表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
24/32

恋人たち 03

 二台用意された馬車のひとつに乗せられると、クラネスの正面に座ったユアンは、馬車の外を無言で眺めていた。

 その横顔を見ていて、クラネスは抑えきれずに言葉をかけた。


「ユアン。誰でも良かったって本当なの?」

「…………」

「どうしてそんな悲しいことを言うの?」


 ユアンの儚げな横顔に、クラネスは涙が出そうになった。

 しかし、ややして言われたユアンの言葉に、クラネスは驚く。


「今は違う」

「……好きな人ができたの?」

「そういうわけじゃない。ただ、馬鹿なことはもうやめたんだ」


 ユアンの言葉の意味を図りかね、クラネスは一度黙った。

 多分ユアンには、ユアンにしかわからない事情があるのだ。ユアンの持つ儚げな雰囲気に、妙に納得している自分がいた。


 ややして、かつてのニコラスの言葉を思い出していた。人の善意を、疑ってはいけない。

 それができず、一度はユアンを非難していた自分を省みながら、クラネスは噛みしめるように言った。


「いつか、できるといいわね」

「……何が」

「だから、好きな人。できるといいわね、ユアンにも」


 本当に、心からそう思った。

 するとユアンは、こちらを向いて小さく笑う。


「お前にとっての、グレンと同じように?」


 瞬間、クラネスは顔を赤くした。


「婚約者に恋か。まったく、単純でうらやましいよ」

「失礼ね!」


 と頬を膨らませたクラネスに、ユアンは再び窓の外に視線を戻すと、伏し目がちに、静かな声で言った。


「グレンはまともな男だ。きっとお前を大切にしてくれる」


 自分は違うとでも言いたげなユアンに、見ているこちらが辛くなった。

 クラネスは首を横に振り、真剣な眼差しで答える。


「ユアン、あなただって同じよ。私を守ってくれた。とても立派な騎士だったわ」


 そうすると、ユアンはこちらをちらりと見て小さく笑う。


「お前に何かあったら、グレンに殺される」


 その眼差しには、ユアンなりの優しさが確かにあった。

 冗談めかしたユアンの言葉に、クラネスも笑った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