秋の下着泥棒 4
AM 02:15
「……眠い」
皆が寝静まった深夜2時過ぎ。2階のベランダへシャツかズボン等を適当に物を干し、その中にちょっと隠した感じで餌のパンツを干す
俺はと言うと、ベランダへ即出れる2階の空き部屋の隅で、明かりも点けずカーテン越しに外を見張っている
「…………ふぅ」
もうかれこれ2時間は見張っているが、何も変化がない。流石に昨日の今日じゃ来ないかな
「ふぁ〜あ」
今日も学校あるし、そろそろ寝ようかな……寝よう!
「よっこい……っ!?」
突然洗濯物が不自然に揺れる。ま、まさか……
カーテンの隙間から、こっそり覗き込む。するとなにか棒のような物がうっすらと見えた
「き、来たのか?」
ゴクリと喉が鳴る。ぶっちゃけかなり怖い
「……よし」
夏紀姉ちゃんに借りたスタンガンを持ち、部屋を出る。なるべく音を立てないように階段を下り、深呼吸
「行くか!」
静かに靴を履き、静かに玄関のドアを開け、とにかく静かに静かに外へと出る
月は赤い三日月。薄暗くて、なんか息苦しい
家の門に手を触れ、ゆっくりと開き――
キキキ
「っ!」
し、しまった! 門の音が!?
その時、ダダダと誰かが道を駆ける音と振動があった
「くそ!」
慌てて道へ出ると、西側へ走り去って行く黒い影が。奴が犯人!?
「ま、待て!」
影を追い、俺も走る。奴は俺より僅かに遅いようで、差は徐々にだが縮まってゆく
そして5分後。家から少し離れた川の近くで、奴の姿を完全に捉えた
「もう逃げられんぞ、貴様! 大人しくお縄につけぃ!!」
「……ふん。全く、俺とした事がつまらない罠に引っ掛かった物だよ。いや……これも必然なのかも知れないな。あそこの家の縞パンツは、余りにも魅力的だったから」
足を止め、男は振り返る
「暴力は使いたく無かったが……」
長袖の黒いシャツに黒いジーンズ。丸い眼鏡をクイッと上げ、男は独り言の様に言う
「や、やる気か?」
「俺はまだ捕まる訳にはいかないんだよ。後、17枚、縞パンツを手に入れなければならないからね」
「何を言って……」
「俺の名は怪盗ストライプ。983枚の縞パンツを持つ男さ」
「怪盗………だと」
「幸いここは人通りが無い。お前を倒して、逃げさせてもらう」
男は、なんの警戒も無しに俺に向かって歩いて来る。俺は右のポケットに手を突っ込み、スタンガンを握った
「ふっ!」
伸ばせば手が届くか届かないかの距離。そこで男の腰は深く沈み、膝のバネを使って一気に突っ込んで来た
「うわ!?」
咄嗟にスタンガンを抜き男に向かって突き出す。しかしそれを男は左手だけで軽くいなし、俺の鳩尾へ右の掌底
「うげ!」
堪らず前屈みになった所で、顎へ打ち上げる肘の一撃!
「うぎゃ!?」
「とどめ」
男は倒れようとする俺の首を両手で抱え、とどめの膝を……
「ふふふ〜」
「な!? なんだこの呑気な笑い声は?」
男は俺の首を離し、周囲を警戒する
「う……ぐぅ」
支えが無くなった俺は、膝に力が入らず崩れ落ちた
「だ、誰だ!?」
「つっ……い、いてぇ……ん?」
犯人が見上げる先を目で追うと、そこには歩道橋の手摺りの上で腕を組んで立つ、一人の女の姿があった
弱い月明かりに照らされた肌は、ただただ白く。薄い桜は頬の色か
そう、あれはまさしくオカメ。オカメさん
「ってオカメ!?」
「な、何者!?」
「私はこの町を守護するオカメ、レディーオカメよ〜」
などと意味の分からない供述をしているオカメの面を被った女。ツッコミたいが、なんかツッコんだら負けっぽい
「貴方が最近この辺りを荒らしている下着泥棒さんね〜」
シュタっと橋から地へ降り立つレディーオカメ。彼女が着ている白い服は良く俺ん家の中で見掛ける気がするが、敢えて気のせいと言う事にしておこう
「誰だか知らないが、邪魔をする気なら女でも容赦はしない!」
「あら〜怖いわ〜。でも〜」
そこでレディーオカメは一度言葉を途切り、ちらっと俺を見て
「やり過ぎよ貴方」
ぞくり
俺の背筋に悪寒が走る。この雰囲気は秋姉……いや、それ以上のプレッシャーを感じる。そう、まるで飢えた白熊と対峙したかのような……
「ふっ。この怪盗紳士、ストライプ。女子供に遅れはとらないよ」
ば、馬鹿! 分からないのかこの危機感が!!
「御託は良いわ、掛かって来なさい」
ごきり。強く握られたオカメの拳
「お仕置きしてあげる」
それは圧縮された闘力!
「に、逃げろ……逃げろストライプ! 殺されるぞー」
「……ストライプハンターとして生きると決めた時から、覚悟は出来ていた。最後はパンツ片手に野垂れ死のうと。だが今では無い! 行くぞオカメ! お前のパンツも奪ってやるりゃぁあ!!」
オカメへ猛スピードで突っ込んで行く怪盗ストライプ! 対してオカメはノーガードで佇んで……
ビシィイイイ!
二人が互いの間合いに入った瞬間、音速を越えたムチが放つ衝撃音が響いた。そして周囲は静まり返る
「…………が……」
右拳。それが怪盗ストライプの鼻面に刺さっていた物の名だ
「反省した?」
ぐぽっと嫌な音を立て、引き抜かれる拳。その拳からポタリポタリと落ちる鮮血は、道へ妖しい花を咲かす
「す……すみ……ません……でし……た」
謝りながら崩れ落ちる怪盗ストライプ。今、決着は付いたのだ
「もう泥棒さんはしちゃ駄目よ〜」
呑気な声が恐ろしい
「…………あ、あの」
「怪我は無いかしら〜?」
「う、うん。まぁ……大丈夫」
「良かったわ〜。それじゃあ後は任せたわね〜。私はオカメの国に帰るから〜」
いや、アンタが帰る所は自分の家だろっと、言いたいが我慢しよう
「さ、さようなら。気をつけて」
「さようなら〜」
手を振り、明らかに家の方へと走り去って行くレディーオカメ。彼女は敵か味方か母なのか、それは誰にも分からない
「ありがと〜、レディーオカメ〜」
なんてオカメさんに感謝しつつ、お巡りさんへ電話をして一件落着……なのかこれ?
今日のヒーロー
オカメ
納豆




