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忘れない日々  作者: 秋野真珠
最後の夏休み
8/14

ノリオが気付いたのは、すでに空が赤くなり始めているころだった。

しっとりとしているものの、風が汗に濡れた肌を心地よく滑って行く。

「――やばい!」

時間に気付いてがばっと身体を起こす。

いったいいつのまに眠っていたのか、たしかプールから帰るといつの間に用意していたのか詩央がドーナツを揚げてくれて、暑いけど熱々のドーナツがすごく美味しくてジュースと一緒にたくさん食べて――からの記憶がない。

どうやら眠ってしまったようだった。

一緒の部屋には、全員が同じ状態で転がっている。

「おいみんな! やばいって! 起きろ!」

ノリオの声にすぐに気付いたのはリツだ。

起きてすぐ、状況を理解している。

他の4人は目を擦りながら欠伸をしながらゆっくりと起きる。

「もう朝ぁ?」

寝ぼけているカツジの頭を叩いておく。

「しまったな、もう時間がないぞ。早く探そう」

リツが最初に飛びだした。

ノリオが続いて、寝ぼけながらも全員が外へ飛び出していく。

まだ探していないのは詩央の登下校ルートだ。

リツのノートを見ながら、夕日が落ちるのと戦いながら、全員で道を探して歩く。

「ないなぁー」

「こっちにもないよ」

口々に言いながら、土手の草をかき分けて探す。

途中には川があって、小さい橋もあったから、その下かもしれないと川の中も探した。

靴の中が濡れて歩きづらいけど、ノリオたちの腰まであるような草がある土手の中も探した。

やがて夕日が遠い山の向こうに落ちて、もう少し待って、と何度もお願いしたのに、聞き入られることはなく、太陽は西の空に沈んだ。

赤かった空がゆっくりと黒と混じっていく。

「・・・ノリオ、なぁ、このへんにはもうないよ」

手元が見えなくなる前に、ハルジが言った。

「・・・・・」

「これだけ探してもないってことはさぁ、もしかしたらもう」

無言で下を見るノリオに、テツも告げる。

それにノリオはかっとなった。

「うるさい! まだわかんないだろ! 探してないとこだってあるかもしれないだろ!」

睨みつけるけど、もうお互いの顔も解らなくなってきている。

いつの間にか、ノリオの隣に立ったリツが言った。

「・・・ノリオ、今日は帰ろう」

「・・・・・」

悔しかった。

ノリオは、全身で悔しさを耐えていた。

歯を食いしばり、掌を痛いくらい握った。

最初の日だったのに。

最後の夏休みの、最初の日だ。

とくに特別なものになるはずだった。

詩央が、喜んでくれるはずだった。

絶対に見つかると思っていたのに。

朝感じていた気持ちが、全部消えてなくなって、あれはいったいなんだったんだろうと思うくらい、今は悔しくて仕方がなかった。

リツに背中を押されて、ノリオは足を踏み出した。

その後ろをついて、全員が団地に向かって帰った。

まだ田舎の様子を残す土手は、外灯がぽつりとあるだけで、団地の明るさを頼りにゆっくりと帰った。


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