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あなたがいたから  作者: yuzuhiro
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春夏秋冬

「新車発表会ですか?」


「そう。車に美女は付き物でしょ? その仔猫ちゃん達のヘアメイクをみどりちゃんとしてきてちょうだい」


「モデルさん?」


「国内の自動車メーカーの合同新車発表会なんて滅多にないから、各社お偉いさん達もくるみたい。気合い入れてちょうだいね」


「やだっ、あゆむさん。プレッシャーかけないでくださいよ」


「あ〜、あんたはほんとにオツムの弱い子ね」


「ひっ! あ、あゆみさん? ちなみに仔猫ちゃん達は何人いるんですか?」


「各メーカーに1人、2人だから10人もいないと思うわ。他所からもくるから4人で担当することになるわね」


「最低でも2人は担当することになるんですね。わかりました。気合い入れていきます」


 秋穂が気合いを入れたのを珍しく身体で表現すると、店長もチーフも感慨深い表情で見ていた。


「秋穂ちゃん、表現豊かになってきたわね」


「えっ? そうですか?」


「うん。うちにきた当初は表面は笑ってるけど心のどこかで冷めてるような感じだったからね。あゆみさんと心配してたのよ」


 この店にきてからの秋穂は仕事にやりがいを感じてのめり込むようになっていた。指摘されたように少し前までは少し冷めた部分があったと思う。しかし、この店で必要とされることによろこびを覚えた秋穂は、店長たちの思いに応えようと一生懸命になっていた。


「変わった、んですかね?」


「そうだと思うわ。入店当時と比べるといまのあなたはずっとチャーミングよ。秋穂ちゃんでって指名してくださるお客様グッと増えたでしょ? 指名数でもベスト3には入ってるんだもの。自信持たなきゃ他のアーティストの子たちにも失礼よ」


「あっ」


「秋穂ちゃん? ど、どうしたの? あゆむさん、なんで泣かすんですか!」


「あらっ、あたし怒ってないわよ」


「顔が怖いんですよ!」


「よし! みどり表出な! あんたには再教育が必要みたいだね」


「すみません! 調子に乗りました!」


 最近ではよく見る光景に思わずふいてしまう。


「ふふっ」


「ほらっ! あゆみさんのせいで笑われたじゃないですか」


「あらやだ。あんたの顔がおかしいからよ」


「ふふふ。ほんとに仲が良いですよね」


「まあ、悪くはないわね」


「私、ここにきて良かったです」


 冬馬に人生を狂わされてから、ひたすら暗闇を歩いてきたような秋穂にはいまの環境はとても心地よい。


 必要とされている。


 認められている。

 

 姉と比べられ劣等感の中で育ったあの頃は春斗が唯一の理解者だった。いま自分を認めてくれる人がいる安心感。この人達の役に立ちたい。それが今の秋穂の生きる喜びになっているのかもしれない。


「あゆみさん、新車発表会頑張ってきます」


 ♢♢♢♢♢


「よっ! 今井。新車発表会ダメだったらしいな」


「ああ。マスコミも来るしお偉いさんと行儀の良いやつらばっかりだ」


 国内自動車メーカーの合同新車発表会はこれまでにない試みということもあり、マスコミの注目度も高い。


「まあ俺らみたいなヤンチャなのはお呼びじゃないってな」


「せっかくモデルとお近づきになるチャンスだってのにな」


「おっ! そんな今井くんに朗報です」


「なんだよ」


「俺の班のやつがうまいこと発表会メンバーに選ばれてよ。ちいとばかし賑やかしが必要ってことでこっそりと連れて行ってくれるらしいんだな」


「朗報だな」


「焼肉食いてぇなぁ」


「ちっ! 仕方ねぇな。いいぜ、その代わり現地では自分でなんとかしてくれよ」


「そりゃ俺の台詞だぜ?」


 ♢♢♢♢♢


「なっちゃん、大丈夫?」


「うん、ちょっと身体がだるいだけだから」


「病院は?」


「う〜ん、説明しにくいからもう少し様子見てからにするね」


(原因はあの時だと思うよ)


 かもね


(いつもと違ったもん)


「うわっ、早めに出たのに満車じゃない?」


「駐車場も指定だから大丈夫よ」


「そうなの?」


「うん。入り口でこれ見せてね」


「ああ。招待状についてたんだね」


「まだ時間はあるから観光がてら会場に行こうね」


「了解」


 ♢♢♢♢♢


「秋穂ちゃん、次minamiさんのセットお願い」


「はい、minamiさんこちらにおかけください」


「は〜い、お願いしま〜す」


「飲み物はメイクが崩れないようにストローを使ってくださいね」


「素人じゃないから大丈夫よ」


「ふふっ、失礼しました」


「あらっ、あなた美人ね。モデルでもやっていけるんじゃない? よかったらうちの事務所紹介するわよ?」


「いえいえ。私はいまの仕事が大好きですから」


「あらそう? 表舞台に立てるチャンスは平等じゃないのよ?」


「裏で支えるのが私達の仕事です」


「ふ〜ん。まっいっか」


「はいっ、終わりましたよ」


「んっ? いいわねこれ。気に入ったわ。あなた私の専属にならない?」


「専属ですか?」


「私これでも専属モデルよ。あなたの仕事がみんなに見てもらえるチャンスは増えるわ」


「魅力的な話ですが、まだ勉強中です。いまの職場で一人前になった時に改めて考えてみます」


「あら残念。私はいま欲しいのよ。と言うか程よく断られたわね」


「ふふふっ」


「秋穂ちゃん終わった?」


「OKです。minamiさん出番ですよ」


「は〜い。じゃあ私の仕事をしてきますか」


 ♢♢♢♢♢


「座れてよかったね」


「うん。ちょっと疲れたかも」


「帰りはお姫様抱っこして行こうか?」


「さすがに恥ずかしいです」


「ははは。さすがのなっちゃんも……」


「はるくん?」


「……ステージ左下」


「左下? ……秋穂っ?」


「だよね。スタッフかな?」


「モデルさんがいるからそうかもね」


「まさかこんなところで会うとは思わなかったよ」


「……」


「どうしたのなっちゃん。体調悪い?」


「悪夢よ」


「えっ?」


「あそこ」


(まさかそんな偶然はないと思っていたのに)


 運命だったんだよ


(そんな運命いらなかった)


 僕らは出会うべくして出会ったんだ


「……冬馬……」


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