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283話

「寝ちゃったね」

「疲れていたんでしょうね」


 リゼの寝息に気付いたレティオールとシャルルだったが、二人とも興奮で目が冴えてしまい寝ることが出来なかった。

 リゼを起こさないように物音を立てないよう静かに二人で馬車を降りる。

 マトラたちは騎士の人たちと談笑している場所へは行きにくいため、少し離れた場所で夜風にあたる。


「凄かったね」

「うん。何も出来なかった」

「それは、僕も同じだよ。守っていると言えば聞こえがいいけど、盾を構えていただけだから……強くならなきゃね」

「うん」


 対人戦は魔物とは違い、勝手が違った。

 だが、それは言い訳だと知っていたからこそ、自分たちの力不足を痛感していた。

 上位職になったから強くなったわけではない。

 肩書きや職種に関係なく強い冒険者にならなければ! という焦りが二人にはあった。


(……あれは)


 マトラが寝付けないレティオールとシャルルに気付く。


「寝られないのか? これでも飲むといい」


 近くにいたサイミョウを呼び二人で、温かい飲み物を持って来てくれた。


「サイミョウさんにお聞きしたいことがあるのですが?」

「私で答えられることであれば、お答えしますよ」

「有難う御座います。その……サイミョウさんは回復魔術師ですよね。どうして、あんなに高度な魔法を使いこなせるのですか?」


 シャルルの問いに、サイミョウとマトラは顔を見合わせると、ばつの悪そうな表情を浮かべた。


「申し訳ない。あの時は冒険者を装うため、職業を偽っていました。私の本当の職業は神聖魔術師です」

「えっ!」

「私も剣士でなく、本当の職業は騎士になる。アヤシャも中級魔術師でなく、上級魔術師だ。申し訳ない」


 驚くシャルルを横目にマトラは申し訳なさそうに、自分とアヤシャも職業を偽っていたことを詫びる。

 騎士団の仲間だと分かった時点で頭の片隅で、その可能性を考えていたが、はっきりと告白してくれたことで納得が出来た。

 申し訳ないと頭を下げる二人に対して、レティオールとシャルルは逆に申し訳ない気持ちになる。

 サイミョウの神聖魔術師は、回復魔術師や治癒師の上位職業にあたるがレア職業になるため、回復系の職業を選択した者たちからすれば憧れの職業だった。

 治癒師よりも高度に魔法を使いこなすことが出来る。

 サイミョウが使ったサークル(指定域魔法)は、神聖魔術師のジョブ(職業)スキルだと教えてくれた。

 ラバンニアル共和国の騎士団でも数少ない一人らしい。


「どうやったら、神聖魔術師になれますか?」


 サイミョウが何回も尋ねられた質問だった。

 シャルル自身、治癒師になったばかりなので無謀なことだと承知の上だ。

 上位職の治癒師でも熟練の回復魔術師に敵わないことがある。

 下位職だから弱く、上位職だから強いというわけではないことをシャルルも分かっている。

 この質問をされたらサイミョウは必ず同じ回答をしていた。


「助けたいと思う心ですね。今、自分に出来る限りの回復方法や、常日頃からどうすれば効率よく仲間を助けられるか。それを考え続ければ、自ずと答えが出るかと思います」


 助けたいという気持ちは誰にでもある。

 それは当たり前のことだ……が、常日頃から考えていると言われれば、そうではない。

 サイミョウは自分の時間を犠牲にできるくらい、仲間のことを思えるようになれということだった。

 シャルルはサイミョウからの言葉を考えながら、自分で答えを導くつもりなのか、それ以上のことを質問はせずに礼を言う。

 その様子にサイミョウも満足そうだった。

 人に聞くだけでは成長しないということを、シャルルは分かっているのだと感じたからだ。

 そしている間に、辺りが徐々に明るくなっていった。

 騎士団の誘導で馬車はラバンへと進んでいた。

 運転手不在の馬車は、アヤシャが操る。

 荷台には騎士団三人がララァを取り囲むように座っている。

 マトラは数時間前にレティオールとシャルルに職業を偽っていたことを、リゼの前でも改めて謝罪する。


「だから、あんなに強かったんですね」

「私たち三人はラバンとバビロニアの定期運航馬車で人がいなくなる件を、極秘に調査していました。バビロニアからの乗車だと怪しまれると思い、他の町を経由してバビロニアからラバンを目指していました」

「まだ、全てが解決したわけではないですけどね」


 野盗のリーダーから出た言葉で、別の野盗が関与しているようだが、情報の共有はあったかも知れない。

 運航していた全ての馬車で人がいなくなるわけでないため、それなりの期間を要して調査する必要がある。

 今までも、行方不明になった人たちと待ち合わせをしていたと思われるの人物から話を聞いたりと、マトラたちにも事情があったことは理解できたので、怒りは無く謝罪を受け入れる。

