パーティの夜に 05
ユアンは彼女を見て、信じられないといった様子で声を出した。
「……どうして、ここに」
「アスファリアの法制官から呼ばれたんだ。レガリスの件で。調書の作成が終わったら、何故かここに連れてこられた」
クラネスは彼女とユアンの間で、視線をいったりきたりさせた。
「ルチカ、その怪我はどうした」
グレンが彼女に近づき、表情を厳しくした。
「今しがた、彼女が不審な男に絡まれていた。白い仮面をつけた、痩せ型の男だ。捕えようとしたら、矢が。仲間がいたらしい」
「不審な男?」
グレンはクラネスに向き直った。
「クラネス、大丈夫か」
確かめるようにクラネスを見るグレンに、クラネスは頷いた。
「ええ、彼女が助けてくれたんです」
「良かった」
息をついてグレンは、彼女に向き直る。
「礼を言う、ルチカ。彼女は私の婚約者、クラネスだ」
ルチカと呼ばれた彼女は、僅かに目を丸めた。
「グレンの婚約者?」
「クラネス・ロヴェルです」
慌てて名乗ると、彼女はまた柔らかく微笑んだ。
「はじめまして、クラネス。私はルチカ・アーレイ。トゥーレの村から来た」
こうして目の前で並ぶと、クラネスとそれほど背格好も違わなかった。けれど彼女は、クラネスよりもずっと背が高く見える。すっと、まっすぐに伸びた背筋のせいなのだろうか。
「ルチカ、一緒に来た法政官の名前は?」
グレンが問うと、ルチカは思い出すように小首をかしげた。
「たしか、エルマーと言ったかな」
「わかった。彼に伝えておく。きみは私が連れて帰ると」
「いや、私はこのままトゥーレに帰るつもりで――」
「怪我が治ってからだ。戻る最中に何かあったらどうする。その足で満足に戦えるか?」
「……それじゃあ、一日だけ」
グレンは頷き、そのまま踵を返す。
「グレン、今夜の警備担当はどこだ」
ユアンが僅かに苛立った声でグレンに聞いた。
「第三師団だ」
「……仕事はちゃんとしろと言っておけよ」
舌打ちをしたユアンに、グレンは少し笑う。
「ラヴィニア様にも事情を話しておくから、お前は二人を連れて、先に馬車に」
「わかった」
ユアンはクラネスとルチカの側まで近づくと、自分の外套を外しルチカに掛け、破れたドレスを隠す。
「ありがとう」
それには無言で、ユアンは彼女に更に近づいたかと思うと、軽々とルチカを抱きあげていた。
「……ユアン、一人で歩ける」
「黙ってろ。行くぞ」
クラネスの方を向いて顎で示すと、ユアンはもう歩き出していた。
その後ろに続きながら、クラネスは思っていた。怪我をした女性を横抱きに運ぶ姿は、まるで童話に出てくる王子のようだ。にこりともしない態度の悪さが、本当に残念だった。




