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【暴利】ラクーンファイナンス:貴方のための特別なご融資

12月1日、初冬――


 僕は、なぜ、あんなムダな時間を。翌月になると僕は正気に戻った……。

 説明を読まずに自分自身を人材として提供した僕は、ベッドの上で悶え狂った。


「まさか、1ヶ月も真面目に働いてしまうなんて……っ、ああ、危なかった……」


 【パラメーター:人材】の増加は、人口増加によるランダム増加とチュートリアルにあった。

 運に恵まれなければ、僕は今月も眼鏡を『くいっ』とやりながら『キリッ』とやってドロイドを組み立て続けていただろう。


 僕は顔の眼鏡に手をかけて『こういうのは僕のキャラじゃないんだよぉぉっっ』と、熱い思いを込めて投げ捨てた。


 今頃は新しい人材がしれっと僕に成り代わって、ドロイド工場で眼鏡を『くいっ』とやっていることだろう。


「はぁぁ……っ、今日はもう政務すら片付けたくない……」


 僕はベッドに横たわり、今月の建設のことすら頭から排除して、惰眠をむさぼった。

 気持ちのいい夢を見ては目覚め、その続きを求めて目を閉じた。まどろみ、これ以上に素晴らしき快楽があるだろう、いやない!


 そんな折り――


<「 起きて下さい、ご主人様っ、もうお昼もきゅよーっ! 」


 ポンちゃんが僕の胸に両手を置いて、甘い夢から揺すり起こした。


「お腹空いた……。ポンちゃん、ご飯持ってきてー……」


<「 ご主人様、今は小指1本すら労働に使いたくないご気分はわかるもきゅが…… 」


<「 ポンちゃんの上司が応接間でお待ちですもきゅ! お願い起きて、お願いっ! 」


 上司。たぬき、上司……?

 僕はふわもこのポンちゃんを抱いて立ち上がった。


「ポンちゃんの上司って、たぬき?」


<「 たぬきと言えなくもないたぬきじゃない人もきゅ 」


「わかった、会おう」


 ポンちゃんを抱っこしたまま部屋を出て、暴れるポンちゃんを逃がしてやらないまま1階の応接間に入った。


「初めまして、辺境伯様。わたくし、ラクーン商会外商部・本部長のカフェ・ブンブクと申します、どうかお見知り置きを」


 間違いない。これがポンちゃんの上司だろう。

 確かにそれは『たぬきと言えなくもないたぬきじゃない人』だった。


<「 お、下ろしてーっ、本部長の前で抱っこは嫌もきゅぅーっっ 」


 僕はポンちゃんの悲痛なお願いを無視しつつ、席を立ったカフェさん背後に回る。

 カフェさんは丸いたぬ耳に、ごんぶとのたぬ尻尾を持ったスーツ姿の亜人お姉さんだった。


「僕が辺境伯のアルトです。その耳と尻尾、まさか本物ですか……?」


「本物にございます。よろしければ、触っていただいてもよろしいのですよ」


「いいんですかっ、ではよろこんでっ!」


 ポンちゃんを絨毯に捨てて、僕はお姉さんの耳と尻尾に触れた。その耳は温かい血が通っていた。尻尾はこれでもかと太く、もふもふだった。


「ご満足いただけましたか?」


「すごいっ、ポンちゃんより尻尾がふかふかだ!」


<( もきゃぁぁーっ、たぬきの価値は尻尾の大きさだけじゃないもきゅぅーっ! )


 カフェさんに着席を促して、僕もその向かい席に座った。

 ごめんね、ポンちゃん。僕もしょせん、大きな尻尾が好きな男なんだ。許してほしい。


「それでカフェさん、ご用件は?」


「ええ、そこのポンデ・リンが弊社に断りなく建設した自動販売機とガシャポン・ポンなのですが」


「え、無断……?」


 何それ、僕一言も聞いてないんですけど?


