298話
「もしかしてパセキ村出身ですか?」
話が一段落したため、話題を変えるようにバーナムがリゼに質問をする。
他の都市などのことを聞きたいと言ったリゼの言葉に反応してのことだった。
「いいえ、違います。母はそうだったようですが、私はオーリス出身です」
「そうでしたか――」
バーナムは少し考えてから、リゼに話を始めた。
「数か月前に大きな雪崩が発生して、パセキ村は巻き込まれたそうです」
パセキ村と縁があると思ったため、パセキ村の現状をリゼに教えた。
村に行くまでの道も塞がれていたことや、移動中だったこともあり数人の団員を調査に向かわせたが、パセキ村のあった場所は完全に雪に埋もれていたそうだ。
村人の生存情報まで調査はしていないが、期待は出来ないことは言葉にしなくても分かることだった。
「そうですか。有難う御座います」
バーナムの話を聞いたリゼだったが、不思議と何の感情も抱かなかった。
普通であれば「可哀そう」と悲観になるのかも知れないが、村での仕打ちを聞いた今となっては、滅んで良かったとさえ思っている。
「エルドラードの情報もありますよ」
すでにバーナムは、リゼがエルドラードを拠点に活動している冒険者だと知っている。
そして、エルドラードを離れている理由も……。
「天翔旅団のオルビスがS級冒険者になったそうですよ」
「そうですか」
さして驚くこともなかった。
よく知っている関係では無いが、オルビスの噂や、直接見たときの感想から「オルビスであれば当然だ」と思っていたからだ。
「それと、天翔旅団が解散するという噂もあるようです」
「えっ!」
天翔旅団はオルビスのカリスマ性から成り立っているクランだ。
オルビスが天翔旅団を抜ければ、自然分解することは目に見えているので、その前に解散という手段をオルビスが取ったのではないかと、バーナムが推測していた。
「多分、三つか四つに分裂するでしょう。王都エルドラードの勢力図も大きく変わりますね」
「それは金狼が一番ということですか?」
「はい、そうですね。リゼ殿には申し訳ないですが、以前であれば銀翼がいましたが、今は……。天翔旅団から分裂したクランが金狼の座を狙う形になるでしょう」
エルドラードにも多くのクランはある……が、実力と名声があるクランは限られている。
二代目銀翼は、そこらにある数多くのクランと同等なので、有名クランには太刀打ちできないということを暗に言っていた。
だが、それに反論できるだけの実力が自分たちにないことを、リゼが一番理解していた。
「あと”蒼月”と名乗る犯罪集団が、各地で悪さをしているそうだ」
「俺たちとも、そのうち出会うかもな」
「その時は返り討ちだ!」
チクマールが横から入って来て話題を変えると、バショウたち他の団員たちは嬉しそうに話している。
リゼは”蒼月”という言葉を聞いたことがあった。
オーリスにいた時、冒険者のことを教えてくれた片足のデイモンドが、所属していたクランだ。
同じ名前だけなのかも知れないと、リゼはチクマールに深く話を聞く。
「多分、同じだろうよ。リーダーの名前は忘れたが、落ちぶれたクランが犯罪に手を染めて冒険者ギルドから追放されたって話だからな」
「よくある話ね」
「そうそう。犯罪集団っていっているけど、野盗と同じだから」
アリアーヌとティアーヌも会話に参加する。
「その……曲芸団の人たち以外にも、各地にお仲間がいるのですか?」
各地を回っているバーナム曲芸団が、現在進行形で簡単に情報を得ることは難しい。
先程の提案のように、自分と同じような協力者が各地にいるのでは? とリゼは考えた。
だが、その問いにバーナムが笑顔を返すだけで、団員たちからも返答は無かった。
「これ以上は聞くな!」という無言の圧力だと理解したリゼは、それ以上の質問はしなかった。
話をフォークオリア法国に変える。
