綾の大切 5
「綾さんの側に、ですか?」
どういう理由言ってるのか分からず、そのまま聞き返した。すると綾さんは小さく頷き、補足を加える
「はい……。実は思いのほか真理さんが積極的でして、ちょっと押されぎみなんです。それで少し距離を開けて一度落ち着きたいなと」
「ふむ」
確かに真理ちゃんの積極性は、侮れないものがある
「このままでは……このままでは綾音の貞操の危険が危ない!」
「お、旧ドラの名セリフ。懐かしいですね、マジですか?」
「マジだぜ」
「あはは。なるほど分かりました、そういうことなら」
「ありがとう、の○太く~ん」
「あ! 似てます、似てます!! あ~ゴホン、ゴホン。ぼくのラジコン返してよジャ○アン~」
「わぁそっくり! 佐藤君は芸達者ですね」
「フフフ、昔ちょっとね」
小学生の頃、オーディションヘ行こうとしたのは秘密だ
「意味深なセリフです。なんだか気になります」
切れ長の瞳に少年のような好奇心を浮かべ、綾さんは体を寄せてくる。上半身裸だし、迫られてドキドキもんだぜって
「ち、近すぎですよ!」
「そうですか?」
「そうです! だいたいこんな狭い場所で、なに話してるんだ感じですよ」
誰かが来たら、変に思われるじゃないか
「佐藤君! 私はキノコの話なんてしていませんよ!!」
「知ってますよ!」
どんだけキノコ推しなんだ、この人
「まったく。綾さん、あんまり変なことを言ってると、溝口さんの前でボロが出てしまいますよ」
可憐な従姉妹が実は変態だった。……悲惨だ、他人事じゃない
「う~ん。確かにバレたら怒られてしまいますね」
「でしょう?」
「はい。人よりほんの少しキノ」
「変態だってバレないように気を付けないと」
「コ……え?」
何かを言いかけた綾さんは、俺の言葉に目を丸くし、そのまま固まってしまった
「綾さん?」
どうしたんだ?
声をかけると綾さんは目を細くし、口をヘの字に結んだ
「……」
「あ、あの……どうかしました?」
「私、変態じゃないもん!」
「わっ!?」
「ちょっぴりキノコが好きな、普通の女です!」
胸の前で手を握りしめ、ジーっと視線で訴えかけてくる綾さん
もしかしてこの人、変態って呼ばれるの嫌なのか? 痴女呼ばわりはいいのに?
「むー」
「うっ……。で、ですけど、普通の女性はキノコを連呼しないと思います!」
上目遣いで睨んでくる綾さんに、精一杯の反論
「じゃあマリオにします」
「じゃあの意味が分かりません」
「マ○オにします!」
「なんか卑猥だ!?」
伏せ字、恐るべし!
「前から思っていたのですが、佐藤君は女の子に対して失礼です、気づかいが全然ありません。さっきみたいな時は『大丈夫だよ綾音。俺のマリオ、実はワリオだから』と優しくフォローするべきです」
「それがフォローだと思っている女の子に、俺は何も言えません……」
このキノコ好きっ子め! とでも言えばいいのだろうか
「まさか佐藤君に変態だと思われていたなんて……。さすがにショックです、ビックリです、キノ……、マリオです」
「これ以上、僕らのマリオを汚さないでっ!」
僕は任○堂が大好きです!
「むー」
「そんな目で見られても……」
困ったな。とりあえず、よっ! キノコ姫。とでも言っておこうかな
「……くす」
「綾さん?」
さっきまでの不機嫌顔はどこへ行ったのか、綾さんは顔を綻ばせ、クスクスと笑う
「突然どうしたんです?」
……ま、まさかチャック?
こっそり確認する俺に、綾さんは小さく首をふる
「ううん、なんでもありません。やっぱり佐藤君は素敵です」
「は、はぁ」
よく分からんが、褒められたらしい
「お時間を取らせてしまって、ごめんなさい。嬉しくなってしまい、つい調子にのってしまいました」
綾さんは頭を下げ、先に座敷へ戻りますと化粧室を出ていく。それを何となく見送っていた俺ヘ綾さんは微笑み、
「私が変態になれるのは、佐藤君とメガネの前だけです。これからも仲良くしてくださいね」
と言って、静かにドアを閉めた
「……綾さん」
もう完全にメガネなんですね、宗院さんは




