第67話:花の説教
「んじゃ、また明日な」
「ああ、じゃーな」
学校帰りの夕方。友人Aと別れた俺は、自転車で家路を急いでいた
今日の夕食は毛ガニ。大好物なのである
生で食うか、しゃぶしゃぶにするか……焼くのも良いな。
いや、待てよ。超贅沢にカニチャーハンなんかにしても……
もうすぐ迫る中間テストの範囲よりも遥かに頭を悩ませていると、前方に見知った後ろ姿のガキんちょが見えた。
ガキんちょは、スーパーの袋を両手に持ち、よろよろと歩いている。あの後ろ姿は……花梨!
俺は自転車を、花梨の数メートル前で止め、花梨を驚かせようと忍び足で近寄る
ジャリ、ジャリと鳴る砂利道。なるべく音を起てないよう、ゆっくりと進むが、花梨は更に遅いので直ぐに追い付く
「…………くくく。モテなくて悪かったなぁ、花梨ちゃんよ!」
花梨の頭をぐしゃぐしゃに撫で回し…………て?
スーパーの袋を落とし、ひっと、短い悲鳴を上げて振り返った花梨は、いつもより幼い顔をしていて…………って花梨じゃない!?
「あ、ご、ごめ」
「あ、う……お、お姉ちゃん……お姉ちゃん」
女の子はキョロキョロと辺りを見回すが、そのうちに目が潤み始め、泣き出してしまう
「ご、ごめん! 勘違いして……本当にごめんなさい!!」
必死に謝る俺。ひっく、ひっくと泣きつづける女の子
そんな二人を見た近所の人が、組織の犬を呼ぶのに、そう時間は掛からなかった
10分後。
「いつかはやると思っていたが……やってくれたな貴様!」
「ち、違います! 他の子と勘違いしただけなんです!!」
「他の子だとぉ? 貴様は何人の女の子を毒牙にかけたんだ!!」
「かけてません、かけてません!」
交番に連れて行かれた俺と女の子。必死に説明するも、隣に泣き止まない女の子が居る今、組織の犬はなんの言い訳も聞いてくれそうにない
「俺はなぁ、貴様の様な変態から市民を守る為に警察官になったんだよ。……未成年だからと言って、容赦はせんぞ?」
組織の犬は、顔を険しくして凄む。ゴツイ身体もあって、中々怖い
「まぁ待ちたまえ、滝君」
「岡部巡査部長殿!?」
交番の奥から、お茶を片手に出てきた五十代半ばぐらいの犬2に対し、組織の犬は立ち上がって最敬礼をする
「ほっほ、余り責めてはいかんよ。見ればまだ子供ではないか」
「し、しかしこの男は極悪非道の限りを尽くし……」
「なるほど、確かに間違いを犯かしたのかも知れない。だが見たまえこの目を! この年齢でこのような死んだ魚の様な目を……苦労したんだね、君。滝君、カツ丼を取ってあげなさい、私の奢りだ」
「巡査部長殿……」
「さぁ滝君。そば屋に電話を」
「すみません! 目から流れる汗で番号が見えません!!」
「……ほっほ。若さとは良いものだね」
「…………」
良く分からない会話のお陰で俺は冷静さを取り戻す
「……変な事に巻き込んでごめんな。先に帰してもらうから」
「…………うん」
「お話中すみません。この子をそろそろ帰してあげてくれません? 俺が居れば良いんでしょ?」
「あ? ああ、もうすぐお家の人が来てくれるみたいだから、それまで待っててね。……貴様は帰さんぞ」
「はいはい」
「はい、は一回だ!」
オカンかよアンタ……




