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300話

 残念そうなバーナムは「そのうち連絡する」とリゼに伝える。

 リゼは挨拶をしてバーナム曲芸団を去り、ヴィッカーズの酒場へと戻る。

 歩きながら、リゼもバーナムたちに協力出来ないことを不甲斐なく感じていた。

 頭の中で「役立たず」という言葉が繰り返し囁く。

 母親死後の幼少期に言われ続けた言葉で、最近では言われることがなかった言葉。

 夜空を見上げると、言葉に引きずり出されたかのように思い出したくない記憶が蘇る。

 ロゼッタから母親のことを聞いた影響かも知れない……と足を止める。


(あっ!)


 ”瞬脚”のクエストを思い出し達成するため、万能能力値を全て敏捷に振る。

 だが、目の前にメインクエスト達成の表示はされない。

 これで瞬脚を習得できると思っていたリゼは焦る。


(何か条件があるのかも……)


 とりあえず、周囲に人が居ないことを確認して、敏捷の能力を試すように踏み込んで走ると、思っていた以上の速さに戸惑う。

 少し離れていた歩いていた通行人が走り去ったリゼが起こした突風に驚きの声をあげる。

 通行人は、自然に起こった風だと思い、人が走り去っていったことには気付いていない。

 当事者のリゼも頭の中は瞬脚を習得することで一杯だったため、通行人たちの様子には気付いていなかった。 

 なんとなく今の踏み込みに違和感を感じていたので、走っては止まり考えて又、走るを繰り返す。

 暗闇に突如、吹き荒れる風。

 何人かの通行人が横を駆け抜けていく黒い影に気付くが……その正体がリゼということまでは分からないでした。

 意識することなく予備動作を考えずに自然体で踏み込むと、今までで一番早く走れる実感を得る。

 そして、その感覚を忘れないうちにもう一度、同じ動作をすると目の前にクエストを達成が表示されて、瞬脚を習得した。


(これが瞬脚‼)


 嬉しさよりも瞬脚に慣れるため、そこからは遠回りをしながら瞬脚を使い移動する。

 すると、少し早く走ろうとすると自然と瞬脚を使えるようになる。

 リゼのなかでは瞬脚を発動させなくても早く走ることが出来ると思っていたが、早く走るのと瞬脚は別のものだと理解した。

 何度も使用して瞬脚が使用出来る時間が十秒程度だと知る。

 だが、使用する度に熟練度が上がっているのか、少しだけ発動時間が長くなる気がした。

 リキャストタイムが三秒なのが何よりも魅力だ。

 しかし、曲がったり止まったりするときの体への反動が凄い。

 リキャストタイムが無いとはいえ、連続への使用には体への負担が大きい。

 攻撃の軽さを手数で補うには最適だと感じながら、体に覚え込ませる。

 魔力枯渇にならないように気を付けながら、ヴィッカーズの酒場に帰る道に戻る。


 ヴィッカーズの酒場に戻ると、ヴィッカーズがリゼの姿を見ると声を掛ける。


「なんでも、少し予定が変わったとかで、明日の昼に迎えが来るそうだ」


 国主からの伝言をリゼに伝える。

 性格には伝言の伝言と何人もの人を介していうのだろう。

 服装などについても、冒険者なので普段通りで問題ないそうだ。

 既にレティオールとシャルルにも伝えたらしく、二人とも緊張した表情だったとヴィッカーズは笑っていた。

 戻って来たばかりの国主も多忙なのだろうと、リゼは予定の変更を受け入れる。


「それで、どうする? 宿の予約は今晩までだが?」


 ヴィッカーズの酒場は、騎士団が用意してくれた宿で国主との謁見まで町に滞在するため、無料で宿泊していた。

 同じ質問をレティオールとシャルルにもしたそうだが、二人とも「リゼと相談して決める」と答える。

 リゼも同じ考えだったので、即答は出来なかった。

 幸いにも空き部屋はあるので、国主との謁見する際に宿を出る時に教えてくれたら大丈夫だと、ヴィッカーズは言うが自分たちに気を使ってくれていることに、リゼは気付いていた。


