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三角バレンタイン 後半

今さらですが……

ピンポーン


「はいはい、今出ますよ」


ひとまず茶を置き、玄関先へと向かう。宅配便かね


「はい、お待たせしました」


「や、やぁ」


「あれ、燕?」


外で待っていた客は宅配便などではなく燕だった。俺んちへ連絡無しで来るのは珍しい


「突然訪ねてすまない。ちょうど近くを通り掛かったものでね」


「ああ、構わないよ。上がって行くか?」


燕にも茶を入れてやろう


「いや、少し寄っただけなので直ぐに失礼するよ」


「そっか。そりゃ残念だ」


たまにはゆっくり話でもしたいんだけどな


「うむ……と、ときに恭介。君は甘い物が好きだったね」


「ああ、好きだよ」


元々は苦手な方だったのだが、雪葉や燕がよく菓子を作ってくれたので、いつの間にか好きになっていた


「そうだろう、そうだろう」


目を閉じ、腕を組みながらうむうむと頷く。どことなくソワソワしている風に見えるな


「……で、だ。ちょっと作ってみたのだよあれを」


「あれを?」


「うむ、あれだ。ほら、好きだろう君? 私もな、実は好きなのだよあれが」


「そ、そうか」


あれってなんだ?


「うむ。だから……あげる」


「お、おおー」


何が言いたいのかよく分からんが、何かをくれるらしい。小さなバックを両手に持ち、どこか怯えたような目で俺を見上げる燕に笑いかけて礼を言う


「ありがとな」


「き、気にしないでくれたまえ。これはあくまでもついでなのだ、うむうむ」


「そうだ、時間あるなら上がってけよ。一緒に茶でも飲もう」


「いや、今日は本当に渡しにただけなのだ。だから――」


「ちょうど綾さんも部屋に来てるぞ」



「え……」


気軽に言った俺の言葉に燕は驚いた顔を見せ、そのまま黙ってしまう


「どうした?」


「……いや、なんでもない」


「ならいいけどよ」


急に元気が無くなったような……


「恭介、やはり私は帰るよ」


「そうか?」


「うむ」


燕は頷き、優しい声で言った


「君が幸せになるのは凄く嬉しい」


「は? どうしたんだいきなり」


「……今までありがとう」


ふいに燕の瞳が潤んだ。歯を噛み、無理やり笑う


「すまない、花粉症が酷くてね。今年は花粉が凄いな」


「……本当どうしたんだよ燕?」


悩み事でもあるのか?


「いや、なんでもないのだよ。あはは」


空笑いをし、振り返る。そして右手を上げ、


「さらばだ!」


と、どっかのヒーローみたいに去っていった


「って、待てぃ!」


逃げる燕の手をキャッチ


「は、離したまえ!」


「たまえって言われてもよ」


困った。様子のおかしい燕を、このまま帰す訳にもいかないし……


「手、冷たいな。一緒にうどんでも食おうぜ」


暖まれば少しは落ち着くだろう


「……う」


「う?」


「うぐ、ひっく……う、うぅ〜」


堪えていた涙はぽろぽろ溢れ、その目は俺を睨む。そして手を振り払おうとしているのか、掴まれた手を強く振った


「と、危ないぞ」


滑りやすいんだ、転んで怪我でもされたら困る


「離せ、離すのだ〜」


「離さん」


「君なんて大嫌いだ!」


「嫌いでも迷惑だとしても、目の前で大切な奴が泣いてんだ、ほっとく訳にはいかないんだよ」


とくにお前は我慢強い奴だからな


「……て」


「ん?」


「離し……て」


悲しそうに言う燕を見て、俺は何も言えなかった。思わず離してしまった手は、二度と掴めないほど遠くに感じる


「うーん、佐藤君はアホですね〜」


「うひょう!」


突然の声に飛び上がり、慌てて振り返る。するとそこには綾さんが呆れ顔で立っていた。てか、いつの間に後ろに……


「優しさは佐藤君の魅力の1つですが、度が過ぎると人を傷付けます。とくに女の子は繊細で可愛くて、めんどくさいのですから」


「は、はぁ」


困惑している俺に綾さんは溜め息1つ。そして燕に顔を向けた


「菊水さん。私と佐藤君はただの友達です」


「……え?」


「勘違いで私の友達を嫌いにならないで下さい」


少し厳しめに言う綾さんの声に燕はビクンと体を震わせた


いつも偉そう&強そうな燕だが、本来は大人しい性格だ。こうして凹んでいる時に攻められると、怯えてしまう


「す、すまない、徳永さん。私の勘違いで……勘違い?」


「はい、勘違いです。エロマンガだったら勘違いからの寝とられまっしぐらですね」


「なんの話やねん」


話しについていってないが、一応突っ込んでおこう


「勘違い……っ!」


「燕? うわ!?」


綾さんに、勢いよく頭を下げる燕。さらりと落ち流れる髪の間から見えた耳は、秋の紅葉よりも真っ赤だ


「ごめんなさい!」


「謝らないで菊水さん。悪いのは紛らわしい事をした私と、鈍感な佐藤君なのですから」


「俺?」


「そうです。反省してくださいね?」


「は、はい」


俺が燕を泣かした? そうか……


「……ごめんな燕」


「ひぇ!?」


ひぇって……


「正直よく分かってないけど、俺がお前を泣かしたんだろ? だからごめん」


「い、いや、私が勝手に泣いただけで君は悪く……ほ、ほら! 花粉が酷いと言っただろ? それが目に入って強く染みただけなのだよ」


「ああ、そういえば言ってたな。なるほど、話を大げさにしたのが悪かったのか」


恥ずかしくなって泣いたってやつか?


「そうなのだよ! まったく君は〜」


「悪い悪い。だけどびっくりしたぜ? ははは」


「あ、あはは、ははははは」


俺達は暫し笑い合う。そんな俺達を見て綾さんは軽い溜め息をつき、


「……80年代のラブコメみたいになってますね。私が入り込む余地は無いかもしれません」


と、ほんの少しだけ寂しそうに呟いた



今日のチョコレート数


14個



「ところで結局、何しに来たんだ?」


「え!?」


「なんか甘いものくれるとか言っていたけど。もしかしてチョコレートとか?」


「そ、それは……甘えるな馬鹿者!」


「なんだよいきなり!?」


「最近の君は私生活が乱れていると聞く。叱咤激励をあげに来たのだ!」


「……どんだけ暇なんだよお前は」


「お前って言うな〜」


「すみませんね、ど暇な燕さん!」


「暇じゃないぞ、ぜんぜん暇じゃないぞ!」


「ならもうちょっと、まともな用事で来い!」


わーわーぎゃーぎゃー


「……入り込む余地ありまくりかもしれませんね」



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