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245話

 話を一通り終えると、カリスとコジロウは個別の話があるということで、リゼはハンゾウと二人で外に出る。

 リゼの忍としての実力を見るためだった。


「リゼ殿はどのような術を使われるのか?」

「術とは魔法のことでしょうか?」

「外の世界では、そのように言うそうですな。その魔法とやらを見せて頂いてもよろしいか?」

「はい、構いません」


 リゼは最初に“ドッペルゲンガー”を見せる。


「ほぉ」


 続けて“シャドウステップ”と“ディサピア”を披露すると、ハンゾウは笑みを浮かべる。

 “シャドウバインド”と“ドレイン”は相手がいないので使用できないことを伝えると、ハンゾウが自分を相手にするように伝える。

 躊躇しながらもリゼは、ハンゾウに“シャドウバインド”で体を拘束すると、“ドレイン”を発動して小太刀を鞘にいれたままハンゾウの体に軽い攻撃を入れる。


「これだけです」


 全てを出し切ったリゼにハンゾウは満足そうだった。


「今度は拙者がお見せするとしよう」


 ハンゾウは木を上り始めた。

 そして、木から木へと飛び移る。

 その軽やかな動きにリゼは驚く。

 どうして垂直に近い木を駆け上がれるのか? リゼはハンゾウの動きから目が離せなかった。

 再び、目の前に戻ってくるが、背後からの声に振り向くとハンゾウが三人に増えていた。

 三人を交互に見ながら、どれが本物のハンゾウか見分けがつかなかった。


「これは忍の術……リゼ殿たちでいうジョブ(職業)スキルと呼ばれているものですな」

「す、すみません。なにが起きたのか分かりませんでした。教えて頂いてもよろしいですか?」

「もちろんです」


 ハンゾウは木に上ったのは“影走り”という術で、リゼの“シャドウステップ”と同じ効果だが、ハンゾウは木の窪みなどの小さな影を踏んでいた。

 的確に場所を把握しなければ出来ない芸当で、影の無い場所は数歩であれば蹴り上げて進んでいた。

 木から木へと飛び移っていたのも同じで、上った際に舞った葉に映った影を踏んで移動していた。


「そんな方法で……」


 リゼは小さな影を見つけて移動するようなことはしていなかったので、新しい発見だった。


「これは影分身という術で、リゼ殿が先程見せて頂いた魔法と原理は同じはずです」

「でも私は人の形をしてるだけで、見た目まで同じには出来ません」

「それは熟練の差です」


 リゼは自分の“ドッペルゲンガー”と、ハンゾウの“影分身”がとても同じだとは思えなかった。

 それにジョブ(職業)スキルで習得出来るのに、似た……いいや、ほとんど同じ魔法を既に習得していることを知り、魔法習得が無駄ではなかったかと考えていた。


(あれ?)


