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3話

「はい、確かに。報酬の銀貨一枚です」


 受付嬢から『ケアリル草の採取』の報酬を貰い、今回のポイントが加算されたプレートを返却される。

 同じクエストは、三日以上空けないと受注は出来ない。

 この『ケアリル草の採取』は、冒険初心者救済用クエストなので、難易度がかなり低いのに報酬が高い。


 リゼは報酬を受け取ると、すぐにクエストボードに向かう。

 ランクDのクエストボードには、危険度が高い魔物討伐は無く、採取系か掃除等が多くを占める。

 あくまでもランクDは、十歳の成人に社会経験を積ませる目的の為、緊急を要するクエストも無い。

 リゼは、『街の雑草抜き』の紙を剥がそうとした際に「変だ」と疑問を抱く。

 何故、ランクDのクエストボードは、ランクCやランクBと違い、低い位置に設置されているのかだ。

 背が低いリゼでも少し高いくらいだが、クエストの紙を剥がせない程の高さでも無い。

 大人であれば片膝を付くか、腰を曲げなければクエスト内容の確認は出来ない。

 子供しかランクDのクエストを受注しないのだろうか? とリゼは考えながらも答えが出ないので、剥がすのを途中で止めたクエストの紙を剥がして、受付に走って持って行った。


 受付嬢は、クエストボード前のリゼを見ていたので、続けて依頼を持ってきたリゼに驚く事も無く、奥の部屋から籠を持ってきた。

 三時間以内で、この籠を雑草一杯にする事が、今回のクエスト達成条件になる。

 報酬は銅貨六枚だ。

 籠は背負えるようになっているので、リゼは髪を纏めて籠を背負う。

 時間的にも、夕方までにクエスト達成は可能だ。


 リゼの目の前に『ノーマルクエスト発生』と画面が表示される。

 前回同様にステータスを開いて『クエスト』の表示を押すと『ノーマルクエストを受注しますか?』となり、続いて『はい』を押す。

 今回は『達成条件:迷子の親探し』『期限:六時間』だった。

 リゼは、そんなに都合良く迷子等居ないと思いながら、道端の雑草を抜いて籠に入れる。

 リゼの行動は、冒険初心者のクエストだと街の人々には分かっていた。

 大通りから路地裏まで、リゼは一心不乱に雑草を抜く。

 街の親切な人から、雑草が多く生えていた場所等を教えて貰った事もあり、二時間程度で籠一杯になる。

 ギルド会館に戻ろうとすると、リゼは自分と同じくらいの少女が不安そうな表情で、周りを見渡している事に気が付く。

 リゼは近寄り、少女に声を掛ける。


「何か、困っていますか?」


 リゼに声を掛けられた少女は、一瞬驚く。


「……その、御父様が居なくなってしまって」


 リゼに声を掛けられた事で、不安がより大きくなったのか、安心したのか分からないが、今にも泣き出しそうな表情に変わる。


「私も一緒に探してあげる。私はリゼ、貴女の名前は?」

「ミオナ」

「うん、ミオナね」


 リゼは、ミオナの手を握ると歩きながら大声で叫ぶ。


「ミオナのお父さん、居ますか」


 手を繋がれているミオナは、大声で自分の名前を出されている事が恥ずかしいのか、顔が真っ赤だった。

 籠を背負っているので、リゼが冒険初心者のクエスト中だと通行人は分かっている。

 高そうなドレスに背籠という不釣り合いなリゼの姿が目立っている事もあり、リゼの声に街の人達は耳を傾けてくれている。

 暫く歩くと、息を切らして中年男性がリゼ達の所まで走って来るのを、リゼは発見する。


「ミオナ!」


 ミオナを見つけると、中年男性はミオナの名を叫んだ。


「御父様」


 ミオナはそう叫ぶと、中年男性の方へと走って行き、中年男性に抱き締められた。

 リゼの目の前には『ノーマルクエスト達成』と、『報酬(魅力:五増加、運:五増加)』と表示された。


「本当に無事で良かった」

「この方が、一緒に御父様を探してくださったのです」


 中年男性が、リゼの方を見る。

 抱いていたミオナから腕を解いて、リゼの前まで来ると目線を合わせるようにして話し始める。


