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223話

 商業ギルドで魔物を買い取ってもらう。

 そこで商人たちから討伐した魔物がライトアントとアーミーアント、ワーカーアントだと知る。

 完全な血抜きをされていた肉に驚きながら、熟練の解体職人はそれがニアリーチを使った血抜きだと一目で見抜く。

 冒険者ではなく解体職人だったのか? と疑われたが、偶然知ったことを伝えると、話しにくいのか申し訳なさそうに解体職人から説明があった。 

 ニアリーチの血抜きは不通に比べて血の量が少なくなるメリットはあるが、その反面、ニアリーチが血を吸う際に凝血を阻害する成分を出す。

 その成分が肉に付着すると、時間とともにその周囲だけ黒く腐敗するため、肉としての商品価値は落ちるそうだ。

 そのことを知ったリゼは少し落ち込んだが、正しい知識を得られたことで次は失敗しないようにと心に誓う。

 ただ、素材を丁寧に扱ってくれた気持ちは通じたらしく、解体職人たちに気に入られる。


「ダークスコーピオンの毒は無いのか?」

「不要だと思って、迷宮(ダンジョン)内に置いてきました」

「あちゃ~、それは勿体無いことをしたな」


 ダークスコーピオンの毒にも価値があるそうだ。

 その話を聞いてバビロニアでは毒も販売されているのかと怖くなったが、別の素材を混ぜて改良したものを家畜を襲う魔物などに使用しているそうだ。

 鉄で出来た三角錐のような形のものを被せて、袋で覆い縄で縛るということまで教えてくれた。

 バビロニアでは倒した魔物は一部の例外を除いて、ほとんどが有効利用される。

 ニアリーチなどが、その一部の例外に該当していた。

 生きたまま魔物を迷宮(ダンジョン)の外に出すことは、固く禁じられている。

 小さな魔物で気付かない場合もあるが、迷宮(ダンジョン)を出るときに自分の体を確認することが暗黙のルールになっている。

 希少な迷宮(ダンジョン)の魔物を流出させたくないラバンニアル共和国の意向だ。

 当然、罰則も厳しいため、冒険者たちも気を使っていた。


 リゼは解体する時に気になったことなどを質問すると、解体職人たちは解体に興味を持つ希少な冒険者を歓迎するかのように、解体技術を教えてくれた。

 横で見ていた商人も珍しい光景に笑って、解体職人たちを止めようとはしなかった。

 そんなことを知らない素材を商業ギルドに持ち込んだ冒険者たちは、リゼのことを解体職人を目指すために冒険者をしているのだと勘違いする者をいた。

 それだけリゼが解体職人たちに教えを請う姿勢が、真剣そのものだったからだろう。

 解体技術だけでなく、魔物の情報も得ることが出来た。

 どの階層に、どのような魔物が生息しているか。

 その魔物の弱点など、魔物図鑑にはない貴重な情報だった。

 当然、魔物討伐を優先にしている冒険者たちも知らない情報もある。

 素材を高額で買い取ってもらおうとする意志がない冒険者が多いからだ。

 質より量を優先にしたり、いかに深い階層の魔物を持ち込むかが最近の主流に変わってきている。

 有益な情報を得たリゼだったが同時に絶望も感じていた。

 魔物の種類が多くなるのは、階層が一気に広くなる八階層からと聞いたからだ。

 六階層も広いが暗いため、探索の難易度が高いわりに面倒な魔物が多い。

 そのため、多くの冒険者は八階層まで一気に下りるそうだ。

 リゼが単独(ソロ)の冒険者だと伝えると、冒険者ではないので明言を避けるが「さすがに厳しい」というのが共通認識だった。

 八階層までは行けても、八階層での魔物は、そこまでの七階層までと違うからだ。

 フルオロが言っていた「安全を考えるなら十五階層まで」と言う言葉を思い出す。

 それに八階層からは、更に幾つも分かれた道が増えるため、冒険者同士の争いも活発化されるから危険となる。

 解体職人たちは中型の魔物が出現する九階層の話はしなかった。

 リゼが九階層に行けるのは、まだ先だろうと思っていたからだ。

 帰り際、解体職人たちから「応援しているぞ!」と激励の言葉を貰う。


 リゼは道具屋でスクロール(魔法巻物)で購入できるリストを見ていた。

 中距離から長距離の攻撃がないため、攻撃手段を増やすため、スクロール(魔法巻物)の購入を考えていた。

