8話 相対
声をかけられ振り向いたアルドの視線の先には。少し幼い色白の少女がいた。いや、病的にまで白くなった肌を持った少女というのが正しいかも知れない。
身体が埋まりそうなほどの長く黒い髪、顔の輪郭は酷く細く触れただけで壊れてしまいそうだ。顔つきは幼く見えて無垢で無知だと言いたげな程の純粋な雰囲気。
そんな少女がアルドに僅かに赤味がかった目から視線を送っている。
その目には緊張と歓喜、そして敬愛の色が籠もっていて、あまり豊かとは言えない表情の中で輝いていた。
(誰だ?また神関連のやつでも来たのか?)
そう考えて少しあとに否定する。声の響き方が圧倒的に違っていたからだ。神達の声が全身くまなく透き通るようなものだとすれば、この少女からは胸の内から響く様な静かで目を閉じなければ聞き逃しそうな声がしたからだ。
(そう言えば。顔しか見てなかったけど背の高さはどれくらいなんだろ―――って、えっ!?)
そして、顔に意識を持っていかれて確認していなかった身長云々を確かめるために視線を少し落としたところで気付いてしまった。
その少女は一糸纏わぬ生まれたままの姿だった。
咄嗟に顔を逸して少女の名誉を守ろうとするアルド。だがその一瞬で胸部の僅かな膨らみが目に写ってしまった。
死ぬ間際に告白されたが前世も、そして今世も女性経験皆無のアルドは当然裸というだけでも赤面を晒してしまう。
誰だって自分の裸は見られたくないだろう。そう思っての行動だったが少女にはその意図は伝わらなかったらしい。
『あの、どうしましたか……?』
純粋な疑問をアルドにぶつけてくる。恐らく自分が全裸だと気付いていないのだろう、しきりにアルドを気遣う様な素振りを見せる。
そのことに申し訳なくなったアルドは顔を真っ赤にしながら服を着ていないことを告げた。すると少女は『こんな貧相な身体でお目汚ししてしまい、申し訳ございません』と暫く試行錯誤して服を具現化した。
そして、気を取り直した少女はアルドに近寄ってくると跪きアルドを見据え告げる。
『スキルナンバー42568【吸収】と申します。この度は炎神様のご意向でマスターへの挨拶に参りました』
(えっなんで跪いて……って、マスター?俺が?この子の?スキルナンバーって何?)
名乗りを終えるとまるで『上手く言えたかな?』と考えているのが筒抜けなほど挙動不審になる少女。
だがアルドはいきなり少女に跪かれマスターと言われたのだからひどく困惑した。
だが、自身の持つユニークスキルという謎スキルを思い出した。
「お前はユニークスキル吸収ってことか?」
『はい、吸収スキルの第42568号です』
そして、その存在を告げると首肯しその詳細を告げた少女。恐らく彼女もそこまでしか知らないのだろう。
落ち着きを取り戻しつつあるアルドは次の質問に入る。
「了解、お前は何のためにここに来たんだ?」
『マスターとの意思疎通と私という存在の認知、そして、スキルへの干渉の許可をいただきに来ました』
そして、少女の回答で大まかな理由を知ったアルド。今回は彼のユニークスキルの理解とその意思疎通を行うために炎神が即席で用意してくれたようだ。
そのことに感謝しつつ聞き捨てられない言葉も拾ったのでそれについても追求する。
「スキルへの干渉というのは?」
『私が貴方のスキルを改革して扱いやすくしたり、発動時の補助に回るための権限です』
「そうか、まあ、使えなかったら宝の持ち腐れだし、よろしく頼むよ。スキルへの干渉を許可するよ」
『ありがとうございます。』
そして、デメリットは無かったので快諾する。すると身体が少しだけ軽くなったような気がした。
これが補助の効果なのだろうか、そんなことを考えていると最後にと前置きして少女が告げる。
『マスター、私は一つのスキルに過ぎません。スキルは創造主に絶対服従です。どう扱うかはマスター次第ですが、振り回されないように気を付けてお過ごしください。私は呼び掛けさえあれば何時でも対応しますので。では失礼します』
そして、その少女は掻き消えアルドは教会の大聖堂に戻っていた。
「よし、儀式は無事終わったようだな。アルドよ皆の元に戻りなさい」
神父に告げられ大聖堂を後にするアルド。皆にどんな才能やスキルがあるか聞かれたがユニークスキルがあったと告げると何故か盛大に盛り上がった。
その意味を知らないアルドは悪いことではないと思い胸をそっと撫で下ろしていた。
※
家に帰ると両親にユニークスキルを持っていてその正体を知りたいと聞くと二人はかなり驚きしかし誇らしげな顔でユニークスキルについて教えてくれた。
曰く、ユニークスキルはその個人だけのスキルで通常のスキルとは逸脱した性能を誇るのだと。
曰く、ユニークスキルは既存のスキルにはなく新たに個人が創り出した新種のスキルなのだとか。
他にもキリが無いほど逸話が残っており、その中でも複数登場したスキルがあるようだがそれは例外だろう。
「アルド、ちなみにスキルの名前は言えるかい?」
伝承にしか聞くことのないスキルを息子が保有していたことに興奮した父は興味でアルドに聞くがアルドが答えようとした途端来客があった。
そして、戻ってくるとアルドにユニークスキル持ちがいた事に対する祭りをすることになったので来るように村長から告げられアルドは村の広場に行くことになった。
それが、大事になることをアルドはまだ知らない。




