286話
ロゼッタはリアンナたちと別れて一人になる。
自分が売られたことは知っていた。
貴族の機嫌を損なわないようにと、貴族の話に愛想笑いで相槌を続けていた。
その貴族に雇われて護衛していたのが当時、冒険者だったヴィッカーズたちだった。
人身売買に関係する護衛だと知ったのは、クエストを請け負った後のことだった。
クエスト受注時に人身売買の関与していたことを知っていれば受注しなかった。
知ったのは護衛中だったので、契約違反だと考えたが貴族から圧力をかけられたため、仲間たちのこともありヴィッカーズたちは、そのまま護衛を続けた。
最初にノアをチャーロットに引き渡す。
そのまま次の引き渡し先であるチャールストンの領地に向かい、リアンナを引き渡した。
あとは自分の領地に戻るためだと、貴族は険しい山を越す道を選択する。
ヴィッカーズたちは今の時期は危険だから、時間がかかっても遠回りすべきだと助言するが、貴族が意見を曲げることはなかった。
雇い主の意見は絶対だ! 冒険者風情が逆らうな! いままで問題無かったと一蹴された。
だが、すぐにヴィッカーズたちの言葉が正しかったことが証明される。
越山中に魔物の集団に襲われる。
ヴィッカーズたちが応戦していると、貴族の馬車が立ち去る音がする。
音に反応すると、その光景に目を疑う。
ヴィッカーズたちは自分たちを囮にして、貴族は保身のために逃げたのだと気付く。
死ぬわけにはいかない……なによりも、貴族から前金しか貰っていない。
憤りを感じながらも魔物と戦闘を続ける――。
魔物との戦闘を終えたヴィッカーズたちは、仲間と文句を言いながら頂上に達する。
あとは下るだけだが、 雲行きが怪しく雨が降ると判断して、下山する足を早めた。
すぐに小雨が降りだす。
もう少し下れば、休憩できる洞穴で雨を凌ぐ場所があるので、足元に気を付けながら走る。
暫くすると横転している馬車を発見する。
先程、自分たちを置き去りにして逃げた貴族の馬車だった。
二頭いた馬の姿も見えない。
(魔物に襲われたか?)
警戒しながら、横転している馬車に近寄ると、遠くからは見えなかったが馬車の半分が崖から飛び出していた。
近くには使用人二人が馬車から放り出されたのか、横たわっている。
「助けて下さい‼」
馬車の中から女性の叫び声が聞こえる。
ヴィッカーズたちは協力しながら馬車が崖に落ちないようにして、中に残っていたロゼッタを救出する。
馬車に乗っていた貴族や他の使用人たちは横転の際に開いた扉から、崖に転落したそうだ。
横たわっている使用人たちも大きな怪我はなく、貴族に従っただけなので彼らに罪はないと介抱する。
一晩を雨風しのげる洞穴で過ごして、全員で山を下りる。
使用人たちを冒険者ギルドに連れて行き、依頼主の貴族が自分たちを囮にしたこと、その逃げた先で馬車が横転して崖に落ちたことを証言させる。
依頼は未達成だったが、貴族起因による契約不履行になるため、貴族の遺族からそれ相応の違約金を支払わせるため、冒険者ギルドが動く。
貴族の妻や息子たちは、悲しむどころか嬉しそうだった。
一人息子は自分が家長になれるし、妻は自由な生活が出来るからだ。
貴族が購入したロゼッタにも不快感しかなく、自分たちは知らないと家にさえ入れようとしなかった。
違約金代わりにロゼッタを返品する。
使用人としての契約破棄となるため、ロゼッタは自由になる。
行き先の無いロゼッタを、ヴィッカーズが暫く面倒を見ることになる。
クエストの報酬をヴィッカーズは仲間に全て譲ったからだ。
魔物との戦闘で左目の視力が下がり、年齢的にも潮時だと思いクランを脱退する。
ヴィッカーズの仲間たちも、いままでの功績や体のことを知っていたので、快く送り出してくれた。
人徳のあるヴィッカーズは冒険者を引退する。
引退後、馴染みの宿屋の主人が体調を理由に店を閉めるということで、その宿屋を相場より高い金額で買い取る。
駆け出しのころ、宿屋の主人に世話になった恩返しだったが、宿屋の主人からは反対に宿の名前は変えることを条件に出された。
これはヴィッカーズの新しい門出を自分の屋号が邪魔しないようにという気遣いだった。
暫くは主人の元でヴィッカーズは働いていたが、冒険者たちから慣れない接客をするヴィッカーズを揶揄う。
冒険者たちなりに、ヴィッカーズへの新しい門出を祝っていた。
ロゼッタもヴィッカーズと一緒に宿屋を手伝っていた。
そして正式に、ヴィッカーズが宿屋の主人となる。
元々、冒険者たちが多く集まる酒場で、空いている部屋に冒険者を宿泊させることが宿屋の始まりだと前の主人から聞いていた。
今でこそ、昼に酒を出すことは少なくなっていたが、ヴィッカーズが主人になってからは昼間でも酒が飲める宿という原点に返る儀業に戻していた。
これが“ヴィッカーズの酒場”と言われる由来だ。
そして、ヴィッカーズとロゼッタは客たちから揶揄われながらもお互いを意識するようになる。
恋仲になり揶揄われることが前以上に多くなったが、嫌な気持ちではなかった。
そして、すぐに夫婦の契りを交わした。
「私とリアンナは幼馴染だったの。リアンナの妹であるノアともね」
リゼはノアと言う名前に聞き覚えがあった。
たしか、金狼のマリックから聞かれた。
「ノアも元気でやっていればいいけど――」
ロゼッタはヴィッカーズが用意してくれた飲み物を一口飲む。
「あなたの青い目はノアと同じね」
懐かしそうにリゼの瞳を覗き込む。
「あなたの青い瞳は”氷水の眼”と呼ばれて、村では不吉を呼ぶ目だと言われて、ノアも苦労していたわ。故意に傷つけると大きな災いが訪れるという言い伝えもあり、泣きじゃくるノアをリアンナが、いつも元気づけていたのよ」
リゼにリアンナとノアの思い出を重ねるように話す。
それから、幼少期にリアンナと過ごした思い出をリゼに話し続けた。
とても穏やかな表情で、リゼはロゼッタの話を聞いていた。
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■リゼの能力値
『体力:四十六』
『魔力:三十三』
『力:三十』
『防御:二十』
『魔法力:二十六』
『魔力耐性:十三』
『敏捷:百八』
『回避:五十六』
『魅力:二十五』
『運:五十八』
『万能能力値:二十四』
■メインクエスト
■サブクエスト
■シークレットクエスト
・ヴェルべ村で村民誰かの願いを一つ叶える。期限:五年
・報酬:万能能力値(五増加)




