クリスマスプレゼント
『あら、なにを作ってるの恭ちゃん?』
『あ、夏紀お姉たん! うんとね、雪葉のマフラー』
『うゃ? にーぁー』
ママに教えて貰ったリリアンで、編みかけのマフラーを広げると、雪葉は不思議そうに小首を傾げてマフラーに手を伸ばした。う〜ん可愛いなぁ
『へぇ〜、凄いわね恭ちゃん。アタシも先月家庭科の授業で帽子編んだけど、それよりずっと上手よ』
『褒めてくれて、ありがとお姉たん!』
『うっ……』
『お姉たん?』
お姉たんはプルプルと震えて、持っていたバックを床に落とした。そして
『あ〜も〜可愛い!』
僕に向かって、飛び込んで来た!?
『雪もアキも春菜も恭ちゃんも! みんな可愛くてアタシは幸せよ!』
『お、お姉たん、苦しいよ〜』
『ね〜? えへ〜』
そして7年後……
12月25日の夕方。来月はいよいよ高校受験を控えるこの季節、俺は当然受験勉強を……
「酒は飲め飲め呑まれるなっとくりゃ」
せずに何故かリビングで姉のお酌をしていた
「ね、姉ちゃん。そろそろ飲み過ぎだと思うんだけど」
それにまだ5時
「全然よ全然。酔えば酔う程強くなる〜」
「これ以上強くなられても……」
既にハルクより強い
「今日はキリストの誕生日よ? アタシは酒を飲んでアイツを祝ってやってるのよ。おめでと〜ヒゲ〜」
「キリスト教の人に怒られるよ」
「なんだバカヤロー。ひっく」
「……はぁ」
今年二十歳になった姉ちゃんは、酒を手放さない女になってしまった。俺はため息をつきながら空になった姉ちゃんのコップに酒を注ぐ
「ありがと〜。あそれ、ほれ」
姉ちゃんは、急に得体の知れない奇妙な踊りを披露した。MPが吸い取られそうだ
「……そういえば渡すの忘れてたけど」
俺はソファーの脇に置いてあるリボン付きの紙袋を手にとって、姉ちゃんに差し出す
「メリークリスマス。プレゼントね」
「…………」
「姉ちゃん?」
何故か姉ちゃんは固まってしまった
「な、なによ……」
「え?」
「何を企んでるのよ!」
「ええ!?」
いきなり何言ってんだ、この姉
「だってそうでしょう。アタシみたいな酒飲み女の為にプレゼントを用意する筈ない……これは罠ね。分かってるわよ!」
わ〜ウザいなぁ
「やっぱり飲み過ぎだよ姉ちゃん」
絡みはじめたら、もう赤信号だ
「ふん、別に罠でも良いわ。どうせアタシは道化よ、孤独なネロよ。ひっく」
「姉ちゃん……」
なんだか分からないが、凹んでるし適当に話を合わせてあげよう
「ぱ、パトラッシュ〜」
「そっちじゃない! そっちじゃないのよ、とっつぁんよぉ」
姉ちゃんは顔を伏せて、
悲しげに呟いた。僅かに肩も震えているように見えるが、もしかして泣いてる?
「だ、大丈夫? 姉ちゃん」
声を掛けると姉ちゃんは渡したプレゼントの紙袋を開けて――
「げろげろげ」
「キ、キャアアア!?」
俺の口から発したとは思えない甲高い悲鳴が、家中に響く
「うぃ…………んん? あっ!? あ、アタシの大切なプレゼントがゲロまみれに! だ、誰がこんな事を」
「アンタだ、アンタ!」
結構、高いセーターなのに!
「あぁん? アタシのせいだぁ…………あ」
ギロリと俺を睨んだ姉ちゃんは、途中で眼を泳がせ始めた。どうやら記憶が戻って来たらしい
「……あ、洗えば平気よね」
「知らないよ!」
だから酔っ払いは嫌なんだ
「う……ご、ごめん」
「…………ふん!」
今日の姉ちゃんは随分素直だが、俺も簡単には許さないぜ!
「あ、あのさ。アタシもアンタに…………けど」
「……え? なに?」
「…………だけど」
「ん?」
「プレゼントがあるんだけど!」
「ええ!?」
そ、そんな馬鹿な! あの日(Sに目覚めた日)以来、プレゼントのプの字も出さなかったドケチ姉ちゃんが!!
「アンタも来年から高校でしょ? 無事に行ければだけど」
一言多いな、この姉
「そこで姉ちゃん、アンタの為にわざわざ買って来てあげたわ。ちょっと待ってなさい」
酒を置いて、姉ちゃんはフラフラとリビングを出て行く。危なっかしいけど大丈夫だろうか?
それにしてもプレゼントか〜。時計? 服? あるいはギフト券とか財布かな?
期待しながら待つこと三分。リビングのドアが開いて、
「ちゃらららん、モンブランの万年筆〜」
「歳、幾つだよ」
高いんだけどね




