恋人たち 03
二台用意された馬車のひとつに乗せられると、クラネスの正面に座ったユアンは、馬車の外を無言で眺めていた。
その横顔を見ていて、クラネスは抑えきれずに言葉をかけた。
「ユアン。誰でも良かったって本当なの?」
「…………」
「どうしてそんな悲しいことを言うの?」
ユアンの儚げな横顔に、クラネスは涙が出そうになった。
しかし、ややして言われたユアンの言葉に、クラネスは驚く。
「今は違う」
「……好きな人ができたの?」
「そういうわけじゃない。ただ、馬鹿なことはもうやめたんだ」
ユアンの言葉の意味を図りかね、クラネスは一度黙った。
多分ユアンには、ユアンにしかわからない事情があるのだ。ユアンの持つ儚げな雰囲気に、妙に納得している自分がいた。
ややして、かつてのニコラスの言葉を思い出していた。人の善意を、疑ってはいけない。
それができず、一度はユアンを非難していた自分を省みながら、クラネスは噛みしめるように言った。
「いつか、できるといいわね」
「……何が」
「だから、好きな人。できるといいわね、ユアンにも」
本当に、心からそう思った。
するとユアンは、こちらを向いて小さく笑う。
「お前にとっての、グレンと同じように?」
瞬間、クラネスは顔を赤くした。
「婚約者に恋か。まったく、単純でうらやましいよ」
「失礼ね!」
と頬を膨らませたクラネスに、ユアンは再び窓の外に視線を戻すと、伏し目がちに、静かな声で言った。
「グレンはまともな男だ。きっとお前を大切にしてくれる」
自分は違うとでも言いたげなユアンに、見ているこちらが辛くなった。
クラネスは首を横に振り、真剣な眼差しで答える。
「ユアン、あなただって同じよ。私を守ってくれた。とても立派な騎士だったわ」
そうすると、ユアンはこちらをちらりと見て小さく笑う。
「お前に何かあったら、グレンに殺される」
その眼差しには、ユアンなりの優しさが確かにあった。
冗談めかしたユアンの言葉に、クラネスも笑った。




