220話
武器と防具が完成する当日、朝一番で武具屋に向かったが、まだ出来ていなかった。
夕方にもう一度、来るようにと言われる。
アイテムバッグは完成していたので、先にアイテムバッグのみ受け取る。
スワロウトードを買い取ってもらうため、商業ギルド会館へ向かうことにした。
綺麗に解体されたスワロウトードを高値で引き取ってくれた。
解体技術も褒められて、少しだけ嬉しい気持ちになる。
最近はスワロウトードを持ち込む冒険者が少ないため、持ち込みは大歓迎のようだ。
高値で買取して貰える魔物の種類を教えて貰うように頼むと、
帰り際には「またよろしく!」と期待される。
その足で冒険者ギルド会館に向かい、アイテムバッグの中身を説明された。
リゼの考えていた通り、かなり昔の冒険者もいたようで武器や防具も古いもので、リゼが使用できるようなものはなかった。
幸運だったのは全部で二十四つのライトボールのスクロールを手に入れられたことだった。
当たり前の話だが、迷宮に入る冒険者がライトボールのスクロールを持っていない訳がない。
不測の事態に備えて予備のスクロールを持っている。
しかし、リゼは姿恰好から目立った存在になり、一部の冒険者から目を付けられる。
もちろん、悪い意味でだ。
悪目立ちしたことに気付いていないリゼは迷宮に必死で、冒険者を始めた当時に目立たないようにするという気持ちを完全に忘れていた。
とくにすることも無く、夕方まで時間があるので一旦、宿に戻ることにする。
宿に戻ったリゼに朗報が入る。
リャンリーが宿に戻ってきていた。
約束通り、リゼのことをリャンリーに話してくれたらしく、リゼが戻ったら部屋まで来るようにと言われていた。
見知らぬ冒険者の部屋に行くことには抵抗があったが、こちらから話を持ち掛けておいて行かないのは失礼にあたると、リャンリーの部屋を聞く。
部屋の扉を叩き、リゼは名前を名乗ると中から女性の声で返事があった。
勝手にリャンリーが男性だと思っていた。
長身の女性が部屋へと迎え入れてくれる。
「あの……フルオロさんから――」
緊張のせいか思うように言葉が出て来ない。
とりあえず、フルオロからの紹介状をリャンリーに手渡す。
「ありがとう」
リャンリーはリゼからフルオロの紹介状を受け取ると読み始める。
短い文章だったのか、すぐに紹介状を閉じた。
「それでなにが聞きたい?」
優しい口調ではあったが、どことなく怖い感じがしていた。
リゼは迷宮の基本的なことを最初に質問をする。
リャンリーはリゼの問いに対して、丁寧に答えてくれる。
注意する魔物や、各階層の特徴など――。
リゼは忘れないようにアイテムバッグから魔物図鑑を取り出して、最後の頁にあった空白の頁に、一字一句忘れないよう書き留める。
「それでパーティー編成は?」
「単独です」
戦い方を聞いた時に、リャンリーから反対に質問をされた。
即答するリゼに驚く。
「止めておきな。単独で戦い続けられるほど、簡単な迷宮じゃない」
自分たちが必死で攻略している迷宮を舐められていると思ったのか、簡単に考えているリゼを睨む。
「私の目的は強くなることなので、奥に進むことが目的ではありません」
「強いってなに?」
リャンリーの問いにリゼは答えられなかった。
「仲間を守れるだけの力が欲しいです」
「そう……それなら、今すぐじゃなくてもいいから、パーティーを組みな」
予想外の答えだった。
だがリャンリーは単独の戦い方に慣れると、パーティーでの戦闘に支障をきたすこともあると説明をする。
今すぐと言わないのは、それなりに信用出来る冒険者でないと意味がないからだ。
仲間を守りたいと言ったのであれば、その仲間を守る状況でないリゼの言葉は矛盾していると伝えた。
「そうですね……」
「別に弱い冒険者でも構わない。それを補うのが仲間ってもんだ」
「はい」
項垂れるリゼを見て、言葉が過ぎたと感じたのかリャンリーは話題を変える。
「それより、その恰好は?」
「あっ! すみません」