最近、勢力争いが日に日に活発化していることや、アルカントラ法国とのいざこざがあり、かなり国が荒れている。
「あの、これくらいの円盤の情報ってありますか?」
リゼは手で円盤の大きさを表す。
「あぁ、フォークオリア法国……正確には王子が血眼で探している大型魔法兵器を稼働する鍵ですね」
バーナムたちの情報に驚く。
大型魔法兵器を稼働する鍵であることは、一般人には知られていないことだ。
「もしかして、持っているんですか?」
「さぁ?」
先程とは違い、惚けるバーナム。
肯定も否定もしないので、探していることは間違いないし、もしかしたら手に入れているのかも知れない⁉ と思いながらリゼはバーナムに、それ以上のことを聞けずにいた。
心のどこかで、バーナムたちであれば戦争に使用することはないと思っていたからだ。
「産業都市アンデュスは比較的に平和みたいですが、最近は暴発? 爆発が起きて大騒ぎになっていましたね。それも蒼月の仕業って言われていましたけど、実際は犯罪組織の仕業でなかったようです。ただ、蒼月の名前だけが一人歩きして、勝手に蒼月を名乗る集団が自分たちの仕業だと吹聴しているようです」
虎の威を借る狐なのだろう。
名前で威嚇して、無抵抗な人たちを襲う。
よくある話だと、チクマールが不機嫌そうに話していた。
そして、リリア聖国の話になると団員たちの顔つきが変わる。
リリア聖国は他国への侵略を画策しているので、近寄らないほうが良いと、リゼに忠告する。
リゼが忍ということを考慮したうえで、リゼの身の安全を案じた忠告だった。
ヤマト大国の敵でもあるリリア聖国のことを知ろうと、リゼは詳しく教えて貰う。
女神リリアの代弁者である教皇を頭に、”虹蛇”と呼ばれる正体不明の側近がいる。
虹蛇は七人らしく、欠員が出ると補充するそうだが、その全ては謎に包まれているそうだ。
正体を暴こうとすることは、かなり危険な任務のため、慎重に時間を掛けていると教えてくれた。
バーナムは虹蛇の一人もしくは、その側近がサンダユウではないかと考えていた。
そう考えれば突然、姿を消したことにも納得が出来るからだ。
それだけサンダユウの情報が乏しく、少しの手掛かりでも喉から手が出るほど欲しいのだと、話を聞いていたリゼは感じる。
(あっ!)
突然、リゼは大事なことを思い出す。
「世界地図って、余っていたりしますか?」
世界を旅するバーナム曲芸団であれば、世界地図を持っているかも知れないと思った。
それが多少古くても問題無い。
「世界地図……ですか。残念ですが、私どもも一枚しかないので、お譲りすることは出来かねますね」
「そうですか。有難う御座います」
勝手な頼みだと分かった上だったリゼは頭を下げた。
実際には世界地図は三枚ある。
一枚は興行用、二枚目は諜報活動として、三枚目は頭であるサスケにも隠しているサンダユウの情報を書き込んでいるものだ。
サスケにも気付かれないように、バーナムも細心の注意を払っている。
もし見つかっても「今、確認中の地図で、いずれは報告するつもりだった」と白を切るつもりだった。
責任を追及されれば、自分一人で済ませる覚悟がバーナムにはあった。
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■リゼの能力値
『体力:四十六』
『魔力:三十三』
『力:三十一』
『防御:二十』
『魔法力:二十六』
『魔力耐性:十三』
『敏捷:百八』
『回避:五十六』
『魅力:二十七』
『運:五十八』
『万能能力値:二十四』
■メインクエスト
・瞬脚の習得。期限:一日
・報酬:敏捷(三増加)
■サブクエスト
・ミコトの捜索。期限:一年
・報酬:慧眼の強化
■シークレットクエスト
・ヴェルべ村で村民誰かの願いを一つ叶える。期限:五年
・報酬:万能能力値(五増加)