 マトラたちの態度を見て、リゼの心に突っ掛かるものがあった。


「あの……」


 リゼは自分が”宵姫”だったことを白状して、嘘をついていたことを詫びた。

 この人たちなら話しても大丈夫だと感じていた。


「やっぱりね」


 マトラたちは笑っていた。

 サイミョウと同じように、マトラやアヤシャも自分の勘に自信を持っていたのだろう。


「その……ララァ様のことですが……」


 もしかしたら、聞いては行けないかも知れないということを薄々感じながらも、昨夜はぐらかされたことを聞く。

 様付けで呼んだのは、昨日の会話からそう呼ぶべきだと思ったからだ。


「ララァ様ですが……国主様の姫君に御座います」

「……」


 リゼたちは無言でララァを見ると、申し訳なさそうに頭を下げた。


「国主様の命でバビロニアには一緒に入られたはずです。お戻りも国主様と御一緒と聞いておりましたが……」


 マトラが困った表情でララァに尋ねる。


「その……お父様が勝手にお見合いの席を設けようとしている話を聞いて――」


 フォークオリア法国側から、ラバンニアル共和国との繋がりを強めるために、第一王子との婚姻を打診された際に、一緒にいたララァを推薦したそうだ。

 このままでは、フォークオリア法国に嫁がされると思い、隙を見て逃げ出したそうだ。


「すぐではないと思います。国主様も心配されておられるに違いありません」


 マトラはララァの行動を諫めていた。

 冒険譚が好きだったため、バビロニアに来た。

 そのことで自分の人生が大きく変わるなどと、ララァは思っていなかったため混乱してしまったと後悔の念を口にする。

 現国主には八人の妃がいる。

 ララァの母は八人目の妃で、ララァ以外の三人の姉は既に嫁いでいる。

 フォークオリア法国からの申し出に対して、条件を満たしているのはララァだけだと分かっているからこそ即答したのだ。

 世襲制でないラバンニアル共和国だから、兄たちも自分たちで商売などをしている。

 国主では無くなったとしても人脈は広いため、普通の人々よりも良い暮らしが出来る。

 姉たちも国内だけでなく国外の権力者たちに取り入っているので、将来は安泰だった。

 国主も現在の地位から退いたとしても、フォークオリア法国との関係を確固たるものになるのであれば断る理由などない。


 ララァは世話をしていた侍女や使用人には責任はないと訴えかけていた。

 マトラは「全てはララァ様の責任で御座います」と、非情な言い方をする。

 国主の娘であれば、それ相応の振る舞いが必要になり、勝手な行動を起こせば周囲の人間が罰せられる。

 もし、自分たちの馬車でなければ野盗に連れ去られて、国民に知られることになれば国主を護衛するために騎士団に責任の矛先が向く。

 過去に同じような事象があったことを知っている騎士団の騎士たちだからこそ、同じ轍は踏みたくないと思っている。


 少し考えれば分かるような当たり前のことが出来ないララァ。

 それを疎ましく思う国民がいる。

 ララァは末っ子で我儘だと国民から思われていたからだ。

 五歳の頃、今回と同じような外交時に行方不明になるという事件を起こしている。

 勝手に居なくなり誘拐されたや、使用人と喧嘩して飛び出したなどの歪曲された情報が、国内で囁かれている。

 実際は国主の寵愛を一番受けていた第八夫人を疎ましく感じていた第六婦人の仕業だった。

 軽く脅すつもりだった第六婦人だったが、指示した侍女が暴走してララァを縛り木箱に閉じ込めた。

 運悪く木箱は出入りする商人が受取り行方が分からなくなる。

 国主たちは事件だと判断して大捜査になる。

 第六婦人も次女も事態が大きくなり、言い出すことが出来ないでいた。

 途中で荷物を確認した商人がララァの存在に気付き、無事に国主の元に戻ることが出来た。

 第六婦人が事件に関与していたことは大きな衝撃だったため、すぐにかん口令が敷かれる。

 ただし、ララァがいなくなったことは知られているため、誘拐されたことにし、誘拐犯は殺害したということになった。

 この件を計画した第六婦人には処罰が下る。

 国主の逆鱗に触れたため、財産は全て没収されて、形だけの地位が残った。

 すでに自立している子供たちに頼ろうとするが、匿うことや援助すると自分たちも犯罪者の仲間だと思われるため、子供たちからも見放されることとなる。

 実行犯の侍女は口封じのため、誘拐犯の仲間として処刑された。

 なにも悪くないララァだが、この件から周囲の誰も信じられないようになる。

 楽しみと言えば、時折訪れる冒険者たちの冒険譚を聞くことや、面白可笑しく書かれている本を読むことくらいだった。

 社交的でなく、あまり姿を見せない変わっている王女。

 ララァの印象は”腫物扱いされる王女”というのが、国民たちの共通認識だった。



――――――――――――――――――――


■リゼの能力値

 『体力:四十六』

 『魔力:三十三』

 『力:二十八』

 『防御:二十』

 『魔法力:二十六』

 『魔力耐性:十三』

 『敏捷:百八』

 『回避:五十六』

 『魅力:二十四』

 『運:五十八』

 『万能能力値:二十四』

 

■メインクエスト

 ・七人でラパンに辿り着くこと。期限:ラバン到着まで

 ・報酬:魅力(一増加)、力(二増加)


■サブクエスト



■シークレットクエスト

 ・ヴェルべ村で村民誰かの願いを一つ叶える。期限:五年

 ・報酬:万能能力値(五増加)

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第六夫人も悪いがララァに対して1つも好感が抱けない。書く必要あったのだろうか?
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