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184話

「敢えて悪者にならなくても良かったのに」

「あぁ!」


 リゼたちがいなくなった冒険者ギルド会館で、壁にもたれて金狼の仲間が手続きをしている様子を見ていたコウガに向かって、呆れ顔で金狼のサブリーダーであるマリックが話していた。 


「まぁ、あそこで言い返す……リゼだったか? たしかに、コウガが好きそうな感じの冒険者だね」

「あいつはクウガの置き土産のようなものだからな。王都にいる間は守ってやるといった約束を果たしただけだ」

「守る? そういうことなら、もう少し優しい言葉を掛けてやるべきでは?」

「あいつだって冒険者だ。銀翼に入ったってことは、今まで以上の困難が待ち受けているだろう。簡単に死なれたら、それこそクウガの馬鹿が化けて出てきそうだしな。だから、それなりに強くなってもらわないと……な。それと、銀翼にちょっかい出す馬鹿がいたら……分かっているな」

「ふっ、当たり前でしょう。弱いもの虐めは、俺も嫌いだからね。他の冒険者にも言っておくよ。弱い相手に粋がる奴は、金狼を名乗る資格がないからね」

「そうだな……」


 コウガが(おもむろ)に天井を見上げる。


「クウガが羨ましかった?」

「そんなこと……いや、そうだったのかも知れないな」

「金狼の看板が重くなってきたとか?」

「さぁ、どうだろうな。重いと言ったら……マリック、お前変わってくれるか?」

「そんなの御免だね。俺はコウガがいるから、金狼にいるだけだしね」

「それも昔の約束だろう」

「昔だろうが、約束は約束だからね」

「義理堅いな」

「それはお互い様だ」


 笑い合う二人。

 幼少時代からの知り合いだからこその会話だった。

 混迷だった銀狼時代から苦楽を共にしている。

 金狼になる前、銀狼時代のクランリーダー”イージウス”はコウガとマリックの恩人だった。

 学習院も品行方正な生徒では無かったコウガとマリック。

 座学は全然だが、実戦では他の生徒を追従させない強さを見せつけるコウガと、座学で優秀な成績を残すうえ、実戦でも他の生徒を圧倒していたマリックが二人でいるため、同級生や上級生さえも文句をいう生徒はいなかった。

