288話
――翌朝。
ヴィッカーズたちと顔を合わせると、騎士がリゼたちに伝言を残していったそうだ。
明日の朝、迎えにくるので用意しておくようにとのことだった。
つまり、今日一日は自由に行動していいということだった。
昨日、町を散策していたレティオールとシャルルがリゼを案内してくれる。
国一番の大きな都市だが、王都エルドラードとは違い大きさ的にはオーリスに近い感じだった。
二人とも、いくつかの店の商品を気にしているみたいで、購入するかを悩んでいると教えてくれた。
ラバンを出発するのは明日次第ということもあるので、その時までに決断するそうだ。
「面白い催しがあったんだよね」
「そうそう」
二人が嬉しそうに話す。
往来する人たちの話や、歩いていた時に感じた町の雰囲気でリゼは、その催しが何かを予測出来ていた。
同時に、その催しを見てみたいと感じていたので二人に見に行くことを提案すると、二人とも「見に行く!」と答えた。
(もしかしたら、会えるかな?)
リゼは期待しながら、催しが開かれている場所まで歩く。
目的地に着くと賑やかさが増していた。
大きな旗に書かれた“バーナム曲芸団”の文字が風で揺れていた。
案の定というか、本日公演分の入場券は既に売り切れだった。
明日の昼公演であれば、残っているようだが、明日は国主に会わなければならない。
バーナム曲芸団は明日の昼公演までのため、実質見る機会がない。
「残念だったね」
「仕方がないわよ。バーナム曲芸団は有名だし、どこに行っても満員御礼だから……」
悔しがる二人が可哀そうに感じたが、リゼも同じ気持ちだった。
アイテムバッグから紐が編み込まれた腕輪を取り出す。
「なにそれ?」
意味不明な行動を不思議がるシャルル。
「ちょっと……ね」
誤魔化すように答えるリゼ。
これ以上は中に入れないように縄を張った場所で、衛兵が警護をしている。
縄に触れそうな場所までくると、衛兵の目が光る。
衛兵に叱られないように、気をつけながら中を見ていると顔見知りの団員が目に入った。
「チクマールさん」
声を上げると衛兵がリゼを睨んだ。
これ以上、何かすれば警告するつもりだった。
一方で名前を呼ばれたチクマールは驚き、周囲を見渡している。
リゼは呼んだのが自分だと分かるように、大きく手を振る。
するとチクマールが気付き、リゼの元へと駆け寄って来た。
「……どこかで会ったことがよな?」
「はい。エルガレム王国のオーリスで、お話しをさせていただきました」
リゼは腕輪を見せて、面識があることを伝える。
「あぁ〜、アリアーヌとティアーヌが気に入っていた嬢ちゃんか!」
腕輪を見て思い出したチクマールは驚きながらも嬉しそうに話す。
「その節はお世話になりました」
リゼが深々と頭を下げる。
「今は、ここにいるのか?」
「いいえ、違います。数日滞在しているだけです」
「そうか、そうか。しかし、また会えるってのは嬉しいな」
本当に嬉しそうにチクマールは笑う。
「横の二人は仲間かい?」
「はい、そうです」
リゼはのことは薄っすらとしか覚えていない。
それは仕方のないことだ。
町から町へと渡り歩く曲芸団だから、人との出会いは多い。
一人一人を全て覚えるのは無理なことだ。
ただ、気に入った者にしか渡さない腕輪を見て、記憶が呼び起こされる。
滅多なことでは渡さないアリアーヌとティアーヌの腕輪だったからだ。
「昼公演まで時間あるから、アリアーヌとティアーヌに会っていくかい?」
「いいですか? その……」
リゼはレティオールとシャルルのほうを見ると、リゼの心中を察したチクマールは笑い「仲間だからな」といい、中へと案内してくれた。
「リゼ、バーナム曲芸団の人と知り合いなの?」
「うん、ちょっとだけだけど」
リゼの交友関係に驚くシャルル。
そして、リゼに対して尊敬の念が高まる。
「おーい、アリアーヌにティアーヌ。お前たちのお客さんだぞ」
休憩しているアリアーヌとティアーヌを見つけたチクマールが、大声で叫ぶ。
自分たちに客人と聞いて驚くアリアーヌとティアーヌだったが、横にリゼの姿を見つけると、顔を見合わせて立ち上がった。
「元気にしてた?」
「はい」
リゼの顔を見たアリアーヌとティアーヌは再び顔を見合わせて笑顔になる。
双子なだけに最初に話しかけてくれたのが、姉のアリアーヌだったのか、妹のティアーヌなのか、リゼにも分からなかった。
だが、戸惑うリゼを気にしてか、毎回同じことを言っているのか分からないが、服装や装飾品で姉妹の見分け方を丁寧に教えてくれた。
「まさか、この町でリゼに会うとはね」
「そうね」
二人が自分の名前を憶えていてくれたことに感動する。
一応、腕輪は貰っていたが特別な感じだという実感がなかったからだ。
「なにか成長した感じね」