<「 無断じゃないもきゅ。ポンちゃんがオーナーになって筋を通したもきゅ! 」


 ポンちゃんがあの施設のオーナー。つまり、僕は直接ラクーン商会と取引していたわけではなかったのか。


「はい、その結果、弊社は莫大な利益を、そこのポンデ・リンに横取りされることになりました」


<「 他になかったもきゅ! 」


<「 ポンちゃんを言葉の通じない世界に送ったそっちが悪いもきゅ! 」


 まあそれはある。ポンちゃんは危うく皮を剥がれて、肉にされて、あまつさえ剥製にまでされる猟奇エンドを迎えるところだった。


「こちらの世界に建設されたあのコーナーですが、弊社の自動販売機部門、およびガシャポン・ポン部門において、それぞれ月間売り上げ2位・3位を記録しております」


 初期は日替わりで商品が補充されてゆくほどの勢いだった。

 一ヶ月経った今でも、頻繁にたぬきたちの補充風景を見かけるほどに施設は盛況だ。


「弊社としては、冷遇した社員に出し抜かれた形となります」


<「 もきゅぅー? 」


 ポンちゃんは畜生のふりをしてしらばっくれた。ポンちゃんはたぬきなたぬきだった。


「【ラングリシュエル・ワールド】にはさほど期待しておりませんでしたが――辺境伯様、貴方がいるならば話は別です」


「前置きが長いよ。つまりどういうこと?」


「今後はポンデ・リンではなく、弊社との直接の取引をお願いいたします。そして、もう1つ……」


 カフェさんは机に向けて手のひらを差し出した。するとすぐに、手のひらの下で世界が湾曲した。

 そこに現れたのはカジノのチップみたいに積み重ねられた莫大な富・金貨の山だった。


「ポンデ・リンのレポートによると、深刻な資本不足にあるそうですね」


 ここで素直に『はい、そうです、そのお金下さい』と答えるほど僕もバカじゃない。


「我々と取引をして下さるのならば、こちらの300万シルバーを年利80%の12回返済でお貸ししましょう」


<「 騙されちゃダメもきゅっ、ぼったくりもきゅっっ!! 」


 なるほど、カフェさんはこういう人か。

 300万シルバー=金3000。金3000あれば、年利80%のぼったくり返済なんて屁でもない。彼女はそれを承知でふっかけてきている。


 たぬき資本、恐るべし。

 僕はその300万シルバーが喉から手が出るほどに欲しい!


「もう少しまからないです?」


「弊社はそこのポンデ・リンを背任で訴えるという道もございます」


<「 もきゃぁぁっ?! ポンちゃんだって必死だったもきゅよっ!? 」


<「 本社と連絡付ける方法、他になかったもきゅぅっ!! 」


 やっぱブラック企業だなぁ……。

 もっふもふのポンちゃんを手放す理由もなかったので、僕はこの話を受けることにした。


 1ヶ月に450金を12回返すだけで、金3000が今もらえるなら乗る。闇金も尻尾巻いて逃げ出すどちゃクソ金利だけど、そんなの関係ない!


「ポンちゃんにもう酷いことをしない。契約書にこれを折り込んでくれるなら、喜んでラクーン商会と取り引きするよ」


 なぜならば僕は、スパとコンビニが今すぐにでも欲しいから!

 もう建設上限が1枠しかないので、片方しか置けないところが悩みどころだ!


「ではこちらの契約書にサインを。辺境伯様、これから末永くお付き合いのほどをよろしくお願いいたします」


 契約書には『甲は乙に、ポンデ・リンにもう酷いことをしないと約束する。』と確かにあった。僕はサインを刻み、ラクーン商会と契約した。


「そうそう、各種資源(リソース)が不足しているご様子。これからはいつでも、『資源1:金4:兵糧10』のレートで交換させていただきますので、ごひいきに」


「ありがとう、それはまた助かるよ」


 金金金、たぬきとして恥ずかしくないのか!

 ラクーン商会は素敵な商品を提供してくれる夢の商社だけど、しっかり足下を見てくるブラックな守銭奴集団だった。


―――――――――――――――――――――

【備蓄:辺境伯領ザラキア】

 【兵糧】2524   (+269)

 【金】 3561   (+295)

          返済(ー450)

 【木材】117 【石材】62 【人材】0

―――――――――――――――――――――

【内政:辺境伯領ザラキア】

 【人口】 585   (+57)

     (ドロイド人口 +15)

 【治安】 80/100(+ 5)

 【民忠】 76/100(+16)

 【兵力】  10

 【馬】    0

 【魔導師】  0

 【魔導兵】  0

 【求職者】 34

 【施設数】5/6

 【補足】()は先月比

――――――――――――――――――


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