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10話 旅立ち


 「なら俺はこの村以外の外の世界を見てみたい」


 そうアルドが告げるとアルテミナとルイスの表情が歪んだ。当然だろう。自身の子があっさりと自分の死を受け入れようとしているのだから。


 初めは自棄になって逃げるために放った言葉だと思いたい二人はアルドの揺るぎない瞳を見てアルテミナは泣き崩れたが、ルイスはアルドが妙に楽観しているように見えて少し困惑する。


 「死ぬ気はないし、死なない。俺は二人の子供だから二人が死ぬより先には死ぬ気はないよ」


 言い訳するようにそう告げたアルド。その言葉を聞いてルイスは少し考える。


 (アルドはいつも自分に不可能な事は言わなかった。おふざけ程度の嘘はつくが他人を困らせる嘘は決してつかなかった。気休め程度の嘘なんて以ての外だ。なら死ぬことはないのか?)


 「そうか……この星霊の儀は成人の儀式にもなっている。つまりお前も一応は大人だ。龍人としては子供でもだ。全て自己責任で生きることと、必ず12の歳で帰ってくると約束するならお前の人生を好きに生きろ」


 「グスッ……アルドちゃん……ズズッ……ちゃんと……帰って来るんだよ……グスッ……約束だよ……?」


 同じ考えに至ったのかアルテミナも泣きながら認める。自身の子が信じてほしいと頼ってくれたのだ。だが、今回は普通なら絶対に認めようとはしないだろう。


 でも、二人の愛する子がもし本当に死ぬとするなら自由にさせ、楽しい思い出を作って欲しいと心から願う二人だから生きて帰ってくることを条件にアルドを認めたのだった。


 「ありがとう、父さん母さん。必ず進化して帰ってくるよ」


 目尻に涙を浮かべ感謝の意を伝えるアルドを二人は抱きしめ子の安全を祈った。その願いが実を結ぶように。


           ※


 闇と静寂に包まれた龍人族の村の入口にたどりついたアルドは一度振り返り村を眺める。両親の二人が眠りについて一時間。別れは既に済ませている。


 6年の龍人にとっては短い時間を過ごした村に思うことはあるが探さなければいけない人が居る。そのうえ村にいても憐れみや気遣いしか待っていないだろう。


 思い出を置いて村を出ようと歩き出そうとしたところで門に人影があることに気付く。それも複数。


 あらかた予想は合っているだろうが気にせず門に向かう。だが、その前に立ち塞がる人影―――同年代の子供たち。その中にボイラーは居なかった。


 「アルド、出ていくんだね。」


 あまり話したことのないレイという少年が問いそれに頷くアルド。その反応に少し戸惑う彼だが、すぐに言葉をつなげる。


 「でも、僕達が君の生き方に口を挟む権利はないけれど―――」


 (殆ど全員ロクに話したことがないけど、心配してくれるのか?優しいんだな)


 そう心配してくれる優しさに嬉しく思い村への執着が戻りかけるが次の言葉でそんな考えは砕け散った。



「―――龍人ができて当たり前のユニークスキルに、あって当然のスキルを持たない無能はさっさと此処から出ていけよ」


 (……は?)


 あまりの言葉に呆然としていると他の子供たちは嘲りの言葉を各々吐きながら笑っていた。しかしその目は笑いの気配は毛頭なく冷酷なまでに冷たかった。


 能力を明らかにする、聞こえはいいがそれは現実や格差を作る要因にもなる。中でも不遇な能力は酷いものになる。このように。


 「お前は6年後に死ぬんだろ?だから出ていかないなら死ねよ!龍人族の恥さらしっ!」


 そう言い放ち何か黒い塊を振り下ろしてくるレイ。アルドは咄嗟に躱しレイたちを見ると暗さで気付けなかったが棍棒やらを持っている。子どもたちは遊びでよく棍棒を作るのだがそれが今回の凶器のようだ。


