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17話 これからの道


 日の光の眩しさで目が覚めた。窓を開けて空を見上げるとそこそこ高い位置に太陽が昇っていた。昼前といったところか、久々のまともな寝床で眠ったせいか随分と寝過ごしてしまったようだ。


 『おはようございます、マスター』


 「ああ、おはよう。そう言えば昨日手に入れたスキルはどんなものだったんだ?」


 『あ、【調合】の副産物の事ですね。提示します』


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 酸生成1:酸を造り出す。濃度や量の調整ができる。


 保有例:粘性生物、一部植物型魔獣


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 スキルの説明は簡潔で短かった。


 「なんか……地味だな」


 『なんてことを言ってるんですかマスター!?こんな便利すぎる能力が地味なわけがないですよっ!!』


 つい本音をこぼしてしまった俺に珍しく突っかかってきた彼女に俺は少し驚いた。だが酸を造り出す程度の能力が何故―――?


 『いいですかマスター。大体の生き物は食事をして得た栄養を分解して自分のからだにとりこんでいるんです。中でもアミノ酸はマスターの筋肉から髪の毛の先までを作り上げる材料なんです』


 「お、おう」


 『アミノ酸にも種類があって、一部のアミノ酸は体に必要なものでありながら体内で生産できないものがあるんです。必須アミノ酸といってこれが無いと健康を維持できないんです』


 「その『ひっすあみのさん』と酸生成にどんな繋がりがあるんだ?」


 ものすごい勢いで話し出した事に驚いたが内容がさっぱりわからない。と言うか話が脱線しているように見えたので結論を出すように誘導した。


 『実はアミノ酸も『酸』の一種なんです。だからこれから食料がなくなった時でも生存する確率が上がったという事です!』


 まるで鼻息荒く興奮したように話す彼女に苦笑したが、そのメリットがどれだけ大きいかが理解できた。ん?でも確か―――


 「【吸収(ドレイン)】で貯めたエネルギーを【調合】すればできるんじゃないか?」


 『あっ!?』


 ―――そもそも必要が無かった様だ。


 「アルド?起きてる?もうお昼になるから昼食を食べない?」


 ちょうどその時間の伸びたソフィの声が扉の外から聞こえた。


           ※


 『不覚です。このスキルは新スキル創造の生贄にします』


 昼食時には合いようもない俺だけが聞こえる物騒な声を聞きながら食事をとる。今日のメニューはスープとサラダ。


 これといって代わり映えはしないが、ここの昼食に使われているのは取れたての新鮮な野菜だ。元が肉食の龍人には少し物足りないが。何でも特製のドレッシングを使っているそうでとても美味い。


 「……そう言えばアルドは6歳って言ってたけれど、その……絶望してないんだね」


 食事を済ませ一息ついてるとソフィが聞きづらそうにしながら聞いてきた。確かに俺の態度は死に絶望してるっていうようなものじゃなかったからそうかもしれない。


 「絶望は一切ないけど、龍人のこの風習って結構有名なのか?」


 「ううん、私の知り合いに龍人の里から来た人がいて、その人が教えてくれたんだけど……その訳アリで死が確定してる龍人は……」


 そこで言い淀むソフィ。まるで何かを恐れるような不安げな表情でこちらを見ていたが、意を決したのか再び話し出した。


 「……暴走するの」


 「暴走?……ああ、もしかしてもうそろそろ12歳って時に自暴自棄になって死ぬまで暴れ続けるとかじゃねぇか?」


 ソフィの話を聞いてすぐにピンときた。大方理屈では分かっていた死を死ぬ間近になって正気を保てなくなったのだろう。


 「うん、中にはその暴走で無理矢理進化を果たす龍人もいた……周囲の動物を無差別に食らいつくしながら」


 『なるほど、進化に必要なエネルギーを強引に取り込んでいたのなら可能ですね。正気に戻るかはわかりませんが』


 その言葉でアルドの脳裏に村に揉んできたガキが一人浮かんだがアイツは違うと思考を振り払った。アイツは進化させたのだから。


 「あー、つまりあれか?俺が暴れないか危惧してるってことか?」


 「失礼だとは思うけど、そう」


 ソフィのいう事は当然だろう。どれだけ口八丁に並べても結局暴れたのでは意味が無いのだから。先ほどの話で被害の規模を離さなかったことは恐らく人名被害も出たことだろう。だがそれを言わなかったことはアルドに罪悪感を持たせないためだろう。


 「そのことについては心配はいらない。進化も問題なくできる」


 「え?じゃ、じゃあなんで故郷から出てこれたの?」


 アルドの返答に戸惑いを隠せない様子でソフィが聞き返す。龍人の子は基本的に成人しても12歳までは住処から出ることは許されないのだ


 「え?村が退屈だったからいい機会だなと思ったからだが?」


 「えっ?ご両親はこのことを知ってるの?」


 「ん?進化の事か?そりゃあ言って……あ」


 「…………」


 項垂れるソフィ。そしてゆっくり顔を上げジト目で睨んでくる。完全に目が「馬鹿じゃないの?」とでも言いたげなのがよく伝わった。


 「ま、まあ12歳には戻るって言ったから大丈夫だ」


 「ど・こ・が・大丈夫なのよっ!」


 「いてぇっ!!」


 スコーンッ!!といい音を出して俺の頭が叩かれた。ソフィはため息を吐きながらやれやれと言った様子で椅子に座り直した。


 その時バーニィがやってきた。手に何やら布に包まれた長い筒の様な物を持っている。


 「ソフィ様、頼まれていたものを持ってまいりました」


 「ありがとう、いつも凄く助かるわ」


 「いえいえ、こうしたことが出来るのも全てソフィ様のお陰ですので、当然のことをしたまでですよ」


 ソフィはバーニィから受け取った筒の布を解くとそこには鮮やかな氷を思わせる硝子のような長槍が姿を現した。


 『へぇ、氷雪魔術の増幅と、その詠唱を完全省略する槍ですか……なかなかの一品ですね。コレ、国宝らしいですよ、マスター』


 即座に槍を鑑定した吸収(ドレイン)が珍しく評価する。そしてそうやら国宝らしい。


 (ん?国宝?)


 『この王国の国宝ですね。もしかしたら彼女は王国で何かしらの大きな功績を残したんでしょう』


 (こいつ、メッチャヤバい奴だったんだな)


 もしかしたらソフィが居なくなれば、王国は物凄い損失をするんじゃないだろうか。


 「私はこれから一人で生きていかないといけないけど。武器なんて触った事がない。無理は承知で頼みたいのだけど、アルド、私とパーティーを組んでくれないかな?」


 「別にいいが、無理はするなよ?助けたのに死んでくれたら目覚めが悪い」


 「そっちこそ、すぐに足を引っ張らないくらい強くなるから覚悟しててね!」


 こうして初めて俺に仲間ができた。


           ※


 《ユニークスキル吸収(ドレイン)がスキル【酸生成】から【分解】および【液体操作】を作成しました》


 《ユニークスキル吸収(ドレイン)に【分解】スキルが同期しました。吸収効率、変換率が飛躍的に上昇しました》


 《スキル【液体操作】が複製され、スキル【超再生】と合成されました。新たに【超速再生】、【操血】を獲得しました》


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 操血:血液を自在に操作するスキル。※吸血鬼族の固有スキル。


 液体操作:液体を自在に操作するスキル。


 超速再生:負傷部位を集中かつ迅速に再生するスキル。※スライムロード固有スキル。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


結城 蓮です。

(略)

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