「冒険者として吹っ切れたのかしら?」
「……自分では分かりませんが、お二人に言われた言葉を思い出しながら頑張っているつもりです」
「私たちの言葉?」
アリアーヌとティアーヌは同時に話す。
双子ならではの芸当だ。
「はい、限界を決めるのは自分と言われたことや、出来ないことは切り捨てて、得意なことを伸ばすと言われたことです」
「あぁ〜、そんなこと言ったわね」
「たしかに、言ったような気がするわね」
自分たちの何気ない言葉がリゼの糧になっていたことを嬉しく思いながら、徐々にリゼと過ごした短い時間のことを思い出していった。
隣で話を聞いていたレティオールとシャルルは、リゼの言った言葉が胸に突き刺さる。
なんでも出来るようにと考えていた自分たち。
今のリゼの強さは、こういった考えからきているのだと……割り切って考えることも大事なのだと考え直させられた。
「公演を見て行くの?」
「見たかったのですが、既に入場券は売り切れていたので……」
「そう。席に余裕があれば招待したかったけど、今日は昼夜ともに満席だったはず……明日の昼公演も、ラバンでの最終公演だから一杯だったわよね?」
「あぁ、たしか余りはなかったはずだ」
アリアーヌの質問にチクマールが答えた。
「やっぱりね、ごめんなさいね」
「いいえ、とんでもないです。私たちも昨日、この町に到着したので、皆さんが来ていることを知りませんでしたし…‥」
入場券を催促しているように思われたと感じたリゼは、気まずそうに俯く。
「本当なら明日の夜公演までだったんだけど、夜公演は国主様の貸し切りなのよね」
「そうですか。でも、またどこかの町でお会いできると思いますので、その時は必ず見させていただきます」
「そうね。そのほうが楽しみが続くわね」
アリアーヌとティアーヌの笑顔につられるように、リゼも笑顔を作る。
「防具を変えたのね? 前は髪にあった白っぽい防具だったわよね?」
「そうね。それに、その武器……もしかして、忍刀?」
「はい、そうです」
「たしか私たちと同じ盗賊だったわよね……転職した?」
「はい。盗賊から忍に転職しました」
「忍! 今、忍って言った⁈」
「私もそう聞こえたわ」
「はい。お二人は忍のお知り合いがいるのですか?」
もしかしたら、ハンゾウたちから頼まれていたサスケの情報が得られるかも知れない! と思いから質問をする。
二人の顔が一変して、顔を見合わせたまま無言で会話をしているように見えた。
案内をしてくれたチクマールや、アリアーヌとティアーヌの声に反応した団員たちもリゼを見ていた。
「曲芸って、忍の技を参考にしている演目などもあるのよ。私たちも忍に会ったことがなかったので、少し驚いただけよ」
「そうそう、忍の技は魔法と違って、なにか目を引くものがあるって聞いたことがあるから」
なにごともなかったかのように冷静に話をするアリアーヌとティアーヌ。
明らかに動揺……いや、なにかを隠しているように感じていた。
その反応にリゼは、ハンゾウから言われた「忍だと知られれば、刺客に襲われるかも知れない」と言う言葉を思い出す。
リゼは考える。
昔の自分は人との接触を極力避けていた。
だが、今は……その思いに反応したのか、アリアーヌとティアーヌの姿が薄っすらと光っていた。
骨董市やボムゴーレムの時と同じ光り方だった。
確証はないが、この光は自分を導いてくれている。
それにアリアーヌとティアーヌの二人なら信用に値する人たちだと思い、アイテムバッグから勾玉の首飾りを取り出して二人に見せる。
「これの意味を御存じですか?」
リゼの行動が分からないレティオールとシャルルは、勾玉の首飾りを見るがなにも起こらないので、リゼに問い合わせようとした。
だが、それより先にアリアーヌとティアーヌが同時に口を開いた。
「リゼ、ちょっとだけ時間をもらえるかしら。チクマール、お仲間の二人を御願いね」
チクマールは頷くと、レティオールとシャルルを別の場所に案内する。
リゼもアリアーヌとティアーヌの案内で、テントの奥へと進んで行った。
自分の判断が正しかったのか……レティオールとシャルルを危険な目に合わせていないだろうか?
不安を感じながらアリアーヌとティアーヌの後をついていく。
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■リゼの能力値
『体力:四十六』
『魔力:三十三』
『力:三十』
『防御:二十』
『魔法力:二十六』
『魔力耐性:十三』
『敏捷:百八』
『回避:五十六』
『魅力:二十五』
『運:五十八』
『万能能力値:二十四』
■メインクエスト
■サブクエスト
■シークレットクエスト
・ヴェルべ村で村民誰かの願いを一つ叶える。期限:五年
・報酬:万能能力値(五増加)




