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11話 普通に旅をしたかったんだけど……。


 同年代のガキ共に派手な見送りをされて村を出たアルド。ようやく出たことのない村の一歩外へ踏み出したのだが外は大して目立つことのない平凡な森林だった。


 転生したとはいえ周囲の環境まで劇的に変わるとは思っていなかったアルドからすれば予想していた一つであるが精神的な年甲斐なく心躍らせたくなってしまう。


 「地図もあるし、食料は吸収(ドレイン)で賄えるし、武器は嵩張るし拳でも戦えるから問題ない……よし出発だ」


 持ち物を確認し万全の支度ができていることに頷きつつざっと地図を見て目的地を定める。まずは最寄りの国に属するルインダースという砦街を目指すことに決めたアルドは意気揚々と歩き出した。


 道は簡単に踏み均した獣道のようなもので雨が降ったらすぐにドロドロになるほどのものだが目的地までの目印としては十分だろう。


 ここは比較的肉食魔獣の類が少ないのか小型の草食魔獣がよく見られる。中には巨大な草食魔獣も居たりするのだが刺激しなければ襲われることはないので静かに歩いて通り抜けていく。


 「そう言えばお前に送る養分は一日いくらあればいいんだ?」


 『基本的に無くても良いんですが、私自身のレベルアップになるので積極的に送ってくれて構わないです。上限は特にありません』


 と、暇になってくるほど平和なため能力の細部まで確認しながら森を抜けていく。だが、ついにやることも無くなってしまいアルドはそれを紛らわせるために走り出した。


 するとアルドの体は一気に加速し突風と呼べるほどの風を引き連れて疾走し始めた。身体強化がカンストし派生した俊足の効果も相まってかなりの速度が出ている。


 「ははっ……かなり楽しいなコレ」


 周囲に大きな影響も与えないことも相まって調子に乗って走りだす。余談だがこの速度はこの世界での馬型魔獣よりも速かったらしく目撃した知性ある魔獣達は彼に手を出さぬよう肝に命じたそうな。


 そうこう走ること2分。もう森の出口が間近に迫っていたところでアルドはボロ布に包まれた塊を見つけた。


 「なんだコレ?ゴミか?」


 『……マスター。多分これは行き倒れだと思います。状態異常に栄養失調とありましたので贈与(ドレイン)の使用を提案します』


 「おっとマジか……贈与(ドレイン)!」


 アルドはその塊を見たことがなくそれが何なのか判断を下せなかったが、塊を鑑定した少女の声が行き倒れだと診断。即座にアルドが贈与(ドレイン)を使用したため、直ぐにその塊―――人間の少女が起き上がった。


 「う……ん、此処は……?」


 声からして12〜4歳位の少女が周囲を見回して疑問符を浮かべる。その目はまだ焦点が合わずかなり衰弱していたことが目に見えて分かった。


 よく見るとその服はボロボロだがかなり上質であったようで村で常用する衣類よりは数段も高品質だ。前世のアルドの世界では下級貴族の普段着として着用されていた。


 つまりもしこの少女がが王族貴族ならかなりの厄介事に巻き込まれる可能性が低くないことを示していた。


 (鑑定結果は?)


 『提示します』


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 ソフィ・メルティーア  女 Lv11


 種族:人間族

 才能:氷獄の魔術師、槍騎士

 職業:なし


 スキル


 並列思考Lv1、高速思考Lv1、算術Lv6、

 魔力操作Lv1、水魔術Lv0、風魔術Lv0、

 氷雪魔術Lv3、槍術Lv1


 称号


 追放者、貴族、経済を支える者、影の功労者


 筋力5 知力30 俊敏10 器用15 魔力10


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 アルドが予想していた通り貴族の娘の様だが称号とステータスから判断すると現状に至るまでの経緯が浮かび上がる。


 恐らく星霊の儀で授かった適正職業(才能)の2つがステータスに対応していなかったのだろう。氷獄の魔術師の最も得意とする氷雪魔術は高位の魔術で制御力と魔力の不足で、槍騎士は元より文官よりの生活をしていた彼女には槍を扱うほどの筋力が足りなかったと言うことだろう。


 そして、貴族は面子を重要視して才能を扱えない人物なら容赦なく追放するくらいには腐っている者がいるから彼女の両親もその人種だったのだろう。


 なにせ称号に影の功労者があり、人知れず支配領地の経済管理をしていたのだろうが、そんなことはつゆ知らない彼女の両親は彼女を追放した。


 (そんなところだな)


 『本当にこんなことあるんですね……。架空の設定かと思ってましたけど』


 (まあ、俺の居た世界ではよくあったことだったからな)


 アルドの前世では平和が故に世間体、面子を保ちたい貴族が多く、よく追放貴族が街にいたものだ。


 前世では、スキルは授からずとも天職や生きる上での心構えを受けることが多くそういった内容が深い差別の根本的な原因になっていたのだ。


 「あなた、何故こんな森にいるの?親は?何処から来たの?」


 そうこう話しているうちに完全に覚醒した少女が問いかけてくる。何やら少し偉そうに話しかけてきているが、それもそのはず。現在アルドは6歳。どちらの方が年上か。それは分かりきっていた。