 分かってはいたが、やはり高額なため貧乏性の自分では使うのに躊躇ってしまうと、購入を断念する。

 気にせずにスクロール(魔法巻物)を使える冒険者になれる日がくることを考える。

 火炎瓶などの攻撃力が無いような物で代用できないかとも考えてもみるが、良い案が浮かばない。

 結局、時間だけ消費して道具屋を出る。

 店の位置などをもう一度把握するため、少し遠回りして宿に戻ることした。

 人だかりが出来ている場所があったので、駆け寄ってみると、床に仰向けで寝ている人。

 その顔には白い布がかかっていた。

 教会の人が祈りを捧げている姿を見て、「誰かが亡くなった」ことを知る。

 野次馬の話から、亡くなったのは冒険者になったばかりの三人だった。

 バビロニアの迷宮(ダンジョン)は冒険者ランクに関係なく入ることが出来る。

 洞窟に入るのに冒険者ランクは関係ないということと同じだ。

 クエストでもないため、自己責任で入るのだから問題にはならない。

 この命を落とした三人の冒険者たちも明るい冒険者生活を夢見ていたに違いない。


(あれ?)


 リゼはあることに気付く。

 初めて迷宮(ダンジョン)に入った時、二階層で列から離れたパーティーだったからだ。

 楽しそうな印象だったので、よく覚えている。


「二階層で死にそうなったそうだ」

「瀕死の状態で見つかったらしいぞ」

「下層から、なんとか二階層まで逃げてきたってことだろう?」

「いいや、二階層で崩れた岩がった場所を進んで行ったら、別の場所に飛ばされたそうだ」

サークル(魔法陣)か⁈」

「そのことで、冒険者ギルドも情報を集めているそうだ」

「いやいや、おかしいだろう。仮にサークル(魔法陣)だったとして、どうして戻って来られるんだ?」

「だから、それも含めて情報を集めているんだろう」

「……どうせ、金儲けだろうがな」

「当たり前だ!」


 この町の冒険者ギルドは自己責任を前面に出して、冒険者が死のうと関係ない。

 だが不測の事態が起きれば、話は別だ。

 今回のようにサークル(魔法陣)が発見されれば、その先は新しい場所で未開拓の地かも知れない。

 冒険者より先に宝を手に入れたいと考える領主や権力者が我先にと、その地を目指すだろう。

 そのため、冒険者ギルドは情報を集めて報告する必要があった。

 どの国でも冒険者ギルドは、その土地の権力者に逆らうことが出来ないのが実情だった。


 冒険者ギルドから迷宮(ダンジョン)探索のクエストが発注される。

 人数に制限はない。

 もちろんランクもだ。

 ただし、クエスト期間中に得たものは魔核一個だろうと全て提出しなければならない。

 完全成功報酬で提出した物の額に応じて支払われる。

 ギルド職員も同行するため、不正は出来ない。

 厄介なのは領主が自分のお抱え冒険者も同行させる。

 誰よりも先に未発見の宝を自分のものにしたい強欲な領主の考えることだった。

 出発は二日後の明朝で、クエスト参加者は明日中に受注する必要がある。

 今、迷宮(ダンジョン)にいる冒険者は運がないだけらしい。


 リゼは悩みながらも、このクエストに参加しないことにした。

 理由は実力不足だ。

 自分のミスで誰かに迷惑をかけると思ったら、簡単に受注できなかった。

 しかし、慎重に物事を考えるリゼとは対照的に、冒険者たちは浮足立っていた。



――――――――――――――――――――


■リゼの能力値

 『体力:三十六』

 『魔力:三十』

 『力:二十三』

 『防御:二十』

 『魔法力:二十一』

 『魔力耐性:十六』

 『敏捷:八十六』

 『回避:四十三』

 『魅力:二十四』

 『運:四十八』

 『万能能力値:零』

 

■メインクエスト

 ・迷宮(ダンジョン)で未討伐の魔物討伐(討伐種類:三十)。期限:三十日

 ・報酬:転職ステータス値向上


■サブクエスト

 ・瀕死の重傷を負う。期限:三年

 ・報酬:全ての能力値(一増加)


■シークレットクエスト

 ・ヴェルべ村で村民誰かの願いを一つ叶える。期限:五年

 ・報酬:万能能力値(五増加) 

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