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【書籍化】『精霊の花嫁』の兄は、騎士を諦めて悔いなく生きることにしました【BL・番外編更新中】  作者: 池家乃あひる
~婚約式編~

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301.週に一度の道

 週に二回しか通らない道も、半年も経てば見慣れてくるものだ。

 クリーム色の壁を辿り、街路へ向かうまでの道も。近くの家に置かれた植木鉢も。並ぶ家も、向けられる視線も含めて、全て。

 好意、興味、嫉妬。含まれる感情は様々。かつて通っていた学園では不躾に聞いてくる者もいたが、今は遠巻きに見る者ばかり。

 耳を澄ませずとも届くのは、いつも同じ言葉だ。

 グラナート司祭の息子。彼が例の人間。選定者様のご友人。どうしてあの男だけ。

 四六時中聞いていれば気も病むが、これらも含めて週に一度だけの習慣。

 そう。彼に……グラナートに与えられた住居から王宮へ通うまでの、一時間にも満たない僅かな間だけ。


 ノースディア王国の起こした協定違反事件から、もう半年。王家は崩壊し、君主のいなくなった国は緩やかに滅びを迎えようとしている。

 主要地の門は閉ざされ、魔力が薄れた地から避難しているというのは、教育を担うイズタムから聞かされた話。

 かつて国を救った英雄が『精霊の花嫁』を偽装し、聖国を欺こうとした事件は、瞬く間に世界中に広まった。

 精霊との盟約に違反した当然の末路という声もあれば、聖国がノースディアを乗っ取るために仕組んだという疑惑の声も。

 正統なる選定者が、その英雄の息子であった点も含め、未だ話題には事欠かず。世界がそうであれば、当事者たちがいる街はなおのこと。


 グラナートはこの城下で孤児院に関わりながら必要に応じて王宮にあがり、ペルデはディアンのそばで補助を行う。

 その合間、教会に勤めるための教育も同時に施されているなんて、志す者が聞けば恨みを抱いて当然だろう。

 とはいえ不満はなく、訂正するつもりもない。

 週のうち六日は王宮で過ごし、この街に下りるのは一日だけ。それも、翌朝には王宮に戻るという、半日にも満たない時間。

 知らぬ者が聞けば無意味だと笑うだろう。実際のところ、そう命令されているペルデも同意見だ。

 女王からの命令がなければ近づくこともなかった。いや、明確に命じられたわけではないが、実質的に同じこと。

 別に、下りること自体は構わない。一晩あの家で過ごすことも、ペルデにはなんの不満もない。

 くわえて、今日はその要因である存在は共におらず。普段よりも足が軽く思えるのは、その胸の負担が実際に無いからだ。

 そう、ただ見られるだけなら害はない。

 

「あら、おはようペルデ」


 ……逆に言えば、関わってくる限り、それが好意からであっても煩わしいということ。

 二階の窓から顔を出すのは、すっかり顔なじみになってしまったご婦人の姿。

 週に一度で覚えるのは、ペルデだけではなく他人も同じ。


「……おはようございます」

「今日もご苦労様。グラナート様はいないのかい?」


 いつもは途中まで一緒じゃないかと、問いかけるのは純粋な疑問から。そこにペルデを怒らせる意図はない。

 共に起きずとも時間を合わせ、朝食をとり、途中の道まで一緒に歩く。それがこの半年の習慣であり、認知されているのは自然なこと。

 ゆえに、胸に抱いた不快感を押し殺し、顔には笑みを張り付ける。


「えぇ、今日は都合が合わなくて」


 ペルデは普段より早く目が醒め、グラナートは珍しく起きるのが遅かった。それを待たずに出てきただけで、嘘は吐いていない。

 そもそも約束自体していないと、説明する必要のない言葉は伏せ、事実だけを述べれば、勝手に解釈した婦人も軽く流す。


「今から王宮へ向かうんだろう? 女王陛下によろしくお伝えくださいね。精霊の加護がありますように」

「……はい、精霊の加護がありますように」


 この国――聖国では別れの馴染みの挨拶を口にし、先ほどより重くなった足を動かす。

 いつも通りの習慣。いつも通りの道。……もう、半年も繰り返している、グラナートとの和解。

 わざわざ半日でも街に下りるよう命じられているのは、その一点でしかない。

 聖国を欺いていたのは、ギルド長や国王だけではなく、グラナートも同様。彼自身にその意図はなかったとしても、命令に背いたことは事実。

 罰として彼は『候補者』の保護を命じられ、それから十二年間ディアンを見守り続けた。

 何よりも、誰よりも。……そう、息子と呼ぶべき存在よりもずっと。助けるでもなく、庇うでもなく。今度こそ命令に忠実であった。

 その結果、ペルデとの関係は捻れ、今はその修復に時間を費やしている。

 何も知らなかった頃のように、とはいかない。

 そもそも、話はサリアナの処刑が確定したあの日、押し込められた個室で終わったのだ。

 これは誰の為の自己満足で、なんのための主張なのか。

 だが、今のペルデは正式でなくとも教会の従事者。命令には従わなければならない。

 反抗するつもりもない。不満を述べる気にもならない。自分の望みが叶うなら、それ以外なんて、どうでもいい。

 だから、早くその時が来てほしいと。どうか、何事もなく終わってほしいと。

 そう願うことこそ無意味と知りながら漏らした息は、白から透明へと変わっていった。

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挿絵(By みてみん)



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