恋人たち 02
クラネスが騎士団本部で待っていると、グレンが騎士団員たちを伴って、戻ってきた。
一緒にいるサラの姿を確認したとき、クラネスは安堵のあまり涙が出そうになった。
結局、犯人の足取りは掴めなかったということらしい。
グレンが、苦い顔をしながら息をついた。
「今は、サラが無事だったという事実だけで、良しとする必要があるだろう」
視線の先では、本部で待機命令を受けていたルイスが、飛び込んでくるように部屋に入ってきたところだった。
「サラ!」
「……ルイス」
確保されたサラは、現れた恋人の姿に、ぽろぽろと大粒の涙を零した。
恋人たちは強く抱き合う。騎士団員や、クラネスの前だということも忘れて。
サラの話によれば、軟禁はされていたが、暴力などはなかったらしく、サラは小さな怪我ひとつもしていなかった。そのことにクラネスは心底安堵していた。
「ルイス、彼女を家まで送り届けてくれ。そのまま明日も休みをとれ。彼女についていてあげるといい」
「……ありがとうございます、グレン師団長」
「ユアン、クラネスを送っていってくれ」
最後にグレンは、クラネスに向き直る。
「協力、感謝する。あとは任せてくれ」
「はい」
四人で騎士団本部を後にする。
待機してある馬車まであと僅か、というところで、ルイスに付き添われていたサラが、急に足を止めた。
「ルイス」
サラは、彼を呼んで、それからユアンを見た。
「……私、言わなくちゃいけないことがあるの。無事にルイスのところに戻れることができたら、絶対に言おうって決めていたから」
サラは決意を込めた眼差しで、ルイスを見た。ルイスは怪訝に顔を曇らせる。
「ごめんなさい、ルイス。ユアンが私を騙したんじゃないの。私がユアンに声をかけたの」
「サラ……」
ルイスは絶句し、それからこくんと息を呑んだ。
「こいつが、好きなのか?」
震えるようなルイスの声に、サラは首を小さく振った。
「違うの。そういうのじゃない。ただの出来心よ。ユアンが綺麗で素敵だった。ただそれだけ」
「……何かと思えば。そういう話は、二人でやってくれ。帰るぞ」
二人のやりとりに、ユアンは呆れたような顔で言ってから、クラネスを促す。
「でも、ユアン……」
「待て」
否とは言わせないルイスの強い声色に、ユアンは足を止めてため息をついた。
「ごめんなさい、ルイス。あなたに嫌われたくなくて、言えなかった。だからあんな風に、罰があたったんだと思う」
はらはらと、サラは涙を流していた。
しばらく沈黙して、ルイスはようやく口を開いた。
「……俺はサラが好きなんだ」
自分の気持ちを確かめるように、ルイスは繰り返した。
「好きなんだ」
サラは目を見開き、それから再びしゃくりあげた。
「ルイス、ごめんなさい」
ルイスは、ふと視線をユアンに向けた。
「……たぶんそうなんだろうって、本当は分かってたんだ。でも、認めたくなかった。だからお前に怒りをぶつけるしか、なかった」
ルイスは静かに瞼を閉じた。
「ユアン、何度も悪かった」
素直にそう打ち明けられて、ユアンは小さく息をつき、自嘲的に言った。
「……誘いに乗ったのは事実だ。俺は、誰でも良かったから」
小さく息をついたユアンは、まっすぐな眼差しをルイスに向ける。
「お前が俺を許す必要はない。でも彼女は、もう十分すぎるほど傷ついてる」
ルイスは目を開け、ユアンの視線に答えるように、頷いた。
「サラ、もういいんだ」
そう言って、ルイスはサラを抱き寄せた。ルイスの腕の中で、サラは再び身を震わせた。
「……行くぞ」
今度こそユアンは、何も言えないでいるクラネスを伴って二人の側から離れた。