 リゼはハンゾウが詠唱していないことに気付く。

 そのことを告げると、術の名を頭の中で強く思い描くことで術が発動されると説明された。

 術と魔法の違いなのか? と考えながらも、ジョブ(職業)スキルの場合は、詠唱不要なのかも知れないと感じていた。


「これも似た術ですが」


 ハンゾウはリゼの影に向かって、見たことのない武器を投げる。

 あまりの早さに反応できなかったのが、質問をしようとしたリゼは自分の体が動かないことに気付く。


「この術も一時的に敵の動きを封じることが出来ます」


 リゼはハンゾウの言葉通り“シャドウバインド”と同じ効果を身を以って体感する。


「これは”影縫い”という術です」


 ハンゾウの”影縫い”は、大人数でも通用するそうだが、広さによって効果時間が変わってくるそうで、人ひとりであれば数分間は動きを封じることが出来るそうだ。

 似て非なる術だと思いながらも、ハンゾウが投げた武器が気になりながらも、本当に動けないことを体験していた。

 その後、ハンゾウが術を解くとリゼに疲労が一気に押し寄せてきた。

 自由を奪われて逆らおうとすると、こんなに体力を消費するのだと知る。

 良い経験になったと思いながら、足元に刺さった武器を抜く。

 見たことも無い武器だったため、ハンゾウに質問をする。


「それはクナイと言う武器になります」


 クナイは投擲用の武器にもなるが、両刃がついているので短剣のように近距離戦でも使用できる。

 それに崖などを上る際に、突き刺して足場にしたりすることも可能な万能武器だと教えてくれた。

 棒手裏剣よりも使い勝手が良い武器だと感じながらも、短刀と用途が被る点もあるため、入手方法を聞こうか悩んでいた。


「忍には、それぞれ自分独自の術……忍術があります。これ以上は御教えできませんが、もし覚悟がおありでしたら、お見せすることは可能です」


 ハンゾウが”覚悟”という言葉を口にしたことに、リゼは気付いていた。

 技……忍術を見せてくれるのであれば、”興味”という言葉でも良かったように思えたからだ。

 本来であれば、第三者に見せるようなことはしないのだろうが、自分がナングウやカリスの知り合いだからなのだろう。

 つまり……これ以上のことを知れば、後戻りはできない。

 口外無用……そう、確固たる決意を迫られている。


「活動中に姿を見られれば、口封じに殺す。そして、捕まり仲間を危険に晒すようなことがある前に自害する。それが忍です」


 リゼの表情から考えていることを見抜いたのか、脅しに近い言葉だった。


「まぁ、リゼ殿から他にも二つの技を見せて頂いておりますゆえ、こちらも二つお見せしなければ不公平ですというものですな」


 表情を少しだけ緩めると、誰もいない方向に向かって叫んだ。


「サイゾウ!」


 近くに誰かいるのかと思い、一瞬だけハンゾウから目を離すと、ハンゾウの隣にハンゾウと同じ衣装に身を包んだ人が立っていた。


「リゼ殿。彼はサイゾウと言って、優秀な忍だ。先の話で出たサスケとは幼馴染という関係になる」

「サイゾウと申します」


 必要最低限の言葉だけ話すような雰囲気を漂わせていた。


「お前の得意技を見せてやってくれ」


 ハンゾウの言葉にサイゾウが静かに頷き、リゼの周囲を歩き始めた。

 反射的にサイゾウの姿を目で追うと、サイゾウの姿がぼんやりと霞むように見える。

 気が付くとサイゾウが何人も行列を作るように変化し、あっという間にリゼの周囲を取り囲んだ。

 サイゾウの姿に気を取られていると、辺り一面に霧が発生していた。

 先程までは霧が発生するような環境ではなかったはず……。

 霧でサイゾウの姿が見えないが、何人もの影を視界が捉える。

 だが、それはサイゾウが作り出した分身だとリゼは分かっていた。


「これがサイゾウの忍術です。彼は拙者よりも忍術が上です」

「御冗談を」


 気付くとリゼの背後にサイゾウが立っていた。

 身を以って忍の凄さと、恐怖を感じることが出来た。

 そして、目の前で起きた分身と霧を発生させたのが、サイゾウの忍術だと確信する。



――――――――――――――――――――


■リゼの能力値

 『体力:四十一』

 『魔力:三十』

 『力:二十五』

 『防御:二十』

 『魔法力:二十一』

 『魔力耐性:十六』

 『敏捷:百一』

 『回避:五十三』

 『魅力:二十四』

 『運:五十八』

 『万能能力値:零』

 

■メインクエスト

 ・購入した品を二倍の販売価格で売る。

  ただし、販売価格は金貨一枚以上とすること。期限:六十日

 ・報酬:観察眼の進化。慧眼(けいがん)習得


■サブクエスト

 ・瀕死の重傷を負う。期限:三年

 ・報酬:全ての能力値(一増加)


■シークレットクエスト

 ・ヴェルべ村で村民誰かの願いを一つ叶える。期限:五年

 ・報酬:万能能力値(五増加) 

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