 「ここで行き倒れておいてよく人の心配ができるね。龍人族の6歳。これで意味は分かる?」


 「っっ……!!」


 しかし、アルドも(精神的に年下の少女に)年下扱いはされたくないので、素で言葉を返すとはっと息を呑む少女。どうやら伝わったようだ。


 「えっと……その……ゴメンね」


 「大丈夫、そんな未来は来ないから。それより貴族様はなんで―――っ!?」


 おずおずと謝罪する少女を遮り探りを入れようと話しかけた瞬間に急に身体に変化した。


 背が12歳位に伸び、相応の筋肉が付いて男児といった印象が消え去り一気に五感が鋭くなった。


 何事かと慌てる少女とアルド。だがアルドは直ぐに変化の理由を知る。


 『形態変形スキルと栄養で身体組織を作り変えました。これで旅や会話、体力の問題が無くなります』


 どうやらアルドの不満を解消するために起こしてくれたようだ。確かにこれなら商品の売買でも足下を見られることは少なくなる上に、歩幅も増え旅の速度も上がっているので文句は言えないのだが。


 (次は人前ではできる限りこういったことはしないでくれ。でも、助かった)


 『了解しました、マスター』


 注意をすると少し落ち込んだが礼を言えば直ぐに立ち直った。本当に子供みたいなスキルだなと考えながら貴族っ子を見ればやはり困惑している様だ。


 「な、何が起こったの……?」


 「いや、済まない。この姿のほうが会話が楽だから姿を変えたんだ」


 「そ、そうなんだ……変身魔術なんて使えるなんて凄いね」


 どうやら勘違いしているようだが手の内をおいそれと明かす程俺は馬鹿ではないので誤解は解かないでおく。


 「で、貴族様はなんでこんな辺鄙な所に?」


 気を取り直して聞くと、聞かれることは予想していただろうその少女の口がことの経緯を掻い摘んで告げる。その内容はほぼアルドの予測と当たっており、追放されてから本で得た知識を頼りに野草などを食いつないで生き延びたそうだ。


 「―――なるほど。でも、普通は追放したら直ぐに放置されるけど、君は頭が良さそうだ。多分親も気付いているだろうから、そろそろ盗賊に見立てた暗殺者たちが君を殺しに来そうだね」


 実は追放には続きがあり暗殺による復讐防止は殆どの貴族は行う。もしくは利益上の脅威になる可能性のある芽は執拗に摘み取ろうとするだろう。


 「えっ?」


 少女は顔を青ざめさせアルドの言葉を疑う素振りを見せるがアルドは構わず続ける。


 「……君は表しか見たことがないんだね。賢い貴族を追放するならしばらく放逐させてから事故死を装った暗殺なんてよくあるよ?今も……ほら」


 アルドがそう言葉を切ると近くの茂みから5人ほどの盗賊が飛び出してきた。


 「ようやく見つけたぜ、こいつを殺せば遊んで暮らせるからなぁ!龍人ガキィ!お前は巻き添えだが悪く思うなよ」


           ※


 ふむ……どうやら彼女の両親は暗殺者ではなく本物の盗賊を雇ったらしい。近付いてくる気配の殺し方も拙く即座に殺さない点でコイツらは社会のゴミだろう。


 だが、相手はかなり優勢だ。人数面で。流石に俺もこのままでは勝てない。


 能力や才能を奪ってしまいたいがそれは現実的ではない。一度に全てを奪うにはかなりの時間触れていなければ奪いきれない上に、ステータスに差が大きければ奪うためにそれなりの力を消費する。


 ガキ共は俺が同年代の中でも少し頭抜けていた事もあって難なく奪えたが相手は大人。悠長に吸収していれば直ぐに取り押さえられて殺される。だから俺の取る手は―――。


 (直感、回避、見切りをカンストさせてからお前自身を強化、剛力、剛体をできる限り強化しろ)


 『分かりました。あ、そうでした。学習(ドレイン)は少しずつ分けて使っても効果があるみたいです』


 《スキル【直感】、【回避】、【見切り】がレベル10になりました。【攻撃予知】、【危機察知】を獲得。【吸収(ドレイン)】がレベル3になりました。吸収効率が上昇しました。【剛力】、【剛体】のレベルが3になりました》


 これで多少は問題ないだろう。相手はまだ余裕の雰囲気で俺達を囲いながら下卑た話をしている。


 「なぁ、頭ぁ。殺す前に少し楽しみましょうや」


 「当たり前だろう。そうしねぇとあの偉そうな貴族野郎と会話する気にも起きねぇんだからなぁ」


 隣の少女は完全に怯えてるな。どうする?こいつを人質に取られる前に何とかしないとな。


 あ、そうだ【天眼】使用っと。


 うーん、いい才能は……ん?これは今の状況に丁度いいんじゃないか?


