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12話 王都へ


 「ただのしがない無能龍人だよ」


 俺はそう言って盗賊のリーダーが持っていた荒縄を奪い拘束しながら少女の疑問に答えた。この盗賊のリーダーは元の才能のお陰か気絶はしたものの殴られた衝撃を上手く流したみたいだ。


 確かに才能を奪われただけで弱くなるなんて話は無いよな。才能が無くなっても元から身体に刻まれた技までは奪えない。盗賊リーダーがいい例だ。次からこういったことも考慮しないとな。


 「嘘よ……この顔は王都で張り出されてる盗賊の『騎士殺しのグスマ』。精鋭の騎士を5人同時に殺した化け物なのよ」


 そう言ってボロボロの貴族様はおっしゃる。あーあ、厄介事に手を突っ込んじまったな。


 にしても騎士を殺すのか……。騎士は確か剣士と盾役、そして槍使いの3つの職を極めた者しかなれない上位職でボイラーの暗黒騎士の下位職に当たる職業でかなりの強さを誇るものだけど、それを同時に相手していたこのグスマはかなり強かったみたいだ。


 「龍人族を相手にしたのは初めてなんじゃないか?俺達は人間族よりは強いぞ?」


 「いいえ……一度王立騎士団の劣等飛翼竜(レッサーワイバーン)を単騎で殺してるわ。貴方達より強いよね?」


 どうやらかなりの大物らしい。それにしても王立騎士団か。前世にも同じ名前の組織が存在していたが偶然はあるものだな。そして、確かに劣等飛翼竜(レッサーワイバーン)は俺達龍人族より強い。他対一なら勝てるが一対一は無理だ。


 これは言い逃れもできないのだが、吸収(ドレイン)が優秀ということだろうか。


 『いやですねぇ〜。褒めても何も出ませんよ〜』


 優秀と言う言葉を目聡く拾った吸収(ドレイン)が嬉しそうに言うが気にしない。


 「そんな相手を一方的に倒すのはおかしいよね?普通無理だからね?」


 ……どうやら言い逃れはできないらしい。腹をくくるか。


 「分かった……スキルの効果だよ。それ以上は言えない」


 自分の能力は簡単には明かさないのはこの世界でも同じだと思う。これで通ってくれ!


 「人を簡単に葬れる程のスキルなんて聞いたことないけど……目の前に居るんだし……わかったわ。そういうことにしておく」


 思いが通じたのか軽くため息交じりに納得はしてくれたようだ。


 「それにしてもボロボロだな。最寄りの街で体を洗うなりしたほうが良いんじゃないか?」


 「確かに……でも、ここから一番近いのは王都だけで他には村すらないの」


 俺が指摘して自分の格好を確認した少女は少し億劫そうに最寄りの都市を口にした。恐らく彼女の故郷なのだろうがいい思い出は無いだろう。


 だがしかしこのままでは健康にも影響をきたす程ボロボロなのだ。具体的には身体のあちこちに擦り傷があり、服も擦り切れ、髪や肌も埃や泥だらけといったコンボを叩き出している。


 放置すれば何かしらの病気にかかるのは時間の問題だろう。その上このまま放置するのも何だか悪い気がする。どうせ乗りかかった船なのだしここは最後まで面倒を見ないとな。


 (すまん、残ってる栄養素……エネルギーはどの位だ?)


 『そうですね……さっきの4人分の(エネルギー)が凄い量だったので90%位は貯蓄の容量を占めてます』


 確か村を出てからの総量は4〜50%位だった筈が今は90%か……それも屈強な盗賊の4人で40%貯まったということは俺たちが蓄えて進化に使うエネルギーは凄まじいのだろう。でも盗賊でエネルギーを得られるのはわかったから暫くはエネルギーを使っても問題無いだろう。


 (よし、吸収(お前)に10%エネルギーを使う)


 『了解です』


 《吸収(ドレイン)のレベルが4になりました。吸収効率、吸収速度が上昇しました》


 《吸収(ドレイン)のレベルが5になりました。吸収効率、吸収速度が上昇しました》


 《吸収(ドレイン)のレベルが……》


 《吸収(ドレイン)の……》


 《……》


 《吸収(ドレイン)のレベルが10になりました。吸収効率、吸収速度が上昇しました。

 レベル10達成。派生吸収のリストの閲覧が可能になります》


 おおっ!なんか出来るようになってる!


