あなたの季節
「おーい古川くん。荷物の引き取り手伝ってくれ」
「営業所ですか?」
「そう。上がり時間30分くらい遅くなるけどいいか?」
「それくらいなら問題ないですよ」
バイトも2年目となるといろんな仕事を任せててもらえるようになったよ
(要領いいし、責任感あるもん)
高評価?
(客観的に見てもね)
主観的だと?
(私を甘やかすのが足りないかな?)
甘えん坊だもんね
(否定しないよ?)
「なあ古川くん、契約社員にならないか?」
「バイトとどう違うんですか?」
「1番違うのは固定給になることだな。あとは外回りが中心になる。時間は融通が効くから主婦の人も結構いるぞ」
「固定給か、ちょっと考えさせてください」
バイトでも特に問題なかったんだけどね
(扶養家族じゃなかったもんね)
あれ? 僕は不要だった?
(そんなベタなのはいりません)
♢♢♢♢♢
「ただいま」
「お帰りなさい、遅いから何かあったのかと思って心配したよ」
「ごめんね、外回りのヘルプ頼まれてたんだ」
「ううん。連絡できなかったんだから仕方ないよ。おかず温めるから———んっ、ふぅん」
「うん、ご馳走さま」
「……もう、ごはんはこれからです。だからもう一回してね」
「食べてからゆっくり」
「それはそれ、はるくんのせいだから責任取りなさい」
「はいはい」
すぐにスイッチが入るよね
(きみがオンにしてるんだけどね)
「ねぇ、はるくん。明日この辺散策してみない? 最近は車でお出かけが増えたし、引越してきてから近場のスーパーくらいしか行ってないでしょ?」
「まあ、なっちゃんが卒論で忙しくしてるからね」
「あはははは、やっぱり気遣ってくれてたんだ。ありがとうね」
「なっちゃんが大丈夫ならいいよ」
「うん、せっかくの休みだからゆっくり起きて、お昼前くらいから出かけようか?」
そんなこと言いながらも早起きして家事してくれてたよね
(習慣だよね)
「日付変わるとすぐに寝ちゃうから結局早起きするくせに?」
「年寄りみたいに言わないで! いいの、今日ははるくんが寝かしてくれないから!」
「……」
「今更引かないでよ!」
「まあ、冗談だよ」
♢♢♢♢♢
「やっぱり寝るよね」
「……んっ、スゥスゥ……」
「まあ、いつも早起きしてくれてるからな。いつもありがとう」
「はるくん、はるくん」
「……ん?」
「おはよう、もう8時だからそろそろ起きてごはん食べよう」
「ん? ふぁ〜、なっちゃんおはよう」
「おはよう、着替えて顔洗ってきてね。その間に食べれるようにしておくね」
「了解」
「あ、朝から和食だ。旅館みたいだね」
「ふふふ、昨日の夜から仕込んでおいたからね。冷めないうちに食べよう」
「ん、いただきます」
「いただきます」
あなたの食のこだわりはすごかったね
(そうでもないよ。定番な和洋中くらいは頑張って覚えたよ)
胃袋は完全に掴まれたからね
(あら、胃袋だけ?)
あははは
どうだろうね
(あ、正直じゃないね)
「今日はどっちの方に行ってみる?」
「う〜ん? 大学の西の方に行ってみない? 住宅街が多いからあまり行かないけど、所々にお店もあるし穴場があるかもしれないよ?」
「確かに西の方は通り過ぎるだけだね。なにか見つけられるといいね」
「新しい発見があるかな?」
「なっちゃんは好奇心旺盛だね」
「うん、自分の知らなかったものを発見できるのって楽しいでしょ?しかもはるくんと一緒に探すんだもん。楽しみ!」
♢♢♢♢♢
「はい、なっちゃん」
「ありがとう〜、まだまだ暑いね」
「まだ暦の上では夏だもん。ちゃんとそれ飲んでよ」
「うん。はるくんも水分と塩分摂ってよ?」
「大丈夫だよ。それにしても名古屋の夏はジメジメしてるね」
「だね。夏場に公園で遊んでるちびっ子見かけなかったしね」
みんな部屋で遊んでるんだよね
(外で遊ばせられないもんね)
「ねぇ、はるくん、あそこ公園じゃないかな?」
「ん? ああ、そうかもね。木陰があるし行ってみようか」
「うん」
「東屋があってよかったね。さ、はるくんお弁当にしよう」
「ねぇ、なっちゃん。今日何時に起きたのさ? 確かに俺より先に寝たけど6時くらいには起きてるよね?」
「楽しみで早く目が覚めちゃったのよ」
まさに遠足前の子供だね
(子供は寝る前にあんなことしません)
あなたは早寝早起きだからね
(年寄り扱いしないでよ)
「はぁ〜、癒されるね〜」
「ちょっと暑いけどね。木々に囲まれた公園でなっちゃんのお弁当なんて贅沢だね」
「好きな人と一緒っていう贅沢も追加してね?」
「毎日が贅沢だ」
「お互いに、ね?」
♢♢♢♢♢
「はるくん! はるくん!」
「どうしたの?」
「見て! ヨーロッパの街並みみたいでオシャレだよ!」
あなたは興奮しっぱなしだったね
(仕方ないじゃない)
乙女だから?
