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ノリオが気付いたのは、すでに空が赤くなり始めているころだった。
しっとりとしているものの、風が汗に濡れた肌を心地よく滑って行く。
「――やばい!」
時間に気付いてがばっと身体を起こす。
いったいいつのまに眠っていたのか、たしかプールから帰るといつの間に用意していたのか詩央がドーナツを揚げてくれて、暑いけど熱々のドーナツがすごく美味しくてジュースと一緒にたくさん食べて――からの記憶がない。
どうやら眠ってしまったようだった。
一緒の部屋には、全員が同じ状態で転がっている。
「おいみんな! やばいって! 起きろ!」
ノリオの声にすぐに気付いたのはリツだ。
起きてすぐ、状況を理解している。
他の4人は目を擦りながら欠伸をしながらゆっくりと起きる。
「もう朝ぁ?」
寝ぼけているカツジの頭を叩いておく。
「しまったな、もう時間がないぞ。早く探そう」
リツが最初に飛びだした。
ノリオが続いて、寝ぼけながらも全員が外へ飛び出していく。
まだ探していないのは詩央の登下校ルートだ。
リツのノートを見ながら、夕日が落ちるのと戦いながら、全員で道を探して歩く。
「ないなぁー」
「こっちにもないよ」
口々に言いながら、土手の草をかき分けて探す。
途中には川があって、小さい橋もあったから、その下かもしれないと川の中も探した。
靴の中が濡れて歩きづらいけど、ノリオたちの腰まであるような草がある土手の中も探した。
やがて夕日が遠い山の向こうに落ちて、もう少し待って、と何度もお願いしたのに、聞き入られることはなく、太陽は西の空に沈んだ。
赤かった空がゆっくりと黒と混じっていく。
「・・・ノリオ、なぁ、このへんにはもうないよ」
手元が見えなくなる前に、ハルジが言った。
「・・・・・」
「これだけ探してもないってことはさぁ、もしかしたらもう」
無言で下を見るノリオに、テツも告げる。
それにノリオはかっとなった。
「うるさい! まだわかんないだろ! 探してないとこだってあるかもしれないだろ!」
睨みつけるけど、もうお互いの顔も解らなくなってきている。
いつの間にか、ノリオの隣に立ったリツが言った。
「・・・ノリオ、今日は帰ろう」
「・・・・・」
悔しかった。
ノリオは、全身で悔しさを耐えていた。
歯を食いしばり、掌を痛いくらい握った。
最初の日だったのに。
最後の夏休みの、最初の日だ。
とくに特別なものになるはずだった。
詩央が、喜んでくれるはずだった。
絶対に見つかると思っていたのに。
朝感じていた気持ちが、全部消えてなくなって、あれはいったいなんだったんだろうと思うくらい、今は悔しくて仕方がなかった。
リツに背中を押されて、ノリオは足を踏み出した。
その後ろをついて、全員が団地に向かって帰った。
まだ田舎の様子を残す土手は、外灯がぽつりとあるだけで、団地の明るさを頼りにゆっくりと帰った。