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 派生吸収リスト


 ベース


 吸収


 一次派生


 贈与、強奪、学習、


 二次派生


 奪命、増収、操心、奪身、努力、支援、治癒、


 三次派生


 暴▲、▽欲、強○、●□、■■、●○、▽▲


 △▼、●▲、▽○、□□、■▲、▼▲、○○


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 どうやら俺の吸収(ドレイン)の副次効果の早見表といったところだろうか?何やら文字化けを起こしているところもあるが今気になったのは治癒(ドレイン)だ。これなら傷も直せるかもしれない。


 だが、肝心なのはイメージだ。これはどうイメージしたらいいかはっきりとは分からないが、字面から見るにエネルギーを与えるのは確かだろう。しかしエネルギーを与えることは贈与(ドレイン)でも可能だ。


 『あ、もしかしたら相手の自己再生力をエネルギーで活性化させるのではないでしょうか?』


 悩んでいると吸収(ドレイン)が何かに気付いたようで、提案してくれたが俺にはさっぱり分からない。


 (む?つまりどういうことだ?)


 『マスターは再生のスキルを持ってますよね?このスキルは魔素、もしくはエネルギーを消費して怪我などを瞬時に治す防御スキルなんですけど、その効果をマスターのエネルギーで限定的に他人に発生させれば習得できるのではないでしょうか。それを踏まえた上で贈与(ドレイン)を応用すれば派生できるのでは?』


 つまりは擬似的な再生を他人に付与するということだろうか。確かにやって見る価値はありそうだ。


 「まぁ、怪我は先に治しておこう贈与(ドレイン)


 「え?うわっ!」


 早速少女の肩に触れて吸収(ドレイン)のくれたイメージを意識して贈与(ドレイン)を使用すると見る間に少女の傷が癒えていった。


 《条件を達成しました。治癒(ドレイン)開放します》


 《条件を一部満たしました。


  治癒(ドレイン)で治療する。1/???

  ???のを吸収する???/??? 》


 少し驚かせてしまったがそこは勘弁してもらいたい。勝手に死なれても困るからな。


 「傷が治ってる……?なんで?」


 「じゃあ王都に行こうぜ。行ったことがないから行ってみたいんだ。案内してくれ」


 困惑しているが無視する。どうせ能力を明かす気なんてないのだから。そんなことよりも王都の方が大事だ。情報と人が集まる王都なら彼女を探す手がかりもあるかも知れない。


 「えっ?何処にあるかも知らないのに王都を目指してたの?」


 「ん?ああ、村じゃそんな情報子供に言うわけないからな」


 俺が王都の場所を知らないことに驚いているが村から一切出ることを許されなかった龍人の子供達の一人だったのだから知らないのは当然だろう。


 「そういう訳でえーと……」


 「ソフィ・メルティーナよ」


 「ソフィ、案内よろしく!俺はアルドだ」


 少し無茶振りするがここは勝手に作らせてもらった貸しを使わせてもらおうとしよう。行く手のないなんて事はあってはならない。


 「はぁ……まぁ助けてくれた恩があるし……仕方ないわね。案内してあげるわよ。しっかり護衛するのよ?」


 どうやら引き受けてくれたようだ。これでやっと王都へ行ける。


 『凄く楽しみにしてるんですね王都』


 (まぁ、目的以外にも観光はしてみたいしね。前世より発展しているのかどうかはかなり重要だからね)


