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16話 どうやら異世界転生ではなかったみたいだ


 ソフィに案内され俺は王都への道を進んでいた。時折魔物が飛び出てくるが吸収(ドレイン)奪命(ドレイン)が優秀なお陰で難なく切り抜けることができていた。


 驚くことに、いや、それも当然かもしれないけど魔物にも才能などがあった。全部奪ったけど。


 「むぅ……頼りになりますけど守られてばっかりも悔しいです……」


 思わぬ誤算で能力が増えてホクホクしてる俺の側でソフィが何が不満そうに呟いたが残念ながら聞き取れなかった。まぁでも俺は上手くスキルを扱うことなんか出来ないから吸収(ドレイン)に丸投げするけど。


 『はぁ……せめて私くらいは自在に使えるようにしてくださいね?』


 呆れられてしまった。でも仕方がないと思う。スキルとか才能が増えてもその瞬間に扱えるわけじゃないんだから。


 だから俺は能力の管理をする彼女にやりたい事(アイデア)を伝えることにするとしよう。


 (なあ、いつもエネルギーを食事もとい経験値にしてるけど、スキルとかも食えるのか?)


 『えっ?……いや、試したことがないです』


 (食ってみてくれよ試しに……そうだなこの使い道のない【胃酸強化】とか)


 案の定未挑戦の事が見つかった。因みに胃酸強化は食べたも物の消化を早めるためのスキルで元から栄養素(エネルギー)だけを吸収する俺には縁のないスキルだから消費しても問題はないと思う。


 『ダメ元で試してみますね。でも、マスターは面白い方ですね♪』


 《ユニークスキル吸収(ドレイン)がスキル胃酸強化(N)Lv1を吸収(ドレイン)しました。新規機能を確認。機能:調合を創造しました》


 うまくいった。よく分からないけど何か便利そうな名前だな。にしても、なんだか楽しそうだった様な……?


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 機能


 貯蓄:吸収した養分やエネルギーを蓄える。


 成長:養分やエネルギーを消費して身体的な成長を行う。


 再生:養分やエネルギーを消費して身体的損傷を治癒する。


 〈NEW〉


 調合:吸収した養分やエネルギーを変換する。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 『なるほど、さっきの胃酸強化は『酸』を作り出す能力になって、応用性の広い調合に進化したわけですね』


 (分かりやすい説明をどうもありがとう)


 『これなら他にも今までマスターが知らずに食べていた毒物も免疫情報から抜き出して使えるかもしれない。他は上手くすればポーションの生成もできるかも。いや、それどころか血液中の鉄分から鉄まで生成できるかも。ならその形成のための能力も得ておかないと行けないかも―――』


 (ってストップ、ストォーップっ!!)


 新しい事が出来たのが嬉しかったのか少し興奮したように早まった言葉にほほえましいと感じたが、俺のその油断と言うか気の緩みと言うか、途端に普段よりも圧倒的に口数の多くなった吸収(ドレイン)への静止が少し遅れた。


 『あっ……すいません。つい……』


 何かとても難しいことを言っていたが気にしたら負けだと思う。うん、俺は聞いてない。


 その後も滞りなく道を進んで行き、ついに王都にたどり着いた。堅牢な城壁の外からでも見える高くそびえる存在感の強い王城はその権威を示すように鎮座していた。


 前世の王城をそっくりそのまま200年ほどの年月が経ったようなその王国の名前は「ラウム・プル・リエラヌト・テニューン・メステイア連邦王国」。間違いない。どこか違和感を覚えるが恐らく改修工事等で補強でもしたからだろう。


 「―――。ねえってばっ!!」


 「……ん?ああ、ごめん早く入国しようか」


 少し取り乱してしまった。まさか隣りにいるソフィの声すら届かなかった。それだけ衝撃的だった。もう俺の家はおろか家族も居ないだろう。だってあの日にみんな死んだのだから。


