第125話:燕の密着
「う……あぐ」
ベッドで目を醒ました俺を襲ったのは、両腕と腹筋の激痛だった
「はぁはぁ」
真夏の暑さに苦しむ犬の様に舌が勝手に出て、俺の呼吸を乱す。これは熱が出るかも……
「あ〜」
参ったな。寝返りするのも辛い
「はぁ……ふぅ……」
とにかく無理矢理にでも眠ろう。次起きた時は、今よりマシになってると思うし
全く眠くないが、目を閉じて羊を数える
一匹、二匹、三匹、四
コンコン。ドアが軽快な音をたてた
「う……はい」
「……恭介?」
この麗しい声は秋姉か
「あいてるよ。どぞ」
「ん……失礼するね」
カチャっと静かな音でドアが開き、お邪魔しますと秋姉と違う誰かが言った
「あ、すまない。寝ていたのだね」
この声は……
「燕?」
「う、うむ。お邪魔させてもらっていたので帰る前に挨拶をと思ったのだが、休んでいる所をすまなかったね。では、おやすみ」
「あ、違う。身体が痛くて横になってた。……ごめん秋姉、何か飲み物がほしい」
「ん。待ってて」
タ、タ、タっと、軽やかなリズムで秋姉は廊下を走って行く。普段は急いでいても絶対に廊下は走らないのに……。ありがとう
「……恭介」
燕は俺の傍らにより、やけに冷たい手を俺の額にあてた
「手、冷たいな燕」
「先程までかき氷をご馳走になっていたからだろうね。……熱は無いみたいだ」
ほっとした様に言い、燕は乱れた布団を直す
「暑くはないかね。少し冷房を点けようか?」
「大丈夫。燕もありがとな」
「あ、い、いや、礼を言われる事では……」
「……お待たせ」
「あ、秋。恭介、身体は起こせるかね? 手伝うよ」
「あ、ああ……いっ!」
腕が、身体がいてぇ!
「……失礼するよ」
燕はベッドに上がり、俺の右側に座る。そして俺の首下に左腕を入れた。次に右手で俺の左肩を少し持ち上げ、それを左手で支える
「んっ」
息を吐き、燕は右腕を俺の背中に回し、左腕と一緒に力を入れてって、なんか、もっの凄く密着してるんですけど!? 顔とか乳とかが!
「ふぅ」
「……あれ?」
いつの間にか、俺の身体が起こされている
「やはり救命講習の知識も役に立つ。三月に一度は生徒達に受けさせたいものだ」
顔を赤くしながら、燕はうむうむと頷く。やっぱり少し恥ずかしかったのだろう
「相変わらず色々知ってるよな燕は。ありがと、秋姉」
秋姉からコップに入ったポカリ的すいっとを受け取り、ごくごくと飲む
「ふ〜、うまい。生き返る」
「ん……よかった。燕、時間は大丈夫?」
「うむ。では私は帰るとしよう。お大事に」
「ああ。あ、と、そういえばもしかして今日、秋姉に連絡してくれたのって燕?」
「え? あ、う、うむ。テレビで見て直ぐに秋へ連絡をしたのだ。私達は試合に間に合わなかったけれど、君達が優勝した事は聞いたよ。おめでとう」
「そうか……」
俺達が優勝出来たのは燕のお陰なのかも知れないな
「ありがとう、燕」
「う、うむ。どういたしまして……なのだ」
今日のバカボン
燕
「では秋。また」
「……燕」
「うむ?」
「きっと恭介は燕の事、好きだよ」
「なっ!? な、なにを言って!」
「あ、燕、前」
「え? あう!?」
「ん……電信柱。怪我は無い?」
「…………いたい」
つめじ




