どうでもいいこと
「お父さん?」
(私が実家を出てから初めての連絡)
『元気か?』
「……まあ、ね」
寡黙な人だよね
『実はな———』
「嫌。申し訳ないけどできないよ」
『まあ、お前たちがあまり仲良くないのはわかってるんだけどな。秋穂が言い出したことだから仲直りしたいと思ってるんじゃないのか?』
(ポジティブ過ぎるのよ)
理解してないんだろうね
「まあ、それはないと思うよ。それに秋穂にはこっちにきて欲しくない理由があるの」
『理由? なんだ?』
(私にとって1番大事なことだよ)
「お父さん、秋穂とはるくんのことはどれくらい知ってるの?」
『春斗くんか? 私は春斗くんの浮気が原因で別れたとだけ聞いてるぞ』
「聞いてるってことはその場にはいなかったんだよね?」
『ああ。母さんから聞いただけだな』
「そう。あのねお父さん、そのことなんだけど———」
(イルミネーションのツーショット写真も送って真実を話したの
『……そうか』
「はるくんね。私の大学の後輩になったの」
『だから会わせたくないってことだな?』
「それが1番の理由。それに秋穂はなんでこっちに来たがってるの?」
『自立したいけど初めは心配だからお前と一緒にってことらしい』
(有り得ないよ)
彼女は嘘が得意だから
(そうだったね)
「冬馬くんは? 付き合ってるんでしょ?」
『みたいだな。いまそっちにいるらしい』
「それが理由なんじゃない?」
『まあ、それもあるかもな。遠距離が辛くなってたのかもな』
「それなら、それが目的なら来ないほうがいいよ。信じないかもしれないけど———」
♢♢♢♢♢
「お父さん、考えてくれた?」
父の帰宅とともにリビングに現れた秋穂は期待に満ちた目で問いかけた。姉にベッタリだった母とは違い、幼少のころより自分の味方をしてくれていた父ならば一人暮らしの件も大丈夫だろうと思っていた。
「秋穂。お前から直接聞いてなかったけど、どうして名古屋で一人暮らしなんだ?」
「お姉ちゃんがいるからだよ。すぐに給料もらえるわけじゃないし慣れるまでは協力してもらおうと思ったの。もう大人だし仲直りするいい機会じゃない?」
仲の良くない姉との同居の理由はあらかじめ考えていた。仲直りしたいと言えば両親も反対しにくにだろう。
「そうか。夏希には聞いたのか?」
「まだ、お父さんの許可もらってからにしようと思ったの」
「反対だそうだ」
「え?」
「夏希は反対だと言ってたぞ」
強くなった語気と夏希の意思を知っている父の言葉に母の身体がびくっと跳ねた。
「な、んで?」
「春斗くんが夏希の大学に入ったのは知ってるか?」
「えっ? そうなの?」
「夏希はお前を春斗くんに会わせたくないと言ってる。なんでかわかるか?」
母を横目でチラッと見ると視線を逸らした。
それにより父は母が共犯者であることを理解した。
「……私が気を使うから」
「お前たちに裏切られた春斗くんは人間不信になるほど傷付いてたそうだ。お前と冬馬くんにな」
「……あっ、そう。もうバレてるんだね。ってことはお姉ちゃんは春斗に聞いたんだね。いまさらだからどうでもいいよ。で、それと私の就職は別件でしょ? もう冬馬くんと付き合ってるんだし、春斗なんて関係ないよ」
『バシッ!』
秋穂の頬に痛みが走った。
「立ち直ろうとしている人間に、他人の痛みをわかろうとしない人間が近づくのを私は親として許可できない。それに夏希にまで迷惑をかけてことになるだろう」
痛みのする頬を手で押さえ、父を睨みながら言い放つ。
「私には関係ないって言ってるでしょ? 遠距離になっている彼氏のそばにいたいっていう女心をお父さんにわかるわけない」
父は興奮した娘を相手に落ち着かせるかのような口調で問い掛けた。
「お前は本当に冬馬くんの彼女なのか?」
「当たり前でしょ? お父さんが知らないだけじゃない」
「ちゃんと連絡取ってるのか? 最後に会ったのはいつだ?」
痛いところをつかれた秋穂の口調がさらに強まる。
「そんなことお父さんに関係ないでしょ!」
「そうだな。でもな、間違いを犯したからさようならってできないのが親子なんだ。それを叱り、正さなければならないんだ」
「もういい! 勝手に出て行くから!」
♢♢♢♢♢
「はっ? あ、そう」
『いや、春斗その反応はどうなの?』
独り暮らしをして初めての母からの電話は謝罪だったんだ
『春斗は悪くなかったのね。勘違いしてごめんね』
(ウチの父が謝罪したそうよ)
「それだけ? じゃあね」
『ちょっと、はる———』
謝罪なんていらない
僕に必要なのはあなただけだった
(……うん)
「おばさん?」
「そう。おじさんが謝りに来たって。信じなくてごめんだってさ」
「そっか」
「なっちゃん知ってたんだ?」
「秋穂がこっちで一緒に暮らしたいって言ってるけどいいか? って。だから素直に嫌って答えた。はるくんに会わせたくないってね」
「……一緒にね」
「はるくん?」
「じゃあ俺と暮らそうか?」