 力を得て傲慢になったのだろう。寿命の近い命はどうしてもいいのだという勘違いを真理だと正当化した傲慢な子供たちは親や老人から蓄積のことを聞いたのだろう。


 (ああ……そうかよクソガキ共。始めっからこうする気だったのか)


 ―――ならその覚悟は出来てるんだろうな。


 「吸収(ドレイン)の使い方を教えろ」


 「なにブツブツ言ってるんだ!さっさと消えろ!僕は狂戦士の才能があるんだ!命乞いをするなら今の内だ!」


 また武器が振り下ろされる。直情的な攻撃は避けやすい。かすりもしなかった。


 『私は対象に触れてから串肉の時と同じ要領で能力を使えます』


 「おい!全員で殺れ!じっくり思い知らせてやるんだ!」


 レイの合図で他の子供たちも加勢するがいくら才能があろうと経験が無いのなら無に等しい。尚も攻撃が当たらないアルドはレイ達に不安感を与える。


 「避けるのは上手いんだなっ!そうしてられるのも今の内だぞ!」


 その不安感をみんなから拭うためにあえて声を出すレイ。狂戦士の才能を持つ割に冷静な判断をしている事に素質を感じるが今やアルドにとってはどうでもいいことだ。


 そして、その時は訪れる。攻撃の疲労で隙を見せた一人の少女にアルドが触れる。その瞬間少女は一瞬で昏倒した。


           ※


 攻撃を避ける。避ける。また避ける。


 そろそろコイツらは疲労で隙が生まれやすくなっているはずだ。能力を試すのは初めてだが、成功させることは出来るだろう。


 そのまま避け続けその時を待つ。5分経っただろうか。攻撃を避けることより、することの方が体力を消耗するのは当然で扱いなれていない武器を振るうガキ共より慣れ親しんだ肉体で避ける俺に軍配が上がるのは当たり前だった。


 そして、ついに疲労で武器の振りかぶりに時間がかかった女のガキの腕に触れスキルを発動させる。


 「吸収(ドレイン)


 抱く想像は根本の力を根こそぎ奪い去るイメージ。そして、その力を糧に変えるように。


 するとその腕から凄まじいエネルギーの本流が俺に流れ込んできた。まるで血液のように熱く全身が熱を持ったような感覚に陥る。


 『凄まじい量のエネルギーありがとうございます。エネルギーでステータス表示を強化します。これでステータス全ての閲覧ができます。ステータスを上昇させます。』


 するとあの少女の声が響き、肉体が強靭になった。まるで違う、自分の体じゃないみたいだ。とても体が軽い。もっとこの力の仕組みを理解したい!


 《ユニークスキル【吸収(ドレイン)】がレベル2になりました。吸収効率が上昇しました。吸収成功率が上昇しました。》


 次は急に仲間が倒れて困惑しているガキの中の一人に俺から近づき男のガキの顔に触れて吸収(ドレイン)する。


 今度は力とその才能を学び取るように。


 《【見切り】の才能を学び取りました。条件達成。学習(ドレイン)を開放します。》


 ガキはそのまま昏倒した。


 『「へえ……こんな力もある(んですね)のか』」


 残るは3人。


 「な、なにをしたんだ!」


 レイが物凄い形相で睨みつけてくる。他の二人は少し及び腰になってるな。まあ、関係ないが。


 (なあ、レイが溜めてる栄養量って見ることはできないか?)


 『天眼を使えば問題なく見えると思います。もしかして全部奪うつもりですか?』


 (いや、必要な養分をいきなり満たしたらどうなるのか気になるからな)


 要は試せばわかるというものだ。俺は6歳で半分の栄養量が溜まっているから他の奴らも大体そうだろう。つまりレイ以外の二人から栄養量の代わりにエネルギーを貰ってそれをレイにプレゼントしてみようというわけだ。


