296話
「本音で話をしませんか」
「どういうことでしょうか?」
リゼはバーナムの真意を読み取るというサブクエストを実行するため、本音という言葉を使った。
「私がヤマト大国と交流があった忍なので、協力してくれていることは理解しています」
「はい、その通りです」
「もちろん、コジロウさんやハンゾウさんたちにはお世話になりましたし、協力させていただくつもりでいます」
「ありがとうございます」
会話中のバーナムは笑顔を崩さない。
他の団員もリゼとの会話には入ってこない。
明らかに不自然な雰囲気だった。
ただし、サブクエストがなければ気付かずに話を進めていた。
「私に別のことを期待していませんか?」
皆目見当もつかないため、探りをいれるような曖昧は言葉でバーナムの反応を見る。
「はて? 別のこととは」
「それは……分かりません」
「そうですか……先程、本音でとおっしゃられましたよね」
「はい」
「リゼ殿はエルガレム王国でも有力なクランのメンバーですよね」
「そうです」
「私どもとしては、サンダユウを殺せる戦力が一つでも多く欲しいのですよ」
「……仇である相手を私が打ってよいのですか?」
本音と嘘が入り混じっているように感じたリゼは、感じたままを言葉にする。
「別に構いませんよ。一応、お伝えしておきますが、ここにいる団員全員で戦ってもサンダユウには敵いません。それこそ、親分やサイゾウさんでも一人で相手にするのは難しいでしょう」
前忍頭の称号は伊達ではないということなのだろう……が。
「普通の冒険者が倒せる相手でもないですよね」
「えぇ、無理でしょうね」
バーナムは表情を変えない。
戦力で言えば、連携が取れるであろう忍同士のほうがいいはずだ。
敢えて関係のない冒険者を巻き込みたい理由……。
(そういうことか――)
「コジロウさんやハンゾウさんたちに、サンダユウを殺させたくないんですか?」
「そう考える理由は?」
リゼは逆のことを考えた。
コジロウたちにサンダユウを殺させたくないかも知れない……と。
「怨みで冷静さを失っている……とかですか?」
「う~ん、残念ですが違いますね」
そう話すバーナムの眼を見て気付く。
「もしかして、バーナムさん……いいえ、バーナム曲芸団でサンダユウを殺したい。だから、発見したらヤマト大国に知られるより先に、バーナムさんたちに連絡する。さきほどのカワラークも実はヤマト大国でなく、ここに飛ぶようにしているんじゃないですか?」
ハンゾウたちと直接連絡が取っているのかと探りを入れられていたと、感じたリゼだったが、逆にカワラークの件が常に移動をしているバーナム曲芸団の場所に飛ぶのかを確認する。
「御明察です。私たちはサンダユウを殺すことを目的に生きています」
眼光が鋭くなる。
それはリゼに対しての脅しでもあった。
自分の親を殺された相手を憎むのは、当然の権利だ。
もしも同じ立場であれば、自分も復讐を糧にして生きていくだろうと想像する。
「条件があります」
「条件とは、なんですか?」
「もし、私がサンダユウの情報を得たら皆さんに必ず連絡をします。ですが、その情報は必ず、ヤマト大国にいるコジロウさんやハンゾウさんたちにも伝えてください。でないと、私が裏切ったと思われます」
「……たしかにリゼ殿の言うとおりですね。私どもの勝手で、リゼに御迷惑をお掛けすることはできません。それは私、バーナムの名に誓い御約束しましょう」
バーナムの回答に団員たちは、一斉にバーナムの顔を見る。
だが、バーナムの考えを理解したのか、言葉を発することはなかった。
ヤマト大国に連絡するのは、情報を入手した直後でなくてもよい。
自分たちがサンダユウに攻撃をする直前でも、約束を破ったことにはならない。
リゼの立場を理解した上での判断だった。
サブクエスト達成の表示が現れる。
慧眼の強化が意味する内容は不明だが……と思っていると、頭の中に情報が流れ込んでくる。
今まで見えていた薄っすら赤い光だけだったが、今後は赤い光は害悪、青い光は恩恵や有益となる。
スキルのように自分の思い通りに使用出来るわけではないらしい。
