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289話

 テントの中で個室を作るかのように、小さなテントが建てられていた。

 入口には屈強な肉体の男性が二人立っていた。

 彼らも曲芸団の団員なのかはリゼに分からなかったが、小さなテントにいる人物を守るかのような印象を受ける。


「団長。私たちがけど、ちょっと入ってもいいかしら」


 アリアーヌの問いかけに対して一呼吸おいて、中から声が返ってきた。


「なんだ? なにか問題でもあったのか?」

「公演には問題はないわよ。それ以外でね」

「……分かった。入ってくれ」


 テントに入ると小柄な中年男性が、机で書き物をしていた。

 アリアーヌとティアーヌに続いて、リゼの姿を見ると書き物していた手を止めて、書類を引き出しに仕舞う。

 明らかにリゼを警戒した行動だった。


「この子はリゼ。オーリスの町で知り合った冒険者よ」

「リゼ。さっきの首飾りを見せてくれる」

「はい」


 アリアーヌがリゼの紹介をすると、ティアーヌが勾玉の首飾りを見せるように言う。


「それは……」

「それにリゼは転職した忍よ」


 団長は絶句して、リゼを凝視する。


「信じられる人物なのか?」

「私たちの直感だけどね」

「間違いないと思うわ」


 団長とアリアーヌとティアーヌの会話を聞いていたリゼだったが、気付くと首元に刃物を当てられていた。


「お前たちの直感だけで信じられるか」


 頭を動かすことが出来ないので、刃物を突き付けている人物の顔を確認できない。


「バショウ‼」


 バショウと呼ばれた者は、言葉を返すことなくリゼの首筋に刃物を当てたままだ。


「たしかにそうだ。だが、サンダユウの手の者かも知れないだろう」


 団長が静かに、バショウの言葉に同意する。


(サンダユウって、たしか……)


 リゼはサンダユウという人物を思い出す。


「私はヤマト大国を裏切ったサンダユウの仲間ではありません」


 一斉に視線がリゼに集中する。

 同時に背後のバショウがリゼの腕を掴み締め付ける。


「うっ‼」


 腕の締め付けに声を上げるが、バショウは気にせず尋問をする。


「なぜ、そのことを知っている」


 拘束された状態で視界に入る団長とアリアーヌとティアーヌの三人の体は光ったままだ。

 選択を間違えれば……最悪のことが頭に浮かぶが、自分の能力を信じて発言する。


「ある人から聞きました」


 リゼの発言に表情を変えることない目の前の三人。


「誰だ、それは!」


 腕も締め付けるバショウの力が強くなる。

 表情が確認できないが、なにも知らないかのようにバショウはリゼへの尋問を続ける。


「それは、言えません」


 リゼは自分の能力を信じて痛みに耐えながら話を続けると、バショウがより強く腕も締め上げる。

 その反動で、首筋に突き付けられた刃物に触れたのか痛みが走った。


(大丈夫。この曲芸団の人たちは敵じゃない……)


 そう思いながら、ハンゾウたちからのことを言わないと決めていた。

 ここで話してしまうと、自分は信用に値しない人物だと証明してしまう。

 リゼの折れない心は目にも宿っていた。

 団長や、アリアーヌとティアーヌたちは表情を変えずに無言のままだ。

 拘束されながらもリゼは、間違っていないと思える確信を得る。


「団長、入るよ……って、なんですかこの状況は⁈ もしかして、取り込み中でしたか⁈」

「マカコ! 勝手に入ってくるな‼」


 マカコと言われる団員は、団長に叱られると申し訳なさそうに頭を下げる。

 リゼも全員の団員を知っているわけではないので、マカコとは初対面だ。


(やっぱりそうだ‼)