(そうやってすぐからかうんだから)
「へ〜、教会? 結婚式場かな?」
「うん、そうみたい。この真ん中の大きい階段なんてローマの休日みたいな感じじゃない?」
「あ〜、なんとなくわかるかも」
「いいな〜、素敵だね。結婚式場か〜」
「なっちゃん、なっちゃん。興奮しすぎで笑われてるよ」
「えっ! どこ?」
「ほらっ、階段の上に人がいるよ」
「こんにちは」
「あ、こんにちは」
「よかったら見学していきませんか?」
「いいんですか?」
「彼女さんが気に入ってくださったみたいですので、どうぞ」
「やったはるくん! 見せてもらおう!」
「はははは、よかったねなっちゃん」
「こちらにどうぞ」
♢♢♢♢♢
「外の階段も趣があったけど、チャペルも素敵ですね」
「ありがとうございます。今は何もない状態ですけど式の時にはお花とライトやキャンドルで装飾されるんですよ」
「へぇ〜、また雰囲気変わるんでしょうね」
「そうですね。定期的にゴスペルコンサートなども開催してますのでよろしければ観にいらしてください」
「そうなんですか? はるくん今度見にこようね」
「いいよ」
「ふふ、仲睦まじいですね。うらやましいです。学生さんですか?」
「はい、すみませんまだ予定は先になりそうなんですが、予約ってできますか?」
「はるくん?」
「あらっ! 承りますよ」
「3年後の4月に。僕の卒業に合わせて予約お願いします」
「はい、では披露宴場を見ていただいてからお手続きさせていただきますね」
「ちょ、ちょっとはるくん? 予約って……」
「ん? だめ?」
「だめじゃない! だめじゃないけど……」
「けど?」
「……いいの? と、いうかプロポーズもされてないよ?」
見切り発車だったね
(本当よ、物事には順番ってものがあるのよ?)
あ、聞いたことあるね
(もう!)
「そのつもりで同棲始めたんだけどな。プロポーズはもうちょっと待ってね」
「……グスッ、も、もう。はるくん順番おかしいよ」
「あんな顔見せられちゃうとね」
「えっ?」
「幸せそうな笑顔でしたよ」
「あ、あれっ?」
「本人無自覚みたいです」
「仮予約で構いませんので。ご予定の一年前にあらためて本契約という形にいたしましょう」
「なっちゃん?」
「あっ。はい、お願いします」
♢♢♢♢♢
「ではこちらにおかけください。準備して参りますのでよろしければこれまでのお式の写真がございますのでご自由にご覧ください」
「見て見てはるくん! やっぱり素敵!」
「あ〜、ライトアップもしてくれるんだね」
「ドレスも綺麗〜、この花嫁さんすごく若く見えるんだけ—、あれっ? 清香ちゃんだ」
「えっ?」
「清香ちゃんが写ってるの」
「へ〜、どの子? って隣の子、なんか見覚えがあるような」
「うん? あっ! 前に式部庵で会ったカップル!」
「あ、モーニングの時の!なるほど、そうだね」
世間は狭いよね
(そうだね。近くに住んでるからよく会うってわけでもないしね)
「どなたかお知り合いの方でもいらっしゃいましたか?」
「はい、この写真なんですけどね」
「あら、3月に挙式された倉重さまと纐纈さまですね。私が担当させていただいたんですよ。奥様の高校卒業に合わせて挙式されたんですよ」
「高校生! それは若いですね。はるくん、式いつにしようか?」
「えらい食い付いたね」
「私も奥様って言われたい。はるくんの奥様って」
「慌てない慌てない。プロポーズもまだなんだから」
「真似しないでよ」
「うふふ。お二人の挙式も私に担当させてくださいね。申し遅れました。私、佐々木と申します。奥様のウェディングドレス姿、楽しみにしております」
作中にでてきた清香と花婿、花嫁はカクヨムで連載中の作品の登場人物です。




