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282話

「お前ら、なにをやっている‼」


 リゼ一人に、かき乱される部下たちに憤慨する。


「リゼ、離れて‼」


 レティオールの声に反応して視線をレティオールたちに向けると、アヤシャの魔法詠唱が終わり、魔法を放とうとしている。

 アヤシャたちを守るように、レティオールが盾を構えている。

 リゼが魔法射程範囲内から離れたのを確認すると、”ブリザード”が発動され視界が遮られるほどの魔法攻撃で周囲が凍り付いた。

 だが、野盗の魔術師が火属性魔法で反撃して被害を押さえようとする。

 そのことに気付いたリゼは野盗たちの背後に回り、魔術師っぽい装備の野盗を優先的に倒していく。

 一気に魔法攻撃をされたら戦況的に不利になると確信したからだ。

 アヤシャの魔法攻撃が、もう少し遅れていれば魔法攻撃の餌食になっていたのはレティオールたちだったかも知れない……仲間を危険に晒したことへの怒りが、リゼの攻撃を更に加速させていく。

 野盗たちが最初に魔法攻撃をすることは無い。

 理由は単純に、数で押し通せると考えていたからだ。

 魔法攻撃の乱発は仲間を攻撃することもあるため、余程のことでない限り最初から放つことはしない。

 生け捕りにする女性を傷つける恐れがあるから、自分たちの楽しみが奪われることになるからだ。

 そんな野盗の理由など知らないリゼは、二度も仲間を危険に晒す気は無い。

 出し惜しみせずに自分の力を駆使して、一気に野盗を駆逐していく。


「リゼ殿! 一旦、こちらに」


 サイミョウの声に従い、リゼは一度マトラたちの所に戻る。

 リゼが戻ったことで戦闘は膠着状態となる。

 野盗も簡単には攻撃が出来ない状況になっていたからだ。

 神出鬼没のリゼに翻弄されて、魔術師たちを殺された野盗たちにアヤシャの魔法攻撃を防ぐ手段は無かった。

 膠着状態に耐えきれなくなった野盗の下っ端たちが、勝手に暴走する。

 この暴走が戦闘結果を左右することとなる。

 戦況を見極めながら、マトラも指示で確実に野盗の数を減らしていく。

 暴走した部下たちに感化された他の部下たちも勝手に暴れ始めている。

 全く統制が取れず野盗たちは無惨に倒れていく。

 逃げようとする野盗もリゼは逃すことなく、取りこぼすことなく全員殺す。

 完全に心を閉ざしていたリゼは淡々と野盗を殺していく。

 その非情さを見ていたレティオールやシャルルは、自分の知っているリゼではない気がした。

 これが本来のリゼの実力だと思い、いままで自分たちに合わせてくれたのではないか……と感じ、自分たちとの実力差を感じる。


「御疲れ様です」


 戻って来たリゼにサイミョウは回復魔法をかける。


「攻撃向上、防御向上と敏捷向上の能力強化(バフ)です」


 サイミョウは続けてリゼたちに能力強化(バフ)を施す。

 その様子にシャルルが驚いていた。

 能力強化(バフ)の重複だけでも高等技術なのに、周囲にいる全員に能力強化(バフ)を一瞬で掛ける。

 目の前のサイミョウが行ったことは、シャルルが理想としていたことだった。

 自分は回復魔術師のサイミョウより、上位職の治癒師にも関わらず自分には回復魔法しか無い。

 ブック(魔法書)で習得した魔法を単体で使うことは出来る。

 魔法の重ね掛けは、それぞれの魔術師独自に進化させた技術となり、魔術師の技量によるところが大きい。

 魔法を理解しないと出来ない芸当だし、ランクAの冒険者は当たり前のように行っていることだ。

 逆に言えば、重複魔法を習得出来なければランクAの冒険者になったとしても評価されないことを意味する。

 シャルルが一番驚いたのは、複数人を一気に回復させたサークル(指定域魔法)だ。

 他の魔法を組み合わせることが出来る特殊な魔法だとは知っていたが、実際に見たのは初めだった。

 能力強化(バフ)を施してもらったリゼは、体が熱く軽い感じがして力が漲っていた。

 始めての能力強化(バフ)効果に驚きながら、まだ十分に戦えると再び、野盗たちに向かっていく。


「なんで、この数で……」


 部下たちが倒される惨状が信じられないのか、戦意喪失し始めていた。

 徐々に仲間の屍が増えことで、恐怖が増す。

 野盗の人数も一桁になると、リーダーを含め野盗たちは完全に心が打ち砕かれていた。

