうですね。アバントまで順調にいって五日前後ってことですかね」
「有難う御座います」
「ルラール村まで行くのですか?」
礼を言うと、後ろにいた男女に声を掛けられる。
その視線は唯一の男性レティオールに向けられていた
「はい、そうです」
目が合ったレティオールが答える。
「私はアサーダと言います。こっちは母親のサーヤヨです。明日の朝一にルラール村に戻りますが、乗って行かれますか?」
「有難う御座います。それは護衛ということでしょうか?」
「そうですね。護衛もそうですが、乗車賃も少し頂ければ……と」
商人があまり立ち寄らない村では、村で商売をしている村人が直接、街まで買い出しに来ることがある。
その場合、近くの大きな町で護衛を見つけて、乗車賃を請求することもあるのだと、商業ギルドの職人が違法性はないと説明する。
乗車賃といっても僅かだ。
あまり金額が大きいと、本来の目的である護衛さえして貰えないこともあるので、依頼する側も交渉には応じてくれることが多い。
一人銅貨三枚で契約して、ルラール村までの移動手段を確保した。
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■リゼの能力値
『体力:四十六』
『魔力:三十三』
『力:三十一』
『防御:二十』
『魔法力:二十六』
『魔力耐性:十三』
『敏捷:百三十五』
『回避:五十六』
『魅力:二十七』
『運:五十八』
『万能能力値:零』
■メインクエスト
■サブクエスト
・ミコトの捜索。期限:一年
・報酬:慧眼の強化
■シークレットクエスト
・ヴェルべ村で村民誰かの願いを一つ叶える。期限:五年
・報酬:万能能力値(五増加)