「私はミオナの父親でカプラスと言う。この度は、ミオナを助けてくれて感謝する」


 リゼはカプラスに向かって、御辞儀をする。


「見たところ、君は冒険者か? 何か御礼をしたいのだが……」

「いいえ、結構です。困っている人が居たら助けるのが当たり前ですから」


 リゼはカプラスからの御礼を断る。


「ミオナ。良かったね」

「うん」


 リゼはミオナに声を掛けると、カプラスに向かって、


「クエストの時間が迫っていますので、失礼します」


 一礼をして、走ってギルド会館へと向かっていった。



◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



「間に合いましたね」


 受付嬢はリゼがなかなか帰って来ないので、心配していたようだった。

 リゼはプレートと籠を渡すと、その場でプレートを更新して報酬の銅貨六枚を受取る。

 クエスト完了だ。

 受付嬢は、リゼがクエストボードに行こうとするのが分かったのか、リゼを呼び止める。


「そんなに焦らなくても、大丈夫よ。だから、今日はこれで、お終いにしておきなさい」


 リゼの事を考えて、助言をする。


「分かりました。今日は、色々と有難う御座いました」


 受付嬢に向かい、リゼは頭を下げて礼を言う。

 リゼの振る舞いに、受付嬢は大人びた印象を受ける。


「部屋に戻って、ゆっくり休みなさいね」

「はい、有難う御座います」


 リゼは、階段を上っていった。


「アイリ、お疲れ様。孤児部屋行きの子は、久しぶりね」

「あっ、お疲れ。そうね、本当に久しぶりね」


 リゼの相手をしていた受付嬢は『アイリ』と言い、同僚の受付嬢は『レベッカ』と言った。


「あんなに礼儀正しい子なのに、外れスキル持ちというだけで捨てられるなんて……」

「仕方ないよ。スキルが全ての世界だから、可哀想だけどこれが現実なのよ」


 アイリは、リゼの事を気に掛けるが、それ以上の事は出来ない。

 リゼも何人か見てきている冒険初心者の一人でしかないと、アイリは自分に言い聞かせていた。


「ちょっと、いいですかね」


 アイリとレベッカが、声を掛けられる。

 振り向いた相手は、リゼが先程助けたミオナの父親カプラスだった。


「これは、カプラス様」


 アイリとレベッカは丁寧に御辞儀をする。


「こちらに、リゼという名の冒険者が戻っていないですかな?」

「リゼちゃんであれば、二階で休んでおります」

「二階? もしかして、彼女は……」

「……守秘義務が御座いますので、多くは話せませんが本日、教会の関係者と共に、こちらを訪れております」


 アイリの端折った説明でも、カプラスには十分に伝わった。

 リゼが外れスキル持ちで、捨てられた事を伝えるには十分過ぎる説明だったからだ。


「カプラス様は、リゼちゃんとお知り合いですか?」

「先程、迷子になった娘を助けてくれた。礼をしようと思ったのだが、クエストの途中だと言って走っていってしまったので、こちらに伺わさせてもらった」

「そうでしたか、リゼちゃんはカプラス様の事を、御存知無いのでしょうね」

「まぁ、御忍びで護衛も付けずに、街を視察していた私にも非はあるのだがね」


 カプラスは、この街オーリスの領主だ。

 たまに御忍びで、庶民の服装を着て街を視察している。

 当然、街の人もカプラスが領主なのは知っているが、領主と面識のある者等、多くは居ない。

 まさか、領主が街中に居るとは思わないし、服装も全然違うので、街の人々も気が付かないのだろう。


「申し訳ないが、どこか空いている部屋を貸して貰えないだろうか? それと彼女を呼んで来て貰えないか」

「はい、承知致しました。レベッカ、カプラス様を奥の商談室に御案内を。私は、リゼちゃんを呼んでくるわ」

「分かったわ」


 アイリは、リゼを呼ぶ為に階段を上がる。

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