 「それすら分からねぇの?俺のスキルは無能なんだろ?」


 返事を返した瞬間にレイの左にいた女のエネルギーを吸収(ドレイン)した後学習(ドレイン)を使用して才能を学び取る。


 《【回避】の才能を学び取りました》


 もう一人の女にも。


 《【空間認識】の才能を学び取りました》


 最後にレイに触れて俺の集めたエネルギーをレイが吸収するように吸収(ドレイン)を発動させる。


 「な、何を―――ぐあぁあぁあぁぁぁあっ!」


 《条件を満たしました。贈与(ドレイン)を開放します》


 成功したみたいだ。吸収は吸い取るだけじゃなくてその栄養を成長に回すために『与えて』いることもあるから。試しにやってみたがうまくいった。


 そうだ、このまま進化したら手に負えないから才能を奪えないか試してみよう。


 「吸収(ドレイン)


 《【狂戦士】の才能を強奪しました。スキル【狂化】、【身体強化】を強奪しました。強奪(ドレイン)を開放します》


 よし、これでいい。気になる結果は―――。


 「こ、これは進化……!?ざまあみろアルド!もうお前は逃げられないっ!」


 無事に進化していた。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 レイ  男 Lv1


 種族:龍人族―――狂龍

 職業:なし

 才能:なし


 スキル

 

 龍化Lv1、息吹Lv1、威圧Lv1、破壊強化、

 胃酸強化


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 なるほど、栄養を満たした瞬間に進化するのか。それにしても狂龍か……確かものすごい脳筋みたいな進化だった気がする。魔法を使えなくなったり筋力や運動神経が良くなるとか。


 「どうした?ビビって声も出ないのか?今なら許してやる」


 おっと、俺が考え込んでるうちにイキりだしたガキが喚いてやがる。まぁ、脅威を感じないからステータスを確認しよう。


 あ、ちなみに才能って言ってたけど適正職業を才能って言ってたみたいだ。すっかり忘れてた。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 アルド  男 Lv1


 種族:龍人族

 職業:なし

 才能:物理戦闘職全般(+狂戦士)、炎術師

 

 スキル


 鑑定Lv10、再生Lv7、硬化Lv3、

 身体強化Lv3→4、鑑定偽装、鑑定遮断、

 鑑定妨害、魔力感知Lv10、天眼Lv1、

 狂化Lv1


 ユニークスキル


 吸収(ドレイン)


 加護


 龍王の加護、炎神の寵愛


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 かなり強くなった。さて、あとはあいつを無力化するためには―――。


 (身体強化を最大にしてくれ)


 『了解です…………終わりました。』


 《スキル【身体強化】がレベル10になりました。スキル【怪力】、【俊足】、【剛体】、【直感】を獲得しました。【硬化】が【剛体】に統合されました》


 おお、かなりスキルが手に入った。前世よりも簡単に手に入るから少し感覚が麻痺しそうだよ。


 「やっぱり僕が強くなりすぎたんだ。動くことすらできないなんて惨めじゃないか」


 あ、コイツはまだ勘違いしてるな。そろそろ気付けよ。


 「そうだな」


 俊足で距離を一気に詰めてそう相槌を打つ。


 「っ!?」


 そして驚いた顔で固まったレイに怪力を使った拳をその鳩尾に叩き込む。


 するとあっさりと力が抜けレイは意識を失った。この戦闘時間実に10分。さて、襲ってきて命を奪おうとしたのだから自分たちも奪われる覚悟はしてたんだろうな?


 『命を吸収するんですか?』


 恐る恐るといった様子で聞いてくる少女。


 流石に命まで奪うような残虐さは俺には無い。あるのは―――


 「いや、龍人生を奪うだけだよ」


 レイの才能は奪ったから後は他のガキ共から残さす貰って行くとしよう。


 「強奪(ドレイン)


 《【見切り】、【回避】、【空間認識】、【平衡感覚】の才能を強奪しました》


 もう、出ていこう。こんなクズ達には顔を合わせたくない。幸いにも起きてくる大人はいないようだ。


 俺は門を出てゆっくりと道に沿ってあるき出した。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 現在の吸収(ドレイン)の機能


 吸収、強奪、学習、贈与


 付属スキル


 貯蓄、再生、成長


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

結城 蓮です。


これからより化けていきます。


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また次回合いましょう。

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