魂の葬送曲 04
「エイプリル」
グレンと共に、クラネスは彼女の家の前にいた。
エイプリルは、現れた二人の姿に、激しく動揺する。
「……何、クラネス。そんな顔して」
言葉の出ないクラネスの代わりに、グレンが言った。
「ローランド・ベルは連行され、現在騎士団で取調べを受けている」
エイプリルは、見る間に顔を歪めた。
「そんな。大丈夫だって言っていたのに」
「エイプリル……」
クラネスは唇を噛んだ。
「知っていたのね。私、てっきりあなたは何も知らないと思っていたのに……」
そうであってほしかった。だがクラネスの願いとは裏腹に、現実はそうではなかった。
エイプリルは項垂れる。
「……知っていたわ。だって、私が話したんだもの。レニング・コデックスが今はラングハート家にあることも、それから、あなたがカレン広場に行くってことも。きっとクラネスの性格なら、そうするって思ったから。でもあなたを傷つけることは絶対にないって約束してくれたから、だから私」
「ローランドは、レガリスに行っているって言ってたのに。それも、嘘だったのね」
「そうよ。ごめんなさい」
エイプリルの瞳に、涙が浮かんだ。エイプリルはそのまま、クラネスに縋りつく。
「クラネス、お願い」
そうやって、必死の思いをクラネスにぶつける。
「ローランドは悪くないの。お願い、あなたのお父様にそう言って」
「エイプリル……」
「あなたのお父様なら、ローランドを助けることもできるでしょう? お願い、クラネス」
クラネスは、言葉に詰まった。友達の涙に、胸が苦しい。でもそうすることは、できなかった。
「……駄目よ。それはできないわ」
「クラネス!」
「できないわ。法は、すべての人に平等よ。仮に私がお父様に何か言ったとしても、それで何かが変わることはないわ」
エイプリルはうつむいた。ぽたぽたと地面に水滴が落ちていく。
「余罪がなければ、それほど重い刑にはならないはずだ」
ややして言われたグレンの言葉に、エイプリルは顔を上げる。
「兄の方には窃盗の余罪がある。それに関与していなければ、だ」
「……していないと思います。今回のことだって、本当に悩んでいたんだもの。あの人はずっと、お兄さんを助けたいって言ってた。子供のころに、お兄さんがそうしてくれたように」
グレンはひとつ息をついた。
「きみも騎士団に来て、今回の件で知っていることを、すべて話して欲しい。場合によっては、きみ自身も、罪に問われる」
グレンの言葉に、エイプリルはゆっくりと頷いた。
「わかっています」
それからエイプリルはクラネスに向き直る。
「クラネス、ごめんなさい。許してなんて、言えないけど――」
「許すわ。当たり前じゃない、友達だもの」
クラネスはエイプリルの手を取り、ぎゅっと握った。
エイプリルは涙を浮かべた瞳を小さく見開いて、それからもう一度嗚咽した。




