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あなたがいたから  作者: yuzuhiro
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立夏

「4月から正式によろしくな」


「ありがとうございます。お世話になります」


 就職はインターンでお世話になった吉乃建設に決まった。


「とりあえず4月まではアルバイトだ。今のうちにやりたいことをやっておくといいよ」


「やりたいことですか? とりあえずは卒論終わらせないとですね」


「せっかく内定出たんだからちゃんと卒業してくれよ」


「はははは、大丈夫ですよ。……たぶん」


「おいおい、本当に頼むぞ。なんなら人事部長に言って内示取り消してもらうか?」


「誠心誠意頑張る所存です」


「うむ、頑張りたまえ」


 ♢♢♢♢♢


「桜ちゃん、今日はうちで食べていきなよ」


「そのつもりです」


「よろしい。では買い出しに行きましょうかね」



「何を作るんですか?」


「ん? ちょっと時期外れかもしれないけどシチューを作るつもり。さっきはるくんから連絡があって内定もらえたって書いてあったからお祝いよ」


 あなたの作るシチューはご馳走だよ?


(愛情たっぷりだもの)


「お兄ちゃんも社会人かぁ。なんだか感慨深いものがあります」


「あはははは。どっちが上なのよ。バイトで唯一、企画採用されたらしいのよ」


「調子乗らないように釘刺しておきますね」


「桜ちゃんははるくんに厳しいなぁ。たまには褒めてあげてね」


「お姉ちゃんはお兄ちゃんに優しすぎます。手遅れかもしれませんがはじめが肝心ですからね?」


「はるくんは思いやりがある人だから大丈夫よ」


「まあ、そうですけど」


「他人の痛みに敏感な人だから」


「お兄ちゃんもいっぱい傷付きましたから。お姉ちゃんがいなかったら今も傷ついたままだったかもしれません」


「私もいっぱいはるくんに助けてもらってるから。って、このやりとりも初めてじゃないよ? そろそろ素直にお兄ちゃん大好きって言いなさい」


「なっ! 言いません!」


「も〜、桜ちゃんも素直じゃないんだから」


「みんながみんなお姉ちゃんみたいにあけすけじゃないんです!」


「あ、認めた」


「……」


 ♢♢♢♢♢


「ただいま」


「お帰りはるくん! 内定おめでとう」


「んっ。ありがとうなっちゃん」


「……妹の前で堂々とキスしないでよ」


「家の中だからいいじゃない」


「お姉ちゃんは慎みというものをどこかに落としてきてしまったんですね」


「はるくんの前では素直なだけよ」


「はあ、もういいです」


「桜ちゃんも好きな人の前では素直になってね?」


「べ、別に好きな人なんていませんから!」


「今の話じゃなくて。将来の話よ」


「……今までもお姉ちゃんからもらった言葉はちゃんと胸にしまってありますから」


「ちゃんと出せよ?」


「お兄ちゃんに言われなくてもわかってます!」


「はいはい。ご飯の準備もできたし桜ちゃん、配膳手伝ってね」


「あ、はい」


「おっ! うまそう。俺の好きなものばっかりだ。さすがなっちゃん」


「内定のお祝いだよ。はるくんの大好物ばかり揃えてみました。シチューに軟骨の唐揚げ、ポテサラに夏希ちゃん」


「……お姉ちゃんは食べものじゃないでしょ」


「ん? 食後のデザートよ?」


「お兄ちゃん?」


「俺かよ」


「違ったとしてもそこは男性が責任を持つべきだと思いますけど?」


「責任とってお嫁さんにしてもらうよ?」


「……もういいです。冷めちゃうのでいただきましょうよ」


 責任問題じゃないんだけどね


(そうなんだけどね)


「はるくん、これ内定のお祝い」


「ありがとう。開けてもいい?」


「もちろん」


「じゃあ失礼して……あっ、腕時計」


「うん。やっぱり社会人には必要かなって思って」


「ありがとうね。でもなっちゃん。これ新入社員には不相応なものじゃない?」


「だって。私の方が社会人なのに生活費全部持ってもらっちゃってるんだもん。これくらいさせてもらわないと割りに合わないよ」


「そんなこと気にしなくていいのに。その分家事頑張ってくれてるんだし」


「それも最近じゃあはるくんに手伝ってもらってるし」


「2人で暮らしてるんだもん、それは当たり前じゃない? 気にする必要ないよ」


(世の中の旦那様がみんなきみみたいな考えなら夫婦喧嘩は減るのにね)


 奥さんが何もやらなくなるってこともあるみたいだよ


(一緒にやるのが一番ね)


 そうみたいだね


「卒論は?」


「今日は忘れたいなぁ」


「んっ。許しましょう。そのかわりはるくんは私にいっぱい甘やかされてもらい……シャワー浴びても?」


「たまには一緒に入ろうか」


「覗いちゃダメよって言えないじゃない」


「別々にはい———」


「時間もったいないから一緒に入ろうね!」


 ♢♢♢♢♢


「なつ〜」


「はい」


「ちょいちょい。たしか彼氏くん車好きだったよね?」


「はい、大好きですよ。わざわざWRC見るために有料チャンネル契約してますもん」


「そんなあなた達への朗報です。各自動車メーカーの新車のお披露目会があるの。プレス向けのチケットが2枚回ってきたから行ってきなさい」


「……仕事ですか?」


「半分ね。うちが車扱わないのはなつもわかってるでしょ? とりあえず女性受けしそうな車がないか見てきて」


「それって半分なんですか?」


「固く考えなくていいって意味でね。場所は三重よ」


「三重ですか?」


「滝が沢山ある山林があってね。峠道があるのよ。新車の性能見るのにはうってつけでしょ?」


「はぁ。で、それにはるくんと一緒に行っていいんですか?」


「なつだけじゃ車のことわからないでしょ? スペシャルアドバイザーよ」


 仕事?


(うん、仕事)


「新車発表会?」


「うん、一応仕事の一環なんだけどね。私だけじゃ心許ないからはるくんについていってもらえって。ダメかな?」


「いや、大丈夫だよ」


「ありがとう。じゃあ柴田さんに返事しておくね」


 時は止まることはなく、季節は移ろう。


 春は終わりを告げようとしていた。


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