 軽傷で戦闘出来るにもかかわらず、座り込み立とうとしない。

 背後から馬が駆ける足音が耳に飛び込んできた。

 音は徐々に大きくなり、この場に向かって来ているのは明白だった。

 リゼは野盗の仲間が応援に駆け付けたのかと思い振り返る。

 マトラたちは気にすることなく、野盗たちから視線を外していない。

 その理由が分かったのは、足音の正体が判明した瞬間に分かった。

 全員が同じ鎧に身を包んだ集団は、胸に大きく刻まれた印が目を引く。

 リゼは、その印を見たことがある。

 先日、国主と謁見した時に掲げられていた旗と同じだった。


「マトラたちだったか!」


 馬の上から信号弾を出したのがマトラたちだと理解する。

 そして、会話からマトラたちが冒険者でなく、ラバンニアル共和国の騎士だと知る。

 そう考えれば、言葉使いが冒険者らしくなかったのも納得できた。


「シュンジュン、応援感謝する。ララァ様を追ってきたのだろう、頼むぞ!」


 マトラの発言でレティオールに隠れるように身を潜めていたララァに気付くと、すぐにララァを守るように陣形を取る。

 いきなり騎士団に囲まれたレティオールとシャルルは、自分たちが悪人にでもなったのかと勘違いするように怯えていた。


「あいつらが例の犯人たちだ」

「分かった。あとは私どもに任せろ」


 残った野盗たちを囲み拘束する。

 その様子をリゼは見ながら、レティオールとシャルルの所に戻ろうとすると、目の前に『シークレットクエスト達成』という表示が現れた。

 表示されている数字は、残り十五分を切っていた……戦闘中は夢中になっていたため、気付かなかったが時間ギリギリだったと思いながら、達成出来たことよりも誰一人傷付かずに戦闘を終えたことに安堵する。


「御疲れ様でした」


 マトラたちから労いの言葉を掛けられる。


「あの……」

「とりあえず、今日は休みましょう」


 リゼはマトラに質問しようとしたが、言葉を遮られる。

 確かに疲れを取ることが先決だと思い、マトラの言葉に従うことにする。

 これからの見張りは騎士団がやってくれるので、朝日が昇るまでの数時間だけ休むことにして、馬車へと移動する。

 横になりながらリゼは今回の『エマージェンシークエスト』を思い返していた。

 何度か感じたことだが、クエスト内容と報酬が見合っていないことだ。

 人を一人殺したのと、野盗の壊滅で大きな差がある。

 なにかしらの理由があるのかも知れないが……。

 考えていると冷静に人を殺した感触を思い出す。

 動揺もなく自然体でいられることに成長したのだと……冒険者として強くなれたことを実感していた。

 なにより、レティオールやシャルルたちが無事でよかった。

 興奮しているため眠れないかと思っていたが、予想よりも疲れていたのか、睡魔が襲ってくる。

 外では騎士団たちの声が聞こえる。


(寝なくても大丈夫なのかな?)


 少しだけ顔を出して、外の様子を見てみる。


「どうしたの?」


 リゼの行動を不思議に感じたシャルルが気にかける。


「夜中なのに、騎士団の人たちも忙しそうだなと思って」

「たしかにそうね。何日も夜通し戦ったりするとも聞いたことがあるから、一日くらいは寝ないでも大丈夫なのかな?」

「シャルル。それは冒険者でも同じだよ。だからこそ、体を休められる時には休まなきゃね」

「そうね」


 シャルルとレティオールの会話から、以前に失敗した徹夜のクエストを思い出す。

 このような状況を想定したクエストだったのか……と考えながら、気付くとリゼは寝息を立てていた――。



――――――――――――――――――――


■リゼの能力値

 『体力:四十六』(二増加)

 『魔力:三十三』

 『力:二十八』

 『防御:二十』

 『魔法力:二十六』

 『魔力耐性:十三』

 『敏捷:百八』

 『回避:五十六』

 『魅力:二十四』

 『運:五十八』

 『万能能力値:二十四』

 

■メインクエスト

 ・七人でラパンに辿り着くこと。期限:ラバン到着まで

 ・報酬:魅力(一増加)、力(二増加)


■サブクエスト



■シークレットクエスト

 ・ヴェルべ村で村民誰かの願いを一つ叶える。期限:五年

 ・報酬:万能能力値(五増加)

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