 【形態変形】使って声帯を強靭に変えて、こいつの耳塞いで、後は大声で……。


 「グオオォォオオォォーーーオオオォンッ!!!」


 威嚇だっ!


 《スキル【咆哮】、【威圧】を獲得しました》


 「ぐぁっ!なんだっ!」


 「み、耳がぁあぁあ!」


 「ヒィッ!」


 よし、怯んだ。このままこいつを抱えて木の上に向かってジャンプする。当然俊足を使用しているので軽々登れる。俊足は実際は脚力を強化するスキル。走るだけじゃないのだ。


 「はいっ、ここで待ってろよ」


 「え……?ちょっとっ!?」


 木の上に少女を置いて未だに身動きの取れない一人の盗賊に触れる。


 「強奪(ドレイン)!」


 《【野獣本能】の才能を強奪しました。スキル【適応】、【気配察知】、【直感】、【五感強化】を強奪しました。

 重複した直感スキルを危機察知に統合します。

 【五感強化】、【気配察知】、【危機察知】を獲得しています。全てのレベルが10に達した場合強力な能力に昇華します。

 ……権限より吸収(ドレイン)が【五感強化】、【気配察知】、【危機察知】のレベルを10に強化しました。条件達成。新たに【心眼】、【超感覚】を獲得。

 【心眼】、【天眼】を獲得しました。魔眼系統スキルの獲得及び並列発動が可能になりました》


 おおっ!かなりの強化になったな。心眼は弱点把握や殺気感知に特化しているらしく、かなり強力なスキルなのは間違いない。


 超感覚もより五感が鋭くなって今なら斬撃をミリ単位で避けることも出来そうだ。これはかなり嬉しい。


 「……っと、喜んでる場合じゃない。リーダー以外は始末しないと」


 剛力を発動させてエネルギーまで奪いきった盗賊Aの首の骨を砕く。


 《アルドのレベルが3になりました》


 あ、レベルが上がった。意外と経験値が貰えるんだな。これから盗賊狩りでもしようかな?


 「良くもイスゲを―――!野郎どもこのガキぶっ殺すぞ!」


 やっと動けるようになった四人が、思い思いに攻撃してくるけど、とても遅い。俊足で強化された脚でその速度を乗せてリーダーの右にいた盗賊の首に蹴りを入れる。それに強奪(ドレイン)も乗せてみる。


 直後骨のひしゃげる音と感触、そして、力が流れてくる感覚が流れてきた。どうやら吸収(ドレイン)の効果は攻撃に乗る様だ。


 《【休息】の才能を強奪しました。スキル【気力急速回復】、【疲労再生】を強奪しました》


 《条件を満たしました。奪命(ドレイン)を開放します。》


 《条件を一部満たしました。


  奪命(ドレイン)で命を奪う 1/???

 ???を吸収する ???/???   》


 ん?何かの条件を少し満たしたらしいけど今は保留にして、さっさと片付けないと。


 次の盗賊は鳩尾をぶん殴る。今度は内臓破裂を試してみている。


 「ぐっ……ゲフッ!……があぁ……」


 よし、成功。


 《【隠蔽】の才能を強奪しました。スキル【気配遮断】を強奪しました》


 《アルドのレベルが4になりました》


 「く、くそが……お前等撤退だ!」


 3人部下を殺されてようやく焦ったリーダーの男はやっと撤退を部下に伝えているけど、逃しはしない。


 お前らの罪は貯めた経験値も金も命までも全部差し出してもと償いの「つ」の字にも届かないんだよっ!


 「ぎゃああぁあぁああっ!!」


 「……………………」


 《【虚言】、【看破】の才能を強奪しました。スキル【虚言】、【欺瞞】、【心理解明】を強奪しました。》


 《条件を満たしました。増収(ドレイン)を開放します。》


 《条件を一部満たしました。


  増収(ドレイン)で経験値を奪う 2/???

  ???を吸収する ???/???  》


 「お前等ぁあああぁぁっ!!グッ……」


 呆気なく死んだ部下に向かって泣き叫ぶリーダー。でも関係ない。蹴りで両足を折り、握りつぶして両腕を壊す。最後に鳩尾に拳を叩き込んで意識を刈り取る。


 「強奪(ドレイン)


 《【受け流し】の才能を強奪しました。スキル【衝撃誘導】、【衝撃蓄積】、【反射】を強奪しました》


 さて、これでよし。


 「あなた……何者なの?」


 声をかけられた。ああ、木から降りたのかあの少女は。心なしか顔が青い。これは心当たりが多すぎて返し方が分からないな。


 何故殺せたのかとか、死体はどこに行ったとか、なんで襲撃があるか予測できたのかとかね。


 彼らの死体は残ってない。強命(ドレイン)の効果で全て俺の糧になってもらったから。そう、文字通り全て(・・)。でも、服とか武器は残っている。そもそも吸えないと思うし、証拠品も欲しいから。


 「ただのしがない無能龍人だよ」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 現在の吸収(ドレイン)の機能


 吸収、強奪、学習、贈与、奪命、増収


 付属スキル


 貯蓄、成長、再生


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