[28話] 咆哮
極端な撃ち下ろしが実質装甲厚を増加させている。そんな単純な事実に、今の今まで気づくことが出来なかった。
普段の俺らしくもない迂闊さを鎮痛剤の所為にしたいが、無駄に浪費した貴重な時間と弾薬は戻って来ない。
どうする!? 撃つのか、撃たないのか?
ジレンマの末、俺が選んだのは――射撃の続行。
“胴部が駄目でも、装甲化されていない手脚なら!”
先に被弾した先頭の個体に狙いを定め、トリガーを引き絞る。
Dow! ――第4射。
大きく跳ねた愛銃を足元に向け構え直す。
再照準の過程で捉えたのは、登攀速度が目に見えて落ちた怪物の姿。
だが、後続の三体は統制を保ったまま追い抜いていく。
“尻尾切りかよ?”
《怪物》に相応しいと言えば相応しい行動を目の当たりにした俺は、低く唸り声を上げ、今や孤立する元の先頭個体にレーザーサイトを重ねる。
Dow! ――第5射。
着弾に怪物が大きく揺さぶられる。
それでも、上へ上へと攀じ登る動きを止めようとしない。
「いい加減に……」
モニターが映す光景に耐えられなくなった俺の喉から絶叫がほとばしる。
「墜ちろよ手前!!!」
Dow! Dow! ―― 第6射、第7射。
半自動ならではの速射を叩き込んだ刹那――
グラリと怪物が傾いだと思うと、外壁から剥がれて真っ逆様に落下していった。
“やっと一体……”
30m近い高さから墜ちた以上、あの個体は無視してしまっていい。
いくら強固な装甲を纏っていても、地面との激突で発生する衝撃に中身は耐えられないからだ。
残弾数は2発(薬室に1発、弾倉に1発)、そして怪物は残り三体。
接近された反面、銃弾の貫通力も増している筈。
「堕ちろ」
Dow! ――第8射。
先頭を駆る怪物が着弾の火花を散らしてバランスを崩す。
が、ビル外壁に爪を突き立て最後尾へと復帰、隊列は瞬く間に立て直される。
「堕ちろよ!」
Dow! ――第9射
命中の手応えはあっても、怪物の登攀速度は一向に衰えない。
“糞ッ、弾切れ!”
焦りを隠せない指先が、愛銃のマガジンリリースボタンを押し込んだ。
空弾倉が落下していくのを横目に、後ろ手を腰背面のポーチへと差し入れる。
掴み出したのは、愛銃専用の大容量20連弾倉。
紙媒体の百科事典の如き巨大さもさることながら、弾薬込み重量は5kgと一般的なアサルトライフルよりも重い。
開発課のゲテモノに頼らざるを得ない状況を恨みつつ、機関部にガシャと鈍い嵌合音をさせて押し込む。即座にチャージングハンドルを引いて弾倉交換を済ますが、怪物の群れは10mを切る距離にまで迫っていた。
“やはり無理だ!”
最早、拳銃で撃ち合う程の至近距離。
近接戦闘どころか、近接格闘に持ち込まれるのを阻止できない!
声なき悲鳴を上げる俺の眼に、《X-DH02-A》の詳細な外観が像を結ぶ。
四肢の先端には、剣呑な金属爪。
高出力型の人工筋肉が複雑に絡む太い手脚と、装甲化された小振りな胴体。
その胴部上面の複合シーカーが、三体揃って鈍く点滅したかと思うと……
「「「 GRRRRRRRrrrrrrrrrrYYYyyyyyy!!! 」」」
廃墟の夜空に複数の咆哮が響き渡った。
電子音でしかない筈の声から伝わって来るのは、凄まじい敵意と殺意。
ハァ ハッ ハッ ハッ ――
自身の呼吸が恐ろしく乱れているのに気づく。
心臓の鼓動が早まり、心拍音だけがインカムを占拠していく。
手脚の感覚までが、過呼吸を起こした様に鈍い。
陰嚢が縮こまり睾丸が痛みを覚えるほどの恐怖が、俺を押し潰そうとしていた。
直下数m先にまで迫った怪物の目玉が、暗視映像の中で揺らめく。
間近に迫る死の気配は、何度目であっても圧倒的な現実感に満ちていた。