 「何か事情があるみたいだけど、私は早く人心地に付きたいから早く入国審査に並ぶよ」


 そんな俺の姿を見て気を使った……かは分からないが、ソフィは余計な詮索はしてこなかった。俺の手を引いてソフィは門の前に並ぶ長蛇の列の最後尾に着いたのだった。


 列はかなり長く多くの人種で賑わっていた。ざっと見ただけでもドワーフ、獣人、魔人に人間。珍しい種族でエルフもいた。過去には魔王なんて言う悪に染まった魔族の王がいたようだけど既に和解していて、当たり前のように魔人達が居ることは昔も今も変わらないようだ。


 でも、それにしても……


 「長いな……」


 そう、長いんだ。かれこれ一時間は並んでるんだけどそれでやっと十歩進んだくらいだ。これは野宿を頭に入れておかないといけないかもしれない。


 そう諦めかけていた俺の耳に言葉が飛び込んできた。


 「おや?そこに居られるお方はもしや……ソフィ・メルティーヤ様ではないですか?」


 振り返ってみれば魔人、いや、炎を司る炎魔人の男がいた。炎魔人特有の赤い髪に整った顔立ち、そして髪の色と対になるような鮮やかな蒼い瞳はとても思慮深そうな知性をたたえていた。俗語で言えばイケメンだ。


 よく見れば彼の着込んでいる服は絹製でやんごとない身分であるのはひと目でわかる。しかし、貴族の着る服はゴテゴテではっきり言ってダサいとしか思ったことが無いけれどこの男は自然なアレンジであたかも彼のために誂えられたようになっている。


 か、完璧超人かよ。


 「あ、バーニィ。奇遇ね。息子さんはお元気?」


 なんて考えていたらソフィが男―――バーニィにタメ口で話しかけていた。っておい!?大丈夫なのかっ!?相手は絶対貴族だろっ!?


 「ええ、それはもう元気で、と言いますか元気すぎて夜は夜泣きしないほど日中は動き回っております。私も妻もとても助かっておりますよ」


 「そう、とても元気な男の子ね。将来が楽しみね」


 「ありがとうございます。そういえば最近領内でソフィ様を見かけませんでしたがあの両親はまさか―――」


 俺の心配を他所に会話は進んでいく。どうやらこのバーニィと言うか男はソフィを慕っている様子から見て地位的に下か、ソフィに恩があるか、もしくは経営者かそんなところだろう。


 「―――なるほど。分かりました。ソフィ様よくぞご無事で……。部屋は我が『レストン商会』が用意します。お連れの方も分も用意しますので一先ずさっさと入国してしまいましょう」


 ソフィから事情を聞いていたのだろうバーニィはどうやら商会会長なのだろう。権力であっと言う間に入国が済んでしまった。そして、やっぱりいつかの見慣れた俺の故郷の風景はすっかり風変わりしていた。


 その後案内された建物に入ると俺たちは一人一部屋あてがわれその部屋を永久に貸してくれるとのことだった。バーニィは余程ソフィが大切なのかかなりの優遇をしてくれる。見ず知らずの俺にまでそんな扱いをしてくれるのだから。(ソフィが頼んだとはいえ)


 本当にあいつ(ソフィ)は何者だろうな。


 「お連れの方、いや、アルド様困惑されていると思われますが、ソフィ様は私の商会を支えてくれた恩人なのです。ですから彼女の頼まれ事なら何でも引き受けるつもりなのですよ」


 あ、犯罪以外はですがね―――と俺の心を読んだかのようなタイミングで俺まで優遇してくれた理由を語るバーニィ。それにしても今ですら少し幼いのにそれ以前に商会を支えた。つまり立て直しもした可能性がある。本当、どんな切れ者だよ。


 「分かった。でも様付けはやめてくれ俺はただの平民だ」


 「アルド様……アルドがそう言うなら仕方ない。押し付けがましいのだが、お嬢様を暫くよろしく頼む」


 「どうせ暇だからな。任せておけ」


 その日少し疲労の溜まっていた俺は安らかな眠りに誘われ快適な眠りにつけたのだった。


 勘違いするなよ。死んだわけじゃないからな?

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