 イージウスも上級生だったが、異質な先輩だったので学習院でも有名な存在だった。

 血気盛んなコウガとマリックは、イージウスに喧嘩を売るが手も足も出ずに敗北を味わう。

 その後、何度も勝負を挑むが勝つことは無かった。

 先輩に何度も喧嘩を売る生意気な後輩。

 上級生の中には貴族の子息もいるため、権力で押さえつけようとしたが反発する二人。

 コウガとマリックの存在を疎ましいと感じる上級生の多くなるのに、長い時間は必要なかった。

 数で脅そうと上級生たちは集団で二人に忠告をする。

 だが、素直に従うコウガとマリックでは無かった。

 当然、その場で二人対十数人という喧嘩が始まる。

 さすがのコウガとマリックでも簡単には勝つことが出来ずに、最後は一方的だった。

 それでも屈することなく、最後まで反抗し続けた。

 そんな時、イージウスが姿を見せる。

 上級生たちの表情が曇る。

 この状況はイージウスが一番嫌う状況だと知っていたからだ。

 無言のまま近寄ると、有無を言わさずに上級生たちを殴り始めた。

 抵抗する上級生たちだったが、力の差は歴然だった。

 戦ってきた場数が違うのだろう。

 大人数とはいえ、イージウスは向かって来る相手を見逃さずに的確に殴り倒していく。

 イージウスの強さは知っていた上級生だったが、鬼気迫る迫力に怯み始める。

 だが、イージウスは手を緩めることなく、追い詰めるように殴り続けた。

 コウガとマリックは倒れたまま、その圧倒的な強さを目の当たりにして、自分たちが化け物相手に喧嘩を売っていたことを痛感していた。

 結局、コウガとマリックが負けた上級生たちを一人で倒してしまった。


「悪かったな」


 イージウスは去り際に一言だけ呟いた。


 この件は貴族の子息が大怪我したこともあり、学習院でも大問題となる。

 ただ、大人数で下級生を襲ったという事実もあり、上級生たちは二十日の謹慎となる。

 二十日の謹慎は、学習院でも決して軽い処分ではなかった。

 進学できない生徒も出て来る可能性もあるので、新学期になればコウガとマリックと同学年になる

 素行不良だったコウガとマリックにも責任はあるということで、二人には三日の謹慎処分が下る。

 しかし、多くの生徒に怪我を負わせたとして、イージウスは学習院を去ることになった。

 噂でイージウスが冒険者になり、銀狼というクランで名を上げていることを知る。

 コウガとマリックは学習院を卒業と同時に、イージウスを訪ねて銀狼に入った。

 実力主義の銀狼でイージウスは頭角を見せていた。

 新参者のイージウスと表立って対立する冒険者はいなかった。

 銀狼というクランの特徴を知っていたからだ。

 数こそ全てという時代だったこともあり、誰かれ構わずクランに入れていた拡大路線をイージウスは嫌っていたが、時代の流れと思い受け入れていた。

 必然的に実力が伴っていない冒険者も多くクランに所属していた。

 人数が多ければ、それだけ問題事も多くなる。

 当時のクランリーダーは、この拡大路線がいずれクランの崩壊を招くと危惧し始める。

 その矢先にノアの事件が起きてしまった。

 責任を取り、リーダーの座をサブリーダーに譲り、自身は冒険者も引退した。

 新しくリーダーに就任したリーダーも白狼と合併した後に、狼牙から金狼に名を変えたと同時にリーダーを譲る。

 銀狼を立て直すまでが自分の仕事で、銀狼を衰退させた自責の念もあったようだ。

 金狼の二代目リーダーは、白狼のリーダーと相談した結果、イージウスを任命する。クランの立て直しという引き継がれたが、月日とともに自分は金狼のリーダーの器ではないと感じ始めていたからだ。

 反対する冒険者もいたが、イージウスが「文句があれば、いつでも挑戦を受ける」と言い放ち、反対する冒険者を実力で黙らせた。

 何度も向かって来る冒険者には、何度も戦う。

 そして徐々に挑戦者は減っていくのに、反比例してイージウスをリーダーとして認めていた冒険者たちの心に、イージウスに対して尊敬の念を抱くようになる。

 コウガとマリックも、いち冒険者として金狼の屋台骨を支えた。


「あまり勝手なことをすると、フォローする俺も大変だから、ほどほどに頼むぜ」

「俺が自分勝手なのは、昔からだろうが」

「たしかにそうだが……金狼と言えばコウガだと冒険者の誰もが、コウガの名を頭に浮かべるが、銀翼は違う。アルベルトやクウガにアリス……それぞれの名前を浮かべる冒険者が多い。この意味が分かるか?」

「犬系クランか、猫系クランかの違いだろう」

「そう。だから、コウガになにかあれば金狼は崩壊するということ」

「そんな大げさな」

「事実だ」


 マリックはコウガが話す言葉とは裏腹に、クウガの死を本当に悲しんでいるのだと思いながら、コウガの顔を見ていた。



――――――――――――――――――――


■リゼの能力値

 『体力:三十六』

 『魔力:三十』

 『力:二十二』

 『防御:二十』

 『魔法力:二十一』

 『魔力耐性:十六』

 『敏捷:八十四』

 『回避:四十三』

 『魅力:二十一』

 『運:四十八』

 『万能能力値:零』


■メインクエスト

 ・敬える冒険者への弟子入り。期限:十四日

 ・報酬:戦術技術の向上、理解力の向上

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