目の前のバーナムたちを見ても、光ることは無い。
「続けて、聞きたいことがありますがいいですか?」
「はい、なんでしょう?」
「瞬脚という忍術について教えていただけませんでしょうか?」
「……瞬脚ですか? それをどこで知りましたか?」
「それは言えません」
リゼとバーナムの視線が交わる。
瞬脚の言葉を聞いた団員たちも隣の団員と顔を見合わせたりしていた。
「瞬脚とは、相手との距離を一瞬で縮める忍術です」
忍術という言葉を使ったことで、ジョブスキル……忍術の一つだと確信する。
「それは素早く動けることと違うのですか?」
「はい。その名の通り、瞬きしたら目の前に現れます。空間を削ったのかと錯覚するでしょう」
「習得方法などは御存じでしょうか?」
簡単に教えることはない、と思いながらも質問をする。
「さぁ、私どもでは分かりませんね」
バーナムが首を横に振りながら答える。
「親分から敏捷を一定以上上げると、習得できると聞いたことがあるわ」
アリアーヌが立ち上がり発言をする。
「えぇ、私たちも盗賊だけど何かしらのジョブスキルが習得できると思いながら、必死だったから――」
ティアーヌも続いた。
「だそうです」
「ありがとうございます」
アリアーヌとティアーヌ、バーナムに礼を言う。
このメインクエストは期限が短い。
今、残っている万能能力値を全て振れば、習得可能なのか? ……絶対に達成できないようなクエストは無かったと思いながら、後で試してみようと考える。
「他に何かありますか?」
「その……失礼を承知でお聞きしますが、バショウさんやチクマールさん、アリアーヌさんにティアーヌさんたちは、どれくらいの力で戦ってくれていたのかを知りたいです」
全員が全力で戦っていたとは思っていない。
ただ、今の自分の力を確認するうえで重要なことだった。
「俺は六割くらいだな。もう少し時間があれば、七割くらいの力を見せてやれただろう。まぁ、あの傷から考えても全力出しても傷付いたことには違いないがな」
「あれは自分の実力でなく、忍刀のおかげです……」
「いいや、武器の力を引き出したのはリゼの実力だ」
「ありがとうございます」
恐縮気味に礼を言うが、本心だったので複雑な心境だった。
「そういえば、バショウは備品の玉を壊したから覚悟しておいてくださいね」
「えっ、いや……あれは」
バーナムの言葉に慌てるバショウ。
本来、破壊する予定の無かった物をバショウが勝手に壊したからだろう。
他の団員たちも、バショウが悪いと頷いていた。
「俺は三割くらいかな」
「嘘つけ!」
「全力だろう!」
チクマールが自慢気に話すと、団員たちから馬事雑言が飛び交う。
結局、皆の意見で六割程度で落ち着くが、チクマールだけは納得していなかった。
「あっ、チクマールさん。あの時は、ありがとうございました」
ティアーヌを助けてくれたことを思い出したリゼは、礼を言うのが遅れたと申し訳なさそうに頭を下げる。
「いいってことよ。美女を守るのは色男の役目だからな」
格好つける台詞に女性団員たちは大きなため息をつき、男性団員たちは汚い言葉をチクマールに浴びせていた。
リゼの目には、チクマールが可哀そうに映る。
以前にも似たようなことがあったような気がすると、暫く考える……オーリスにいたシトルと同じだと思い出すと、妙に懐かしかった。
罵倒を浴びることに慣れているのか、チクマールが気にする様子はなかった。
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■リゼの能力値
『体力:四十六』
『魔力:三十三』
『力:三十一』
『防御:二十』
『魔法力:二十六』
『魔力耐性:十三』
『敏捷:百八』
『回避:五十六』
『魅力:二十七』
『運:五十八』
『万能能力値:二十四』
■メインクエスト
・瞬脚の習得。期限:一日
・報酬:敏捷(三増加)
■サブクエスト
・ミコトの捜索。期限:一年
・報酬:慧眼の強化
■シークレットクエスト
・ヴェルべ村で村民誰かの願いを一つ叶える。期限:五年
・報酬:万能能力値(五増加)