失礼な格好だと思ったリゼは謝罪するが、リャンリーが聞きたいのは、そういった答えでは無かった。
「その……スクィッドニュートの墨で防具が墨だらけになったので今、黒く染めてもらっています」
「スクィッドニュートの墨って――あぁ、冒険者ギルドで噂になっていた冒険者はお前だったのか!」
リゼのことは噂になっていたようだ。
松明を持って迷宮に入り、スワロウトードの巣へ積極的に入って行き挙句の果て、スクィッドニュートの墨を被って地上に帰還した。
それだけでなく、魔物図鑑を購入したことも噂の一端になっている。
「とりあえず、この町の……バビロニアの迷宮を楽しんでくれ」
楽しむという言葉に違和感を感じたが、リャンリーなりの優しさだと捉える。
「疲れているところ、ありがとうございました。大変、勉強になりました」
「別にいいって。フルオロの紹介だしな」
礼儀正しいリゼに好感触を感じながら、迷宮での戦いに耐えられるのか心配する。
「リャンリーさんは、ランクAなんですよね?」
「あぁ、一応な。長い間、バビロニアにいたから自然になれたって感じだな」
リャンリーが謙遜していることは、リゼにも分かっていた。
長く冒険者を続ければランクAになれるわけではないからだ。
「今はレベルなんてものが流行っているが、あれが迷宮での冒険者の死亡率をあげていると個人的には思っている。あくまで私の私見だけど、他の冒険者のレベルは信じないほうがいい」
嘘の過剰申告することで、自分を強く見せて仲間を集めるが、戦闘になると思うような連携が取れないことが多いそうだ。
「過小評価してでも、パーティーを組んでくれる仲間のほうが、まだ信用出来る」
リャンリーの言い分は良く分かる。
レベルの高い冒険者としてパーティーを組めば、自分たちが楽を出来ると思うからだ。
これは、レベルの高い冒険者の恩恵に預かろうとパーティーを組む冒険者にも責任がある。
とは言え、自分を強く見せようとして、嘘のレベルを言う冒険者のほうが悪質だ。
「お前はパーティーを組んでいた時、仲間に対して正直に自分のレベルを言ったのか?」
リャンリーはリゼを試していた。
だが、リゼの言葉でそれが無意味なことを知る。
「ずっと単独ですから、誰にもレベルの話はしていません」
「迷宮を攻略するのに単独って――」
リャンリーはリゼが単独だと知っていたが、過去にパーティーを組んでいたと思っていた。
他の町から来たようなので、クランに所属しているかとも思ったが、敢えて詮索はしない。
それに、自分たちが迷宮攻略を目標にしているが、他の冒険者たちは違うことに気付いたからだ。
リャンリーたちは数日前に迷宮内で瀕死の冒険者を発見して、自分たちの予定を変更して負傷者たちを地上まで送って来た。
本来であれば、今は迷宮内にいるはずだったので、リゼが会えたのは幸運だった。
「まったく、誰が言い出したんだか」
レベル否定派のリャンリーは不満を口にした。
「まぁ、迷宮で見かけたら、声をかけてくれ」
「はい、ありがとうございます」
リャンリーと仲間たちは明日には再度、迷宮に向かうそうだ。
リゼはパーティーを組む提案に不安を抱えながらも、リャンリーに再度礼を言って別れた。
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■リゼの能力値
『体力:三十六』
『魔力:三十』
『力:二十三』
『防御:二十』
『魔法力:二十一』
『魔力耐性:十六』
『敏捷:八十六』
『回避:四十三』
『魅力:二十四』
『運:四十八』
『万能能力値:零』
■メインクエスト
・迷宮で未討伐の魔物討伐(討伐種類:三十)。期限:三十日
・報酬:転職ステータス値向上
■サブクエスト
・防具の変更。期限:二年
・報酬:ドヴォルグ国での武器製作率向上
・瀕死の重傷を負う。期限:三年
・報酬:全ての能力値(一増加)
■シークレットクエスト
・ヴェルべ村で村民誰かの願いを一つ叶える。期限:五年
・報酬:万能能力値(五増加)