 マカコを見て確信した。


「あなたがサスケさんですね」


 唐突なリゼの言葉に団長たちの表情が一瞬強張る。

 拘束していたバショウも不意に力が入った。


「サスケ? 誰のこと? 僕はマカコと言う名前だよ」


 マカコだけ表情を変えることなく、リゼの言葉を不思議そうな表情だった。


「いいえ。あなたはサスケさんです。間違いありません」


 リゼは臆することなく、マカコがサスケだと言い切った。


「ふざけたことを言うな」


 バショウが吠える。

 さらに腕に力が入ると、リゼの体に激痛が走る。


「どうして、僕がマカコでなくサスケだと思うんだい?」

「サイゾウさんから預かった石が熱を持ちました。それは、サスケさんも同じではないですか?」


 返事はない。

 数秒の静寂が、リゼにとって長く感じていた。

 マカコがサスケと確信したからこそ、サイゾウの名前を出した。

 なによりもサイゾウからあずかった石が熱くなったことは、近くにサスケがいる確たる証拠だ。

 そして、マカコが近付けば熱量は増すので、マカコがサスケで間違いない。

 だが、もしもサンダユウの仲間がサスケから石を奪っていたとしたら……最悪の状況もリゼは考える。


「……もういい。彼女を離してやれ」


 マカコの口調が、いや声質も変わっていた。


「しかし……」

「離してやれって言っているだろう!」


 リゼの拘束を解くことに躊躇っていたバショウをマカコが一蹴する。


「たしかに俺がサスケだ」


 一度、下を向き顔を上げると先程とは全く違う顔になっていた。

 髪をかき上げると、髪色や髪形も変化する。

 目の前で起きている状況に、頭の整理が追い付かないリゼ。


「その首飾りなどは、コジロウ様や頭たちから信用を得られなければ、手に入れられないよな」


 リゼは信じてもらえたことに安心する。


「それが本物だったらだけどな」


 サスケの目つきが鋭くなると、視界が歪み頬のあたりに風を感じると、目の前にいたサスケは消えていた。


「たしかに本物だな。こっちのもサイゾウの石だ。サイゾウがこれを渡すってことは、信用に値するってことだな」


 背後からサスケの声がするので振り返ると、手に持っていた勾玉の首飾りと、首にかけていたはずのサイゾウから預かった石をサスケが持っていた。

 咄嗟に胸元を押さえるリゼ。


(……ない‼)


 一瞬のうちに奪われた……いいや、奪われたことさえ気づかなかった。

 サスケの凄さに驚き、言葉が出なかった。


「それにバショウも、やりすぎだ。尋問する相手をきちんと見極めろと、前から言っているよな」

「すみません」


 サスケに叱られるバショウは、子供のようにしょぼくれていた。


「お前たちもだ。彼女が俺の名前を言った時、一瞬戸惑ったよな」


 アリアーヌとティアーヌは、気まずそうに俯き反省をしているようだった。


「バーナム、お前の鍛え方が足りないんじゃないのか?」


 矛先が団長に向く。

 団長の名前を聞いた瞬間に、名前がバーナムだからバーナム曲芸団なのだと、リゼは勝手に納得していた。

 バーナム曲芸団の序列は、団長のバーナムよりサスケが上なのだと見ていて分かる。

 一生懸命に取り繕うとするバーナムが可哀そうに感じた。


「サンダユウという名前を出したのは、私の反応を見るためですか?」


 簡単に情報を漏らすようなことはしないとリゼは思い、自分のなかで気になっていた疑問を質問する。


「その時、俺はこの場にいなかっただろう?」

「いいえ。サスケさんは外で聞いていたはずです。多分ですが、私と言う存在を自分の中で整理できたので、入って来たのではないですか?」

「その根拠は?」

「勘です‼」


 リゼは根拠のない言葉で、サスケの質問に答えた。


「勘ね……お前、面白いな」


 リゼの視線に合わせるように、サスケは少しだけ腰を落として、リゼの顔を直視する。


「まぁ、忍ってことは俺の後輩でもあるしな。よろしくな、リゼ」


 サスケから初めて名前を呼ばれる。

 なぜか照れ臭くなり、サイゾウから預かった物をサスケに手渡す。


「しかし、タイミング悪いよな。もう少ししたら、戻っていたのによ」

「それは親分が、定期連絡を怠っていたからではないですか?」

「俺にも俺の事情ってのがあるんだよ」


 バーナムから適切な指摘を受けると、サスケは開き直る。


「とりあえず、これは返しておく」


 勾玉の首飾りと、サスケに反応する石を放り投げた。

 リゼは落とさないようにと反応する。

 サスケを見ると、既に巻物を読んでいた。

 他の誰からも見られないようにしている。

 それを分かっているのか、バーナムたちも視線を外していた。



――――――――――――――――――――


■リゼの能力値

 『体力:四十六』

 『魔力:三十三』

 『力:三十』

 『防御:二十』

 『魔法力:二十六』

 『魔力耐性:十三』

 『敏捷:百八』

 『回避:五十六』

 『魅力:二十五』

 『運:五十八』

 『万能能力値:二十四』

 

■メインクエスト



■サブクエスト



■シークレットクエスト

 ・ヴェルべ村で村民誰かの願いを一つ叶える。期限:五年

 ・報酬:万能能力値(五増加)


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