 「王都はこっちよ」


 「今行く」


 ソフィの案内の下俺達は王都に向けて歩きだした。 


           ※


 この日世界に大人数の召喚者がこの世界に現れた。魔王に対する戦力というのが表向きな理由だが今現在魔王は隠遁しており世界は平和そのものであった。今日、この日までは。


 「選ばれし勇者たちよ!貴殿らは魔王を討ち滅ぼすために召喚されたのだ!」


 王城にて国王の仰々しい言葉が響き広間に集められた少年少女たちは困惑する。彼らは国王の命にて召集された魔術師達によって召喚された異世界人なのだ。突如として召喚され惑うなと言うことが無理があるだろう。


 「これってつまり……異世界召喚……!?チートキタコレー!」


 「よっしゃ!人生大逆転だぜ!」


 …………一部の者たちを除いて。


 「これより勇者様方のステータスを計測するゆえ一人ずつこの水晶に触れていただきます」


 司祭がすぐさま動き騒ぎかけていた少年たちを諌め、次のステップへ誘導した。この水晶はかつて大賢者と呼ばれた者の作り出したもので、他人の能力を数値や文字として可視化させることのできる神器であった。


 「じゃあまずは俺からだ!」


 怖いもの知らずといった様子の高校生ほどの男が意気揚々と水晶に触れる。すると近くに設置されたスクリーンに文字が浮かび始めた。


 それははじめは酷く歪んでいたが5秒もすると綺麗な文字に早変わりした。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 (タチバナ)佳祐(ケイスケ)


 Lv1


 筋力 100 防力 100 俊敏 100

 知力 200 魔力 200 


 ユニークスキル


 傲慢(プライド)


 称号


 異世界人、召喚者、傲慢の王


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 「おお!これは素晴らしいステータスじゃ!常人ならこの年で50がやっとのはずじゃがそれを大きく上回っておる!最高の待遇を保証しよう!」


 そのステータスを見て王が興奮した様子で少年―――佳祐に声をかける。しかしその目は人を見る目をしていなかったのだがその距離故に気付く者はいない。


 「ハッ!この世界くらいなら余裕で暮らせるな。俺に従えば分け前くらいならやるぜ?」


 その王の発言に気を良くした佳祐はそのスキルの名の通りに傲慢に頷く。だが、佳祐は気付かない。周囲の召喚者達が冷たい目で佳祐を見ていることに。


 当然だろう。傲慢な性格に傲慢というスキルは信用を無くすことはいとも簡単だ。


 「次は私が」


 悪くなってしまった空気をかき消すように一人の少女が水晶に触れる。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 水瀬(ミナセ)聖奈(セナ)


 Lv1


 筋力 50 防御 25 俊敏 60

 知力 500 魔力 100


 ユニークスキル


 純潔(チャスタイティ)


 スキル


 医療術Lv3


 称号


 異世界人、召喚者、正義の闇医者


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 「おおっ!」


 「すげえ」


 「む、ただの物知りか。ハズレだな」


 そして、その能力に驚く佳祐を除いた召喚者一同。しかし知力には大して期待していないのか不満げに漏らす王一同。


 その反応を微かに察知した聖奈はどう王城を抜け出そうかと算段を練り始めるのだった。


 ………

 ……

 …


 その後全ての召喚者の能力が可視化され所属を分けられることになった。


 そのグループは主に三つ


 単純な者たちの集まりで扱いの簡単な男に女少数。考えるより行動するタイプの者が集められ王直属の配下となったグループ。


 正義感の強く感情論を優先する者たちのグループ。


 そして、我の弱い者や正体不明、不遇能力を持った者たちの集めたグループ。


 グループに振り分けられ、傲る者や不安そうにあたりを見回す者、興奮した者達はまだ知らない。彼ら自身が厄災の種となってゆくことを―――


 「カカカッ!これで世界が我が物になるのもそう遠くない未来だ……!カーカッカッカッ!」


 初めから"魔王"を滅ぼすために呼ばれたのでは無いのだと―――

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