「有難う御座います」


 ヴィッカーズの好意に甘える形で、頭を下げ礼を言う。


「いいってことだ。お前は嫁さんの大事な人だしな」


 笑顔のヴィッカーズが口にした「大事な人」という言葉にリゼは、少しだけ嬉しかった。

 自分が必要とされているという気持ちだった。


「ロゼッタさんに話したいことがあるのですが、お時間大丈夫でしょうか?」

「あぁ、大丈夫だと思うが……」


 ロゼッタの名を大きな声で呼ぶと、何事かと思ったのかロゼッタが奥から顔を出す。

 申し訳ない気持ちになり、ロゼッタと目が合うと反射的に頭を下げた。


「あら、どうしたのかしら?」


 名前を呼ばれた理由が分かったロゼッタは、リゼに笑顔を向ける。


「ここでは五月蠅いだろうから、奥で話せばいい」

「そうね。奥で話を聞こうかしら」


 ロゼッタに手招きされて、母親のことを聞かせてもらった部屋へと案内される。

 椅子に腰かけるよう促されるので座ると、ロゼッタは飲み物を用意していた。

 長居するつもりはなかったリゼは断ろうとするが、「私も飲みたかったのよ」と気遣いを見せる。

 飲み物を用意するロゼッタの何気ない所作が、母親を感じさせる。

気付くとロゼッタを目で追い、幼い頃に自分が見ていた風景と重なり懐かしく思えた。


「どうぞ」


 飲み物をテーブルに置くとロゼッタも座る。


「お母さんのこと、まだ聞き足りなかったのかしら?」

「いいえ……パセキ村のことです」

「……なにかしら」


 近づかないようにと忠告したパセキ村のことだと知ると、ロゼッタは一瞬険しい表情になる。


「先程、バーナム曲芸団の人に聞いたのですが……パセキ村が雪崩に巻き込まれたそうです」

「……そう」


 生まれ育った村が雪崩の被害にあったと知り、複雑な心情のようだ。


「因果応報かしらね。これ以上、私たちのような者が増えないのであれば……いいことね」


 独り言でも呟くようなロゼッタが言葉を絞り出した。


「でも、良い思い出の無い生まれ育った村だったとしても、いざ無くなったとを知ったら、自分が思っていた以上に寂しい気持ちになるものね」


 少し悲しそうに話すロゼッタにリゼは声をかけられなかった。


「でも、雪崩に巻き込まれただけで村人が全員死んだわけでは無いってことね……」


  自分たちの容姿が神からの贈り物だと考えていた村人たちが、もし、自分と同じ容姿の人間を見つけたら、子孫を増やすために強引な手段に出るかも知れないと、自分の考えをリゼに伝える。

 それはロゼッタ自身いも当て嵌まることだが、自分にはヴィッカーズがいるし、町の仲間もいるが、冒険者のリゼは違う。

 リゼが思っている以上に酷い人間たちだから、同じ容姿の人間には気を付けるようにと釘を刺す。

 ロゼッタの表情や、今までの言葉からも大袈裟に言っているとは思えないので、忠告されたことを心に刻む。

 


――――――――――――――――――――


■リゼの能力値

 『体力:四十六』

 『魔力:三十三』

 『力:三十一』

 『防御:二十』

 『魔法力:二十六』

 『魔力耐性:十三』

 『敏捷:百三十五』(二十七追加)

 『回避:五十六』

 『魅力:二十七』

 『運:五十八』

 『万能能力値:零』

 

■メインクエスト



■サブクエスト

 ・ミコトの捜索。期限:一年

 ・報酬:慧眼(けいがん)の強化


■シークレットクエスト

 ・ヴェルべ村で村民誰かの願いを一つ叶える。期限:五年

 ・報酬:万能能力値(五増加)


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自分たちで引き留めたくせに謁見が終わったら即宿引き払いってそんな待遇